第15話

 連れてこられた寿司屋はお座敷だった。

 まったくこういったお店に縁がないわたしとしては「お高いところはこういうとこもあるのかな?」といった感じ。

 だって回転寿司しか行ったことないし。

 お寿司屋さんでお高いとこってカウンターとかじゃないの?目の前で握ってくれるやつ!

「それで、藤堂。色々やらせるつもりみたいだけど、具体的にどうするかは決めてるのか?」

「ふむ、それなんだがな。もう一度こいつにはターゲットになってもらう。」

 そうすれば、依頼としては完了だろう……と。

 確かにそうかもしれない。

 いじめの対象がもう一度わたしになれば、自然と彼女へのいじめはなくなるだろう。

 だけど、そんな上手くいくものだろうか?

「ふざけるなっ!」

 いきなりクルスさんが出した大声に、びくっと体がはねてしまった。

「それは依頼とは明らかに違うだろう!何を考えてるんだっ!」

「おいおい。おいおいオイオイ。お前、勘違いしてるだろ。こいつはな、のが嫌なんだ。そこまで良い子ちゃんじゃあない。」

 ––ただ、俺としてもそんなクソつまらない真似はしたくない。だから、

「お前は明日から、教室という小さな箱庭の中でヒロインになるんだ。」

 そもそもなぜ"いじめ"は起こるのか?

 誘拐犯がペンで紙に何かを書き始めていく。

 こっちに突き出したその紙をクルスさんと見てみると、こう書いてあった。


【原因】

 〈被害者〉

 他の人より劣っているため。

 空気が読めない。

 周囲に溶け込めない。

 〈加害者〉

 自分を肯定するため。

 リーダーであることを自覚するため。

 存在意義を見つけたいため。


「これは、確かに……。」

〈被害者〉の欄を見ると、3つの内2つは見事にわたしに当てはまっている。

「ええと、つまり、被害者側になる条件を潰すってことが目的でいいのかい?」

 たぶんだけど、そうじゃない––。

「ヒエラルキーのトップに行け……。そういうことですよね。」

「そういうことだと思ってもらっていい。自分より明らかに上にいるやつに、普通は手を出そうとは思わないだろう?聞く限りだと、相手は相当馬鹿みたいだから確証はないがな。」

 だから、まずは見た目か……。

 人の第一印象は見た目で決まるし、間違ってはないのかな?

「随分と息の長い話になりそうだが、少しずつやっていくしかないな。」

「待て待て!結局僕は何をしたらいいんだ。」

 ここまで空気になりつつあったクルスさんが口を開いた。

「おい。雨乃木、苦手な教科はなんだ?」

「数学……ですかね。」

 よし、と膝を叩く。

「お前、教えてやれ。できるだろ?家庭教師の仕事だって来るんだから。それから朝は髪のセットもしてやれ。10分でな。帰りは迎えに行って事務所で勉強。完璧だな!」

 それはまずくない!?無報酬でそこまでしてくれないでしょ!

「それでいいならまぁ……。雨乃木さん、悪いけど他の仕事があるときは難しいかもしれない。それでもいいかい?」

 してくれるんだ……。

 あんまりすぎるよ。このお人好しが!って叫びたい気分だよ。

「……よろしく、お願いします。」

 語彙の乏しいわたしにはこれしか言えなかった。

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