第12話

 犯人の写真を撮ってから、わたしは少し学校へ行くのが楽しみになっていた。

 悪趣味だけど、どうやり返してやろうかとか考えていたわけで。

 運良くその3人はほとんど一緒に行動しているようで、すぐにわかった。やっぱりクラスメイトだったし。

 名前も席も出席簿に貼っている紙をちょっと拝借して確認したので、まず間違いない。担任は席替えをしない主義で、席が替わることはない。

 となると……。まず、わかりやすいことから始めようか。

 放課後、図書館で時間を潰したあと教室へ向かう。

 誰もいないことを確認し、その3人の机に少しずつ落書きをしていくことにした。

 わたしが書いたと分かるように、わたしの机に書かれた落書きをできるだけそのまま書いていく。相合い傘の落書きは、わたしの名前じゃなくて3にんの名前にする。もう片側にはデブ山と書いていたのでそのまま書く。

 デブ山が誰かは知らないけど。


 二日目に気づいて、三日目になるとわたしだってばれた。当たり前だけど。

 下駄箱に呼び出しの手紙が入っていたけど無視した。

 四日目、五日目と少しずつ3人の落書きがわたしの机とお揃いになっていく。

 土日をはさんで翌週、3人に捕まったけど逃げた。それからは1人にならないように気をつける。

 これ以上放課後に落書きをするのが難しいと判断したわたしは、朝早く登校してもう何日か続けた。

 ちなみにこの間にもわたしへの嫌がらせは続いていて、教科書は破れているとこも増えたし、ノートは水浸しにされた。

 もうバレているのはわかってるから教科書は3人の内の1人と交換させてもらった。ノートは写させてもらおうと思ったらろくに書いてなかったので諦めて、提出する先生に直接出した。

 置き勉(教科書やノートを学校のロッカーや机の中に置いて帰ること)してるのが悪い。


 そんなこんなで、3人が先にキレた。

 予鈴ギリギリに来て、また机の落書きが増えているのを見たときだった。

「いいかげんにしてよっ!」

 キレるのはやっ!わたしも結構ひどいことされてるんだけど?

 その中の1人がハサミを鞄から出した。たぶん、リーダー格の子。

 あ、これやばいかも。

 ハサミを持ったままこっちに来ると髪を乱暴に掴まれた。座ったままだから横に引っ張られてすっごい痛い。

 暴れたら余計な怪我をするかも!となぜかやたら冷静だった。

「こんなきれーな髪しやがって!ムカつくんだよ!!」

 そんな理由!?

 あまりにもイジメの理由がしょうもなくて衝撃だった。

 ジャキジャキジャキ––、髪が端から切られていく。文房具用のハサミだとなかなか切れないだろうなーと思いながらも、筆箱からハサミを取り出して持つ。

 ジャキンッ。掴まれていた分の髪が切り終わってから、相手の髪をむんずっと掴んで引っ張った。

「危ないから、ハサミ離して。」

 この子の髪、わたしと同じくらいの長さだな……。

 ジャキジャキ––。

 同じように切っていく。

「え––?エッ––??」

 ジャキン。

 その子は落ちた髪を手に取って呆然としていた。





「––というわけで、1週間前にこんな髪型になりました。」

「なかなか……壮絶でちょっと頭が追いついていないかも。」

 口の端をひくひくさせながらも、はさみはショキショキと心地いい音を立てていて、丁寧に髪が整えられていく。

 この人上手なのかな。

「その後大変だったんじゃない?先生に怒られたり……。」

「んーとですね。今までのいたずらの証拠とか全部写真撮ってたので、それを担任には見せました。その担任がまたクズでして。他の先生にバレないように、必死で喧嘩両成敗だとか言い出したんですけど。なので、この頭のまま職員室行って大泣きしながら写真ばら撒いてきました。」

「……そのために、1週間もそのままで?」

「えっと、それもたぶん、あります。けど……。」

 どうして、このままでいたんだろう。言葉が見つからなくて、黙ってしまった。

「……そっか。辛かったかい?」

「ちょっと、辛かったです。髪を切られたときは、かなり、こたえたというか––。」


 泣いて、しまいたくなりました。


 消え入りそうな声で言ってしまってから、ちょっと後悔。わたしってこんな声出すんだ……。

「そっか……。」

 ショキショキと、はさみの音だけが聴こえる。

「まだ名前言ってませんでしたね。僕、クルスって言います。変な名前でしょう。」

 くすくすと笑う彼は、すごく素敵に見えた。

 顔も整ってるから、たぶんカッコイイ人なんだと思う。

「わたしは雨乃木あめのきです。雨乃木沙希さき。」

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