第11話

 わたしははぐれ者だった。

 学校という小さな世界の中で、わたしの存在はどこか異質なんだと思う。

 特別仲の良い友達もできず、休み時間もずっと本を読んで過ごしていて、休日もどこかに遊びに行くことはない。

 何かを強く欲しいと思うことも、クラスのみんなが夢中になることも、何一つだって理解できない。

 そんなわたしが、今までいじめの対象にならなかったことはある意味、奇跡だったのかもしれない。

 明らかに教室から浮いている存在。誰とも干渉しようとしないわたしが、初めてそれいじめらしきことをされたのは二ヶ月前のことだった。

 いつも通り帰ろうとしたその日、学校の入り口にある下駄箱の前で靴を履き変えようとしたときに、取り出した靴のなかに紙で包まれたガムが入っていた。単なる悪戯いたずらだろう。そう思ってわたしは入り口にあるゴミ箱にそれを捨てた。

 その日の翌日から、それは少しずつエスカレートしていった。

 次の日の朝、上靴の中にまた噛んだ後のガムが入っていた。今度は紙で包まないまま––。

 きもちわる。そう思いながらまた同じように捨てた。

 その次の朝は画鋲。流石にこれは、とこの頃から写メで撮っていくことにした。

 その次の日は上靴が片方なくなっていた。どこに行ったのかと探すと、1階の教員用の男性トイレに転がっていた。

 次の日からは机や持ち物に落書きが増えていった。

 そうして一ヶ月が過ぎた頃、いつも通り学校から帰ろうとしたとき体操服を教室に忘れたことを思い出した。一晩学校に置きっ放しなのも嫌だったし、取りに行った。

 教室に入ろうとしたところで、わたしの机の周りで何人か女子生徒の声がしているのに気づいた。

 誰がこんないたずらをしているのかとイライラしてたし、いい加減にして欲しい!って思い始めていたので少し様子を見ることにした。

「あいつばっかだよねーwww」

 クスクスと笑い声がする。

「ねぇねぇ。今度は何書く?」

「もっとエッチなやつ書いてやろーよ。できれば下品なやつ。意外と顔まっかにしたりしてwww」

 わたしはこっそりとスマホを取り出してカメラを起動した。学校で堂々と撮影はできないから、随分前にシャッター音がしないアプリを入れていたし。

 そっと開いている隙間からカメラ越しに覗くと、ミニスカの3人がいた。2枚撮った後、できるだけ横向きや顔がわかる写真を撮っていく。

 図書館に寄っていたこともあって、もう校舎にはほとんど人もいなくて都合が良かった。

 最後にわざと扉を鳴らして、驚いてこっちを向いた写真を撮った後、できるだけ急いで、なるべく足音を立てず下駄箱まで走った。流石にバレるとまずいと思って––。

 追いかけてくる様子はなかったけど、会わないように気をつけながらその日は帰った。体操服を忘れてたことはちょっと後悔したけど。




 家に帰ってから、わたしはどうやってこの面倒くさい「いじめ」らしきものを止めさせようかと考えた。

 クラスメイトの顔なんてろくに覚えてないけど、なんとなく見覚えがあったからたぶん同じクラスだろう。

 落書きが随分多くなってしまった教科書にはうんざりしたが、少しスッキリした気分で、久しぶりに勉強がはかどった。

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