第8話

 クゼが猟銃を片手でぶっ飛ばした後日談。

 民間救助隊を運営している丸山さんに宛てる請求書の金額欄を、クルスはじっと見つめていた。

「やっぱり、50万は高すぎだろう……。でも1人一日3万が普通だとすると、午前中は20人使ってたらしいし……。」

 ううむ。と頭を抱えても金額は決まらない。

「取り敢えずコーヒー飲もう。」

 お腹も空いたし、と食パンをトースターに放り込む。

「毎回金額で悩むんならおんなじ金額にしちまえよ。」

 もう日はそれなりの高さにあるのに、クゼはお気に入りのソファでごろごろしている。

「馬鹿か。仕事内容と結果がお金と見合ってないと仕事が来なくなる。それに仕事をするにもお金がかかるんだからな!ガソリン代に諸々の機材……しっかり利益はもらわないと。今回は始めからそれなりの金額になることがわかってたからサーバまで持ってったわけだし。」

「役に立ったの一瞬だったじゃん。」

「それはお前のイヤホンが壊れたからだっ!」

 あのあと、ノートPCの画面にはanimal動物と出てきていた。それを伝えようとしたがなんの弾みかイヤホンが壊れ、クゼには届かなかった。猫か野良犬くらいしか考えてなかったのに、熊だとは思わなかった。だからいきなり銃声がしたのは驚いし、山岳警備隊になった"元"刑事の近藤さんにしっかりとお灸を据えられてしまったのでクルスは少し不機嫌だ。

「そんなに古くないのに、なんで壊すかなぁ……。」

 チンッとなったトースターから、ガションと焼けたトーストが飛び出た。マーガリンを塗ってかじる。

 んぐんぐと咀嚼しながらテレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが黙々と立て篭り事件の原稿を読み上げている。

「今日も、ひとは……。」

 溜め息をついてテレビを消す。見ていても憂鬱になるだけだ。トーストの残りを口に押し込んで、少しだけ考えると請求書にペンを走らせた。

「丸山さんに請求書届けるからそろそろ起きてよ。」

「んーめんどくせーなぁ……。あ、おい。」

「?」

 近づいてきたクルスの口元に腕を伸ばし、ついたパンくずを指ですくって口へ押し込めた。

「え、付いてた?」

「ついてた。」

 うんっと伸びをして勢いをつけて起き上がるとよっしゃいくかーと頭をかく。

「そういえば昨日のあのガキさ、からだのあちこちに怪我してたぞ。」

「?そりゃ、山の中を二日も歩いてたら怪我をすることもあるでしょ。」

「いや、それがよ、どこで怪我したんだってきいたら家の前で転んだっていうんだよ。肌の色が変なとこはどうした?ってきいたらココアを飲もうとして火傷したっていうし。なんなんだろな。」

「……クゼ、新しく行くとこができた。児童相談所に先に行こう。丸山さんに請求書を渡すのはそのあとだ。」

「児童相談所ってことは虐待か?」

「あぁ。典型的な身体的虐待だ。まずは証拠になるものを集めないと。」

 短い灰色の髪をワックスで整え、細い銀縁の眼鏡をかけ、安い黒のスラックスと少しシルクの混じったYシャツを着る。請求書が入った革のビジネスバッグを持つと、

「じゃあ、いってくるよ。」

 片隅の椅子に座っている人形のような彼女に声をかけ、部屋を出て行った。

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