第7話
「止まれぇっ!!」
力の入った身体が軋む。ゴクリと喉がなる。
ノートPCの画面に出している地図に、クゼが30秒前に通り過ぎたところから"human"の文字が出ていた。
「––っ止まれぇー!!」
「?!い゛っっ!」
突然の大声に転びそうになった。
「なっ、なんだ––。」
「––ク、ゼ。ゆっくり、来た道を、戻って。」
何か、見つけたのか……?唾を飲み込む。足音をあまりたてないようにしながら、まず180度回転する。
(来た道を、ゆっくり……。)
土を踏む音ですらうるさい。
(どこだ……。どこだっ……!)
ゆっくり。ゆっくり。静かに。
「……ち、かいよ。ここから––。」
辺りを見渡す。細い木がまばらに生えていて、傾斜が他に比べて少しきつい。
「いねぇよ。ここらへんはそんなに木はないし、地面も、隠れられるとこはない。」
声が届きそうな遠くの方まで目を凝らすが、どこにもいない。
(もしかして……下か?)
左側を足元から舐めるように見ていく。わかんねぇよ。とボヤきながら、少しずつ下る。
「クルス、声きこえたら教えてくれ。」
思ったよりも傾斜がきつい。油断すれば足を滑らせてしまいそうだ。5メートルほど下りたところで、人が一人隠れられそうな山の斜面が出っ張っているところを見つけた。上からでは気づかない。
「おい!誰かいねーのか!」
さあっと風が吹いていく。鳥がチチチッと鳴く。必死で耳を澄ますが、聴こえてくるのは人の声じゃない。居ないかもしれない。けれど、そこにいるという不思議な実感があった。ずりっと足を滑らせながら一気に下りる。
みえた。
そこには、小学3年生くらいの男の子。
「おいっ!しっかりしろっ!」
薄っすらと目を開けて、唇も顔も血の気がないが、「だ、れ……?」微かに唇を動かす。ふふっと笑うと、クゼは自慢気に言った。
「おれはな、お前を助けに来た、救世主さ。」
まだ封を切っていないスポーツドリンクをバッグから取り出して飲ませると、安心したようだった。壊れ物を扱うように抱き上げ、ようとしたその時だった。
––ガササッ!
低い木の茂みから音がした。
(おいおいっ……!マジでフラグじゃねぇか!!)
ゆっくりと男の子を左で抱きかかえ、バッグとは別に、斜めに掛けていた横長の袋のひもを右肩にかけ、ファスナーに手を伸ばした––。
捜索を開始する5分前––。
「もし出ちゃったら、打ってもいいよ。ちゃんと許可は出てるから。」
「打っちゃっても、って言われてもよ……。」
念のためで、普通は猟銃まで準備しない。
「大丈夫だって。もし出たら、だから。」
めちゃくちゃフラグ立ってるなぁ、とか思ったが、持ってりゃ安心だしまぁいいかと考えるのを止めた。
そして今、クゼは警戒真っ只中。
猟銃の入った横長の袋をゆっくりと空けていた。
(うおぉぉおおおっ!どーすんだよなんなんだよてかホントにクマか?クマなのか!?タヌキとかだったら笑いもんだぞ!てかタヌキでいてマジで!)
またガサガサっと音がして、灰色っぽい茶色い毛が見えた。
(やっぱクマじゃねーかー!)
ハッと左の腕を見る。今この子を救えるのは、おれしかいないっ!!
残りのファスナーを思いっきり手前に引く。引き金より手前の部分を掴み、腕全体を使って体の右側へぶん回す。袋が飛んでいき、猟銃が姿を現した。
嫌な気配を感じ取ったのか、こっちへ突進してきた。
片手で狙いを定める。引き金にはまだ指はかけない。真っ直ぐに伸ばしたまま。
なりふり構わずがむしゃらに、毛むくじゃらの物体がこっちへくる。
まだ構えない。指も引き金にかかっていない。
口を大きく開け、太い前足が持ち上がる––!
バンッ!!
弾は眉間に命中し、ドスンっと倒れた。
「クマって、以外と小さいのな。」
撃ったクマの大きさは、抱えている音の子と同じくらいの大きさだった。
注意!)①猟銃に弾をこめるのは、獲物が見えて
から。
②両手で構えましょう。
③打つ瞬間まで、絶対に引き金に指を
かけてはいけません!
※日本では猟銃の所持・使用には免許が入ります。他にも色々なことで雁字搦めです。用法・用量を守り、正しく使いましょう。
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