第6話
「クゼ、準備できた?」
「たぶんバッチリ。……やっぱ上脱いでいい?」
「ヒルに噛まれたいなら。」
アウターは保温するために着るものなので、少し暑苦しい。ヒルの他にもムカデやヘビもいることを考えると、あまり軽装で行くのもよろしくない。
スポーツドリンクが二本入った肩掛けの鞄は、走るときに邪魔にならないよう、なるべく身体に密着させる。迷った時のためのGPS、マイク付きイヤホン、腰のところにはクワガタの角に似た突起が付いている何かの機械。
「何コレ。」
「集音器。」
よくわからない機械は嫌いだ……。また壊したら怒られるんだろうなぁ。と思うと溜め息がでる。
「あと、念のためにコレ。使い方覚えてる?」
「おう!ばっちり!」
「……ほんとに?」
「……。」
「……そこに指南書あるから、読んどいて。あと5分で始めるから。」
渡されたそれも、斜めに肩に掛ける。
そんじゃあ一丁、人助けにいきますか。
ザクザクザクザクザクッ!!
足をとられる柔らかい土、地上でうねり絡まる木の根、靴裏ですべる腐った腐葉土、そんなもの気にも止めず走る。低い枝はくぐり抜ける。倒木は飛び越える。
「––つ、ぎは––ザザッ。みぎをッ、すぐ!」
耳のイヤホンからクルスの指示が飛ぶ。カクンッと折れ曲がり突き進む。時々子どもがいないか目を走らせる。どこにもいない。早く、はやく!
「クソぉ!」
涼しいキャンピングカーの助手席で、クルスはノートPCの画面からクゼの現在地や通った道を見ていた。画面の中の黄色い点が徐々に移動し、通ったところに小さな文字がポツポツと表示されていく。
「うーん……やっぱ上手くいかないか。せっかくサーバまで持ってきたのに。」
「この音……表示出来ないように……。先にノイズ処理を……?うぅん。」
ぶつぶつと言いながらカタカタと忙しなくキーボードを叩いていく。画面の上で、クゼが山を反時計回りにぐるりと走っていく。
「相変わらず常識外……。」
普通は人が入らない山なんか、歩くことすら難しい。
「あ、次そこ右に真っ直ぐ!ちょっとずれてる。戻って!うん。そんな感じ」
細かくマイクから方向を指示しながらも、キーを打つ手は止まらない。ニヤリ、と笑う。
「やっぱ持ってきてて正解だったね。こんなこと、ノーパソだけじゃフリーズするよ。」
画面に表示されていた文字がほとんどなくなっていた。かわりに
「人海戦術以外で、目に頼って探すことは難しい……。僕達にできるのはせいぜいこのくらい、か。」
歩いているなら、声がだせるなら、まだ見つかる希望はある……。しかし、この状況だとかなり厳しいことはわかっていた。
僕なら……僕なら、どうする?元の場所に戻ろうとする……。いや、やっぱり下だ。川を見つけて、下ろうとする。でもこの山に川はない。日が暮れたあとは?動物や鳥の声があちこちから聴こえるのは相当な恐怖のはず。洞窟か、なければ大きな木や岩に寄りかかって寝るかもしれない。いやダメだ、そんな場所地図にはのってない。憶測で探す方が効率が悪い。やっぱりクゼに走り回ってもらうのが、一番手っ取り早い。
「くそっ……。」
これ以上の事は、できない。日は長いとはいえ、木々が生い茂った山はどんどん暗くなる。クゼはやっと山を半周しようとしているところだった。ノートPCは新しく拾った音からノイズを除き、音声データと波長を比較し、一番近いものを表示していく。今また新しい文字がピコンっと出てきた。
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