第2話

 おれは世の中の人を救う救世主だ!

 と、びしっという効果音が聴こえそうなポーズを取りながら人に言われる日が来るなんて、そりゃあ、さっき私は自分に言ったよ?

 ジャージの救世主って……。(今更ながらぜんっぜん締まらない)

 でもそんな大真面目に不真面目なこと言わないでよ。

 あ、これなんかのアニメで聞いたことある。

 聞いたことのある言葉を、まるで自分の物のように振り回すなんて、なんて子供っぽいんだろう。

 子供だけど。

 子供というほど子供じゃないけど、大人ってわけでもない。

 だってまだ18年しか生きてない。18歳––なんて中途半端な年齢。

「えーと、見たところ怪我は無さそうだけど、一応病院行っとく?」

 どうしよ。さっきまでぼっこぼこに人を蹴っててめちゃくちゃ頭痛い人から、常識的な上に良心的すぎることまで言われてしまった。

「い、いえ。だいっ、だいじょぶですっ!」

 不思議そうに首を傾げているジャージの救世主、もとい頭の痛い人は「そっかー」と言いながらどこかへ電話をかけ始め、相手も待っていたかのようにすぐに繋がった。

「終わった。あとは?」

 さっきまでとは打って変わったような、声色。それでやっと、わざとあんな話し方をしていたのだと気付いた。

 何度か言葉を交わしたあと、じゃ、戻るから。と電話を切ると、もとの調子に戻った。

 ちょっとうざい。

「もうじき警察と救急車来るから、待っててねー。事情聴取とか超めんどくさいけど、今逃げるともーっと面倒だから大人しくしててねー。」

 あれ?私なんもしてなくない?

 むしろ男二人にしつこく絡まれた挙句殺されかけた可哀想な女子高生だよ?だよね??まるで私自身がお巡りさんにお世話になるように聞こえたんだけど。

 いやでも巻き込まれた側だから、お世話にはなるのかな。

 だめだまた混乱してきた。

「君制服だけど、中学生?たいへんだねー。」

「高校生です。」

 ちょっとカチンときた。どうせ童顔ですよ。背も低いですよ。寸胴ですよ。

 たいへんだねーって近所のおじいさんか!

「お、来たみたいだねー。じゃおれ帰るから。逃げちゃダメだよー。」

 茶目っ気たっぷりなVピースにむかついて、私は犯罪者じゃねー!と叫びたかったが、とんでもない快足で去って行ってしまった。

 ……どうでもいいけど見惚れるくらい綺麗なフォームだった。



 車の止まる音と、人の足音。青い制服の警察官。救急車の担架で、金髪と黒髪が運ばれていく。

 ちょっとすみませんけど、お話聞かせて下さいね。と、殺人未遂犯にまで丁寧な警察官。

「怖かったかもしれないけど、お話だけ車の中で聞かせてくれるかな。」

 そう声を掛けられて、やっと、さっきまでのことがどれだけ非現実的でいて、どこまでも現実なのだと、気付いて、

「あ、あぁぁっ……!!」

 目を背けられていた恐怖が這い上がってきた。


 所詮、私は普通の人間でしかない。

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