第60話 ずびばぜんでじだ

「で、何がどうなったら自分の妹に説明するような状況になったんだ?」


 俺はクラスメイト達からの視線に耐え切れず、利久りく理香りかを連れて屋上へと来ていた。と言うより、何をどうしたら自分の恥ずかしい話を実妹に話すような状況になるのか?あまり深入りしたくはないが、ここまで来たら聞かざるを得ないだろう。


「実はここの所、兄の様子が変だったんです」


 しかしそれに答えたのは利久では無く妹の理香の方だった。まあ、利久の方は満身創痍と言った感じで、地べたに体育座りで下方をぼけーっと見ている。大丈夫かこいつ。


「そういえば、なんかぶつぶつ言ってるとか以前聞いたな」


「そうなんです。で、昨日から「どうしよう」とか「やばい!」とか机に座って頭を抱えている事が増えまして」


「・・・」


 まあ、騙されてたとは言え、人の話を全く聞かず、挙句の果てに教室の皆が見てる前で俺をぶん殴ったわけだしなあ。しかも、ギルドの皆を勝手に敵認定してたし。


「なので見かねた私が小一時間くらい問い詰めたんです。正座させて」


「あ、そ、そうなんだ。正座させてね。ふーん」


 実の兄を正座させて問い詰めたのか。しかも1時間も。怖いよこの女・・・。話を聞いてると、頻繁ひんぱんに自室にいる兄の様子を監視しているとか、相変わらずのブラコンじゃねーか。


「そしたら、ゲーム内で新人の女に「利久君だけが頼りなの~」とか言われて、良い気になった馬鹿兄が調子に乗って「彼女を救えるのは俺しかいない!」って一人で突っ走って!」


 そう言いながら利久を一睨みする理香。そしてさらに続ける。


「大方、ここで良いかっこ出来たら俺にもワンチャンあるかも!って思ってたんでしょ!って問い詰めたら「なんでわかったんだ!?」みたいな表情するし。もう最悪ですよ!」


 屋上の手すりにもたれかかりながら腕組してそういう理香に対し、利久は地面に体育座りして小さくなっている。


「大体何か問題があったらギルドマスターに報告するのが基本でしょう?それを自分が良いかっこしようとか思うから、こんな大問題に発展するのよ!」


「け、けどさ?あまりにも真面目に言われたら信じちゃう事だってあるだろ?だったらなんとかしてあげようって思うのも仕方ないだろ・・・」


 そこまで大人しくしていた利久だったが、あまりの言われようにさすがに腹がたって来たのか、控えめながら反論を試みたようだ。しかしそれがいけなかった。反省の色無しと見たのか、理香はますますヒートアップしていく。


「はあぁ?大体お兄ちゃんが最初に団長に相談しておけばここまでこじれる事は無かったのわかってますかぁ?下心で動くからこうなってるんですよぉ?あなたは発情期の動物か何かですかぁ!?」


「そ、そこまでいう事・・・」


「と言うか、以前もあったよね?真司先輩に対抗してギルドの懇親会みたいなのを無茶苦茶にした事!私忘れてないんだから!」


 あー、そういえばそういう事あったな。名目は懇親会だったけど、実は利久と理香をゲーム内で引き合わせようという計画だった。何故か利久が自分のお披露目会だと勘違いして、散々な結果になるところだったんだよなあ。


「な、なんでその話が出てくるんだよ!全然関係ないだろ!・・・ん?いやちょっと待て!なんでお前がその話知ってんの!?」


 利久からそう言われた理香は「はっ」とした顔になっていた。そういや、理香が「お兄ちゃんLOVE」ってキャラクターって事は利久には内緒にしてたんだった。まあそりゃ、兄から口説かれまくってブチ切れていた事なんか言えるわけないな。


「お前何で知ってるんだよ!」


 利久に詰め寄られた理香は完全に形勢逆転されており、縋るような顔で俺の方を見ている。仕方ない。ここは俺が理香の為に一肌脱いでやろう。


「利久」


「なんだよ?」


「俺が話したwww」


「はああああああああっ!?お前ふざけんなよ!」


「うるせえ!お前が隣の席の女の子キャラ口説いてた事も全部話してやったからなwww」


 嘘は言ってない。利久が妹と知らずに口説いていたのは事実だし、以前屋上で理香に利久の行動の理由を説明したのも事実だ。


 俺の言葉をを聞いた利久はさーっと顔を青ざめさせて理香の方をちらっと伺った。


「とにかく!お兄ちゃんが余計な事すると色々とこじれるの!」


「でも・・・」


「でもじゃないの!大体先輩がそんな事するはずないの、考えればすぐわかるじゃない。なんでその女の言う事をほいほい信じちゃうのよ・・・」


「だって、ヒカリさんが「ギルドの皆はライデンの扱いがひどいよねー」とか「もうちょっとライデンの事大事にしても良いはず」って同情してくれたし。俺の事よーく見ててくれたんだよ!」


 なるほどなあ。そういう優しい言葉を投げかけて利久を懐柔していったのか。


「いや、大体お兄ちゃんがギルドの皆さんから多少色物で見られてるのって、自業自得じゃない」


「はあ!?なんでだよ!」


「いや、懇親会の時の「俺のお披露目会」発言とか、あと途中で幽霊部員になったくせに、何もしてないお兄ちゃんが何で偉そうに色々としゃしゃり出るのよ?」


「いや、あれはその・・・」


「SNSのフォロワーも伸びてないし、ヨーチューブの再生回数も全然伸びてないじゃない!大体ねえ・・・」


「理香理香さん、その辺で・・・」


 俺はあまりにも利久が可哀想になって理香を止めた。利久を見ると無表情で地面を見つめている。もちろん体育座りのままだ。


「と、とにかく!お兄ちゃんは真司先輩に謝罪しなさい!」


「・・・ずびばぜんでじた・・・」


「あ、うん・・・」


 俺は半泣きになって謝ってくる利久の謝罪に、そう答えるしか術を持って無かったよ・・・。

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