第59話 お兄ちゃんからです

「先輩!何やってたんですか遅すぎです!」


 燈色ひいろからのヘルプ要請に応じて、昨日の出来事を回想しながらログインした俺は、早々に燈色から遅いと怒られてしまった。


「いやお前、昨日の今日で、まさかログインしている奴がいるとは誰も思わんだろ?」


燈色「何故です?」

ブラッチ「何故だ?」


 ほぼ同じタイミングで似たようなセリフを打ち込む二人。あれ?なんか燈色とブラッチの考えがシンクロしてね?


「いやだって、昨日あんな事があったばかりだし、なんかこう入りにくいじゃん?」


「そうよ。万が一ヒカリとかと顔でも会わせちゃったらうんざりするでしょ?」


 俺の言葉に珍しく里奈も同調する。


「昨日あんな事があったのにログインするような度胸があの女にあるとは思えませんけどね」


「燈色の言う通りだ。我の野望を邪魔する人間が居なくなったという事は、心置きなく欲望のままにプレイできるという事ではないか」


「その通りですよ!これからは何のうれいも無くゲームに集中できるというものです」


 やばい、まじで燈色さんがブラッチと完全同調してる!しかもヒカリさんの事を「あの女」呼ばわりだぜ・・・。


 とは言え、この二人の言う事には一理あると思う。昨日の今日でログイン何かしてきた日には一体どんなはがねメンタルなんだと、それはもう驚愕きょうがくのあまりちびってしまうかもしれん。


 しかし昨日の態度を見る限り、そういったメンタリティーは持ち合わせていないと見た。なので今日はそんな心配をする必要は無いだろう。だからと言って、この二人みたいに平気でログインするような度胸も無いけどな。


 しかし今一番の心配事はそこじゃない。


「それにしてもやっぱり千隼ちはやさんは来ないですね・・・」


 せっかくログインしたし、4人で狩りにでも行くか?となって、ブラッチのLV上げを兼ねた狩りに来てしばらく経った時の事だ。燈色がそんな話をしてきた。やっぱり燈色も気になってたんだろう。


ダーク「昨日のログアウトの仕方がなあ、何と言うか千隼さんらしくないというか・・・」


エリナ「そうなのよねえ。私も気になって連絡してみたけど、応答が無いのよ」


 俺の言葉に里奈が反応してそう答える。てか、里奈にも返事しないって相当じゃねーか?


ブラッチ「やはり、職場の後輩?から嫌がらせをされていた事が、かなりショックだったのではないか?」


エリナ「そうかもねえ。まあ、しばらくはそっとしておいてあげましょう」


 珍しくブラッチがまともな意見を出し、これまた珍しく里奈もそれに同調していた。けど、本当にそれが理由だろうか?理由はわからないが、俺はイマイチその結論に、腑に落ちないでいた。


 とは言え、自分でも理由がわからんのだがら特に異議を挟むことも無く、俺達はそのまましばらくの間狩りをし、そしてその日は解散となった。


 次の日。


 学校では俺を避けている利久りくだったが、その日も登校してきた俺を見るなりどこかへと行ってしまった。まあ別にいいんだけどさ。


 とか思ってたら昼休み。俺は友達と机を付けて昼飯を食ってたんだが、その俺達の机の所に何と利久がやって来た。いや、正確には妹の理香に首根っこをつかまれて連れて来られた・・・と言ったところが正解かも。クラス中からの俺達に向けられる視線が痛いんだが。


「えっと理香、どうした?」


 しかし理香は俺の言葉には反応せず、実の兄を俺の前にずいっと差し出す。


「ほら、お兄ちゃん!真司先輩に言う事あるでしょ!」


 しかしその言葉に顔をプイっと俺から明後日の方向へ向ける利久。その瞬間理香が利久の頭を思い切りはたき、パチーンと良い音がクラス中に響き渡る。うわぁ、超痛そう・・・。


「何すんだよ!」


「何すんだよ!じゃないわよ!お兄ちゃんが全部悪いんだから、ちゃんとごめんなさいしなさい!」


「俺だってだまされてたんだから被害者だろうが!」


 利久がそう言った瞬間、理香のこめかみの所に「怒りマーク」が現れたような気がした。


「なーにが被害者よ!ろくに話も聞かずに正義のヒーロー気取って、友達より知り合って間もない女の言う事を信じた挙句あげく、真司先輩に暴力をふるって暴言まで吐いて、んで最後は逆切れ!?チョー最悪なんですけど!」


 理香が一気にまくし立てる。自分の妹から、今回の喧嘩の原因を赤裸々に暴露されて、利久の方は顔を真っ赤にして涙目でぷるぷる震えている。


「え?何?あの喧嘩って女絡みだったの?」

「えー、黒部君と火雷からい君が女の子を巡って喧嘩?」


 等など、クラス中からそんな声が聞こえてきた。いや待て!なんか俺も巻き添え食らってるから!


「えっと、理香はその話を誰から聞いたの?」


 当事者の一人としていたたまれなくなった俺は、話を別の方向へ持っていこうと話題を振ってみた。


「お兄ちゃんからです」


「・・・は?」


 え?何?こいつ自分で妹に話したの?一体どんな状況だとそんな話になるんだ?非常に興味はあるが、ここで説明を求めたりしたら、利久のヒットポイントはもたないだろう。そして俺も巻き添えを食らうのは嫌だ。なので俺はここで話を終わらせることに。


「ま、まあ、今後気を付けてもらえば・・・」


「実はですね、私の方から問い詰めたんです!」


 そんな俺の配慮にもお構いなしで、俺の言葉を遮り状況を説明しようとする理香。


「よし!ちょっと屋上に行こう!」


 俺はもはや、この世の者とも思えないようなうつろな表情の利久と、話す気満々の理香を半ば強引に屋上へと連れて行った。クラスのど真ん中であんな目立つ状況なんか耐えられんわ!

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