第55話 里奈の話

 あの日は確か、俺と燈色ひいろ、そしてヒカリさんの3人がログインしている状態だったと記憶している。


 俺が倉庫で整理をしていると、ヒカリさんがギルドチャットで話しかけてきたんだ。


「ダークさん、狩り行かないっすか?」


「あ、いいですよ」


 もちろん即答したさ。初心者を育てることは将来の有望な仲間を増やしていることになると言う里奈の言葉には、一応俺も賛同している身だしな。そういうわけで、ヒカリさんが行けそうな場所を幾つかピックアップしていた。ところが・・・。


「あの、深淵しんえんの森ってとこに行ってみたいっす」


 とかヒカリさんが言い出した。


「ヒカリさんってレベル幾つでしたっけ?」


「18っす」


 じゅ、じゅうはちかあ・・・。深淵の森は正直中の中くらいのプレイヤー向けの狩場だ。ヒカリさんが遠距離アーチャーとは言え、モンスターから狙われたら正直助けられる気がしない。


「ヒカリさんのレベルだと深淵の森はちょっときついかもしれません。浜辺あたりはどうでしょう?俺もレベル18くらいのキャラいるんで」


 なので脱初心者してきたかな~って人に最適な浜辺を提案したんだ。俺も同じくらいのレベルのキャラでいけば、経験効率も良いだろうしね。あまりにレベル差がありすぎるパーティーを組むと、低レベルの人に経験値が入らないからね。


「あー、ちょっと深淵の森に興味があったんですけど。じゃあ大丈夫っす」


「え?いや、狩りなら付き合うけど?」


「いえ、大丈夫っす。ありがとうございます」


 それがその時交わした言葉だったと思う。


「えっと、こんな感じだったと思います」


 俺は覚えている範囲でギルドの皆に説明をした。あれ?そういえばこの時くらいからだったか?こいつらが挨拶しなくなったのは。


「なるほど・・・。うーん、今の話じゃ無視したにしてはちょっと無理がある気がするんだけど」


 俺も団長のその言葉に全くの同意だ。


「お前嘘ついてんじゃねーよ!」


 しかしそれに異論を唱えたのはまたしても利久りくだった。もうこいつ何なの一体・・・。


「嘘なんかついてねーよ。一字一句同じかと言われたらわかんねーけど、大体今のやり取りをしたのは間違いない」


「俺は知ってるんだぞ。お前が「レベル18?そんなレベルで深淵とか無理に決まってるでしょwww」ってヒカリさんに言ったこと!」


「は?」


 なんだそりゃ。俺はそんな事一度も言った事ねーよ!つーか無視の要素はどこに行ったんだよ!無視の無の字も出ねーじゃねーか!


「あの、先輩はそんな事言ってませんでしたよ。さっき先輩が言ってたように浜辺を提案していました」


 俺が頭に血が上って、なんて言い返してやろうかと考えていると、燈色が俺の擁護ようごをしてくれた。そういえば燈色があの場にいて、一部始終見てたんだった。


「ほら、燈色もそう言ってるじゃねーか」


「お前といつもべったりのその子の言葉なんか信用できるか。大方お前とつるんでるんじゃねーの?」


「ちょっと利久君!言って良い事と悪い事があるでしょ!」


 俺が怒りの感情剝き出しで何かを書こうとしたら、先に千隼ちはやさんが怒ってくれた。千隼さんは燈色ラブだからな。そういえば、一番最初のオフ会の時から燈色を心配しているような人だったのを俺は思い出した。しかし・・・。


「千隼さんもそっち側でしたね」


 利久の反応はこうだった。もうこいつ、自分とヒカリさん以外は敵認定してないか?こりゃ何言っても無駄な気がしてきた。そう思い始めた時だった。


「はい、そこまでよ。団長、後は私に任せてもらって良いわよね?」


 突然里奈がそんな事を言い始めたんだ。いやお前、突然お前が仕切るとかそんなことが許されるわけねーだろ。


「そうだねー。そろそろ潮時かな~。里奈ちゃんの出番は出来れば無いほうが良かったんだけどね~」


 しかし何と団長は容認するようだった。え?一体どうなってるんだ?そんな俺の困惑を他所に姉貴は構わず話を開始する。


「実はね、私の先輩がとある会社に勤めてるんだけど」


 姉貴はいきなりそんな頓珍漢な事を言い始めた。こいつ何言ってるんだ?と思ってはみたものの、団長がOKしたのなら何か裏があるのかもしれない。そう思い黙って聞くことにした。


「は?いきなり何関係ない話してんの?」


 しかし利久の方は構わず里奈にそう言っていた。まあ、そりゃそうなるよな。


「あんたは黙ってなさい。私はヒカリさんに聞いてるの」


 しかし姉貴にそういわれ利久は押し黙った。


「それでその先輩から面白い話を聞いたの。最近後輩がブラックアースを始めたってね」


 さすが日本でもユーザー数上位を誇るブラックアースだぜ。里奈の先輩の務める会社にもユーザーがいたとはな。しかし、それが今回の件とどんな関係があるんだ?


「でね?その先輩が言うには、その子は嫌がらせの為にブラックアースを始めたらしいの」


「へ?」


「え?どういうことです?」


 俺と燈色はほぼ同時に驚いていた。それはそうだろう。まさか嫌がらせの為にゲームを始める奴がいるなんて思いもしなかった。


「ある日その子が自分の先輩・・・そうね、仮にK先輩としときましょうか。あ、K先輩は私の先輩とは別人ね」


「なんかややこしいな・・・。エリナ師匠の先輩はA先輩とかにしたら?」


「そうね。じゃあ私の先輩はA先輩で」


 里奈の奴も話していて同じように思ってたんだろう。俺の提案をすぐに飲んでくれた。


「それでその子はK先輩のスマホを覗き見たらしいの。そしてそこには自由同盟のホームページ」


 ほうほう。なんか全然関係ないじゃんとか思ってたけど、ちょっと関連してきたな。


「で、K先輩はとある人物の名前でブログに感想を書き込んでいた・・・」


 という事はそのK先輩って自由同盟関係者か、ブログのファンって事だよな。う、うーん、なんか思ったより大事になってないか?


 なんか一人で色んなもやもやを抱え込むのが面倒になった俺は、この複雑な気持ちを誰かと共有すべく燈色にスカイポを送った。里奈は話してる最中だしな。


「どうしました?」


「いや、なんか一人で聞いてるのがちょっと・・・」


「あーわかります。なんかこう、消化しきれないというか・・・」


「だよなー」


 やっぱこいつもそうだったようだ。こんな話一人で聞けたもんじゃねーよ。誰かと共有して無きゃこんな話聞いてられん。


 そしてさらに里奈は話を続けた。

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