第54話 ギルド会議

 さて、わが自由同盟で行われる会議は、初っ端しょっぱなから重苦しい空気を漂わせたままスタートした。まあ、千隼ちはやさんを怒らせた利久りくが全部悪いな、うん。


「えーさて、今回の会議の議題は、最近ギルド内がちょっと・・・じゃないな、暴力まで出てるならかなりギスギスしてる件について~」


「団長軽っ!」


 思わず突っ込んじまった。4次元ポケットから何かを取り出す未来型ロボットみたいな言い方で開始するとは思わなかった。


「いや、雰囲気が重苦しかったから、言葉だけでも軽くしようかなーって」


「団長への信頼ポイントがマイナスになりそう」


燈色ひいろちゃんひどい!・・・まあそれはともかく・・・」


 余計な小ネタを挟んで団員からの信頼をマイナスにする必要がどこにあったのか、はなはだ疑問だが、とにかく今度こそ本題に入るようだ。


「ここ最近、ログインしても挨拶あいさつしない、又は返さないという人をちらほら見かけます」


 団長の第一声はそれだった。まあ、それをやっているのは利久達なんだが。そこはあえて言わないつもりなのかもしれないな。


「ギルドに入団する時に言ったと思うけど、いくら忙しくても挨拶は必ず行う事。まあ、戦闘が激しすぎて、ログを見逃したって可能性は否定しないけど、ここのところずっとだからね。これは看過かんかできません」


 団長の言い方は優しいが、有無を言わせない迫力を持っていたと思う。


「それから、他人の悪口を話すのは特に止めたりはしないよ?でもそれが、リアルにまで飛び出し、それも暴力行為に至るようならば話は別になってくる」


「はあ!?何だよそれ!人の悪口って、悪いのは真司の方だろ!」


 団長から悪口云々って話が出た途端、利久が団長に食って掛かった。と言うかお前、自分が悪口を言ってましたって自白してるようなもんだぞ。いいのかそれで。


「大体悪口って言うけど、ヒカリさんはただ単に不満を言ってただけだ!悪口なんかじゃない!」


 この利久の発言を聞いて、俺は「え?」ってなってしまった。え?悪口言ってたの利久じゃねーの?ヒカリさん?え?なんで?


「大体な、真司がヒカリさんを無視するからいけないんだろ!」


 俺がヒカリさんを無視ってなんで俺が無視するんだよ。無視するほど話し込んだことも無いんだけど・・・。俺は頭の中がいよいよはてなマークでいっぱいになっていた。


 もしかしたら俺が見ている現実は実は現実では無くて、実際の俺はギルドメンバーを無視しまくりの最悪野郎って可能性が・・・あるわけねーだろ。


「何か言う事無いのかよ!」


「いや、全く心当たりが無いんだが・・・。あのヒカリさん、俺どこで無視しました?」


 俺は利久に無いと答えヒカリさんにはそう尋ねた。だって心当たりが本当に無いんだぜ?もし本当に無視してて、俺がそれを無視だと自覚してないのなら、さっき言ったような俺は相当な最低やろうという事になる。


 しかしこれまでの人生で、そんなレッテルを貼られたことは幸いにも経験が無い。


「・・・」


 しかしいくら待ってもヒカリさんからの返答はなく、某国民的RPGの「ただのしかばねのようだ」というあのセリフが思わず浮かんじまった。


「お前さ、ヒカリさんから狩りに誘われただろ?」


「俺が?ヒカリさんに?」


 俺の問いかけにはヒカリさんじゃなく利久が返答してくれた。と言うか、あったっけそんな事?


「あの、良いんです私大丈夫ですから」


 文章だけ見ると、俺から無視されても気丈に振舞ふるまうヒカリさんと、そんな事さえ忘れている最悪野郎の俺。いやいやいやいや!俺が大丈夫じゃねーよ!え?まじで覚えが無いんだけど!?


「ていうかさ、なんで団長は俺達がそういう話をしてたって知ってるわけ?」


 利久の言葉に俺も「そういえば」・・・となってしまった。団長はなんで利久たちの内緒の悪口選手権の内容を知っているんだ?狩りする時はパーティーチャットで会話するだろうから、他人には見えないはずなんだが。


「我が説明しよう!」


 この重苦しい空気の中突然会話に割り込んできたのは、この所存在感ゼロで空気のようだった、自称黒の王ことブラッチだった。


「なんでブラッチが説明すんの?」


「黒を制する者よ、我はブラッチではない!」


 いや、それを言ったら俺も黒を制する者じゃ無いんだが、今はそんな事どうでもいい。


「どうでも良いから早く説明しなさいよ!」


「っく、一体我を何だと思っているのだ・・・」


 姉貴に怒られしぶしぶ対応するブラッチ。やばいな~久々にショートコント「ブラッチ」を見る事が出来たぜ。しかし何故団長が知っていたのかの詳細が知りたいので変な茶々を入れるのはやめておこう。


「何、団長がそれを知っているのは当然だ。何故ならこの我が報告していたのだからな!」


「はあ!?てめーチクってたのかよ!」


 ブラッチの言葉に利久がぶちキレていた。なるほど。やけに団長が詳しかったのは、ブラッチから報告を受けていたからか。


「チクったとは心外だな!何やら不穏な空気にギルドがなりそうだったので、事前に対策を打つために相談していただけだ!」


「またなんでそんな面倒そうな役割をしていたんだ?」


 俺がそう聞くと、ブラッチは待ってましたと言わんばかりに高速でチャットを返してきた。


「ふっ、この夜の覇王がせっかくギルドに加入したというのに、こんな下らない事で崩壊されては困るからな!」


 まじかよブラッチ・・・。初めてブラッチをカッコいいと思ってしまった。しかしお前、夜の覇王じゃなくて皇帝じゃなかったっけ?


 それにしても、という事はだよ?今回の事件、俺をヒカリさんを無視した最低野郎に仕立て上げようとした主要な犯人は利久とヒカリさんという事になる。いかし正直利久の奴がそんな事を画策かくさくするとは思えん。


 あれ?そうすると消去法でヒカリさんが犯人になってしまうわけだが。え?ヒカリさんが犯人?なんで?そういえば俺を誘ったけど無視されたとか言ってたけど、結局あれは一体何の事なんだ?


「くそ!なんでみんなで俺達を悪者にすんの!?ヒカリさんを無視した真司が一番悪いんだろうが!」


 そして話がまた元に戻ってしまった。しかし俺はヒカリさんから狩りに誘われた覚えが一切ない。いや待て・・・。誘われた覚えはないが連れて行ってくださいと言われたことはあるな。深淵しんえんの森に・・・。


「あのちょっといいですか?」


「何だい真司君」


「あの、誘われた覚えはないけど、連れて行ってくれと言われた覚えならあります」


「ほらみろやっぱり!」


 利久が勝ち誇ったように言ってきた。うぜー。正直ちょっとうざったくなってきた。


「真司君、そのまま続けてくれる?」


「わかりました」


 そして俺は、ヒカリさんから狩りに連れて行ってくれと言われた時の事を皆に話し出した。

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