第53話 憂鬱な月曜日

 姉貴が利久りくをぼこぼこにしてやると言ったのを必死に俺が止めた日から2日が経っていた。それはつまり、利久が何で怒ってたのかを姉貴が知っている、と言った日から2日経っているという事になる。


 何が言いたいのかと言うと、俺は何も知らされていないまま悶々とした気持ちを抱え、週末の2日間を過ごしたという事だ。一体どうなってるんだ・・・。


 結局姉貴の奴、利久がなんであんな事になっているのかについては教えてくれなかった。「今度ギルドで会議するからその時教えるわよ」とか言ってさ。おかげでこっちはずーっとすっきりしない気持ちで過ごしているという訳だ。


 週末をそんなすっきりしない気持ちで過ごしたまま月曜になり、俺は学校へと向かった。俺が教室に入るとすでに利久は登校しており、二人が揃ったところで教室が少しばかりざわついたが、特に大きな騒ぎになる事もなく放課後を迎えた。


 その間利久とは一度も会話することは無かった。と言うか、徹底的に無視されているというのが正解だろう。俺の方でもムリに話したりはしなかったしな。


 そして学校が終わり家に帰ると、何故か里奈の奴がすでに家に帰っていたんだ。


「あれ?俺より早いの珍しくね?」


 里奈の奴、受ける講義が無くて早く帰れる日でも、大抵は過去の論文や研究結果レポートを読み漁ったりして、帰るのは俺より遅くなるのが普通なんだ。


「今日は会議をするわよ。団長にもその旨を伝えてあるから」


「え?いつの間にそんな事になったんだ?」


「あんたがログインして無い間に」


 なるほど。俺は土日の週末は、利久と鉢合わせるのを避けるためにログインしなかったんだよ。割とどうでもよくなっていたとは言え、ゲーム内と言えども会ってしまったら、また言い争いにならないとも限らないからな。


「それは良いんだけど、なんで平日の月曜なの?」


「色々と理由があるのよ」


「ふ~ん」


 まあ俺としては何曜日にやろうが、なんで利久があんな事になってるのか理由が分かれば何でも良いんだけどな・・・等と思っていた。それにしても憂鬱ゆううつだぜ・・・。


 そしてその日の夜。


「こんばんはー」


 俺は自分のパソコンを起動させて、ブラックアースにログインした。


「やっほー真司くーん」


「こんばんはです」


「やあダーク君」


「真司君こんばんはー」


「来たわね」


 この挨拶だけで誰が誰か名前を見なくてもわかるよな。そして相変わらず例の3人、利久、ヒカリさん、ブラッチからは挨拶が返ってこない。


「さて、今日は皆へのお手紙でも知らせしたように、全員強制参加のギルド会議をします。なのでみんな「屈強な冒険者の集い亭」に集合ね」


 それに対しみんな「は~い」とか「了解です」とか返事をしている。が、やはり例の3人からは返答が来ない。


「えっと、ライデンとヒカリちゃんとブラッチは聞こえてたかな?集い亭に集合だよ~」


 なのでもう一度団長が声をかけていた。すると・・。


「あの~、実は私達狩りに出かけちゃってて・・・」


 と、ヒカリさんが言い出した。


「ええ、なんで?」


「すみません、メールの存在に気が付かなくて・・・」


 一瞬「なるほど」と思いかけたが、利久が一緒に行っている時点でそれはおかしいだろうという事に気が付いた。


 と言うのが、利久には昨日の時点で今日会議がある事は直接告げられていたはずなんだ。という事は、一緒に狩りに行っている利久から知らされていると考えるのが普通だろう。


「えっと、ライデンは昨日直接聞いたから知ってるよね?教えてあげなかったの?」


 俺と同じ疑問を団長も持ったのだろう。チャットで利久にそう聞いていた。そして団長からそう言われた利久は、


「ああ、どうせ俺がいてもいなくても、会議の結果には影響しないでしょ?だったら狩り行ってたほうが良いかな~って」


 とか言いやがった!


 なんかこいつ、この週末をはさんで余計にこじらせてないか?俺とか姉貴に言うならともかく、団長にまでそんな口を利くとは思いもしなかったぜ。


「あはは、何言ってるんだよライデン。だったら最初から声を掛けたりしないよ?必要だから招集をかけてるんだよ~」


 利久の返事でギルドチャットが一瞬凍り付いた気がした。それを感じてか、団長の返答はかなり柔らかいいわゆる大人の対応だった。あんな若造に小生意気な返事をされて、俺が団長の立場だったらブチ切れてギルド追放とかやってるね!


 しかしそんな団長の気遣いを知ってか知らずか、利久の野郎はこんな返事をしやがった。


「あ、もう結果とかどうでもいいんで。適当にやっといてください」


「おい!お前なんて言い方するんだ!失礼だろうが!」


 俺が絡むと面倒なことになるのはわかってはいたが、どうにも我慢ならなかった!何が適当にやっておいてくださいだ!今日の会議はお前らが議題だっつーの!


 そう打ち込んだ瞬間、隣の部屋のドアがばたんと開き、ドスドスドスという足音が聞こえたかと思うと俺の部屋のドアがバント開き、そこにはスリッパを手にした里奈が立っていた。そして次の瞬間「スパコーン」と、俺の頭にスリッパがクリーンヒットした。


「あんたが絡むと碌なことにならないから黙ってなさいって言ったでしょ!」


 そして怒られた。ふとゲーム画面を見ると・・・。


「はあ?何だこの野郎!また殴られてーのか!?」


 等とヒートアップした利久が、ギルドチャットに書き込みしていた。


「ほら見てみなさい。案の定、あいつ切れまくってるじゃない」


「・・・はい、すみません」


 っく!いつもなら逆上した里奈を俺が諫めるのがお約束だったのに!なぜこうなった・・・。とは言え、団長辺りが上手く収めてくれるだろう。そう思っていたのだが。


「え?利久君が真司君を殴ったの?なんで?」


 ところが次の発言は団長ではなく、千隼ちはやさんだった。


「え?いや、それはこいつがとんでもない奴だから・・・」


「それにしても殴るって相当じゃない・・・。なるほど、だから団長が会議するって言ったのね」


「いや違うんです千隼さん!全部真司が悪くて・・・」


「結構です。会議で話は聞きます」


 千隼さんにぴしゃりと言われて利久は黙り込んでしまった。取り付く島も無いとはこういうのを言うんだろう。千隼さん、怒らせると怖すぎるぜ・・・。


 しかし利久の言い分を一切聞か無かったところを見ると、やはり千隼さんも俺たち同様に思う所があったのだろう。一体この会議はどうなってしまうんだ・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る