第52話 え?なんで?

 家に帰り鏡を見ると案の定、利久の奴に殴られたところがれあがっていた。明日が学校休みだったから良かったものの、平日だったら腫れが引くまで休まなきゃいけないとこだったぞ。


 もうあれだ。今日と明日はおとなしくひきこもってゲームでもしておこう。そう思っていたのだが・・・。


 ピンポーン。


なんでこう、家に俺以外誰もいないときに限って来客があるんだろう?よし、居留守しとこ。


 ピンポンピンポンピンポンピンポン!


「だーーーーっうるせえええっ!誰だよピンポン連打してる奴は!」


 居留守を使っていたらチャイムを連打してきやがった。誰だよ一体・・・。


「はいはい今開けますよ!」


 そう言って玄関のドアを開けると、そこには燈色ひいろ理香りかが立っていた。


「あれ?お前らどうしたの?つーか、チャイム連打すんじゃ・・・ん?どした?」


 途中までピンポン連打の文句を言おうとしてたんだが、どうにも二人の様子がおかしい事に気付いた。なんかやけに、シリアスな表情をしているというか・・・。


「あの、今日先輩がうちのお兄ちゃんと喧嘩したって聞いたんだけど・・・」


 しばらくすると理香が遠慮がちに聞いてきた。


 げー、あの騒ぎ1年の所まで伝わってたのかよ。あんな小競り合い程度で違う学年にまで話がいくとか、なんつー平和な学校だ・・・。


「いや、喧嘩っつーか、俺が一方的に殴られただけだ」


「あう・・・ごめんなさい・・・」


 俺がそう答えると、理香が超涙目になって謝ってきた。


「いやいや、今のは俺の言い方が悪かった!別に責めてるわけじゃないから!」


「でも燈色ちゃんから、昨日お兄ちゃんの様子がおかしかったって聞いて・・・」


 オウ、燈色さんそんな事を実の妹さんにお話になってイタノデスカー。


「あの、とりあえず上がれば?」


 それはともかく、俺は二人に家に上がるよう促した。こんな玄関先で話してたらご近所にまた俺が女の子を泣かせてたとか噂になってしまう。そんな話がうちの母親の耳にでも入った日には、後で色々と詮索されるのがオチだ。


 そんなわけで俺は二人を部屋に入れてとりあえずお茶とお菓子を用意した。


「先輩よく見たら顔が腫れてる・・・」


 おーっと燈色さん、さらにこのタイミングでそれを言うのか。お前はもっと空気を読める子だろう!今そんな事言ったらさあ・・・。


「ホントだ・・・。ううっ・・・」


 ほらー、理香がまた泣きそうになってるじゃねーか。つーか君たち、たかが喧嘩だよ喧嘩?いじめとかじゃないんだよ。


「いやだからさ、理香のせいじゃないって言ってるじゃん。しかもそんなに腹も立ってねーんだよ」


「ホントに?」


「ホントホント」


 理香の言葉に、俺はあくまでもかる~く、何でもない風を演出しながら返事をした。もうこれ以上、この場の空気がどんよりするのは嫌だ!


「でも昨日は怒り心頭でしたよね」


 おーい!もうお前絶対わざとやってるだろ!?燈色の言葉に俺まで涙目になりそうだ・・・。


「いやそれはともかくだな、理香は家で利久の様子が変だったとかはないのか?」


 もうこの話題を避けようとすると変な方向へ行っちゃうので、あえて深く話してみることにした。


「うーん、なんかね、ぶつぶつ文句言ってるのは何度か見たかも」


「文句?」


「うん。ゲームしながら「まじかよ信じらんねーなあいつ!」とか「最低だな!」みたいな事を言ってた」


 うーむ、今回の件に結び付けて考えると、俺や燈色の事をディスりながらゲームしてたって解釈はできるけど、これだけじゃなんとも言えないな。


 ただ、独り言の内容からして、誰かから話を聞いて、その反応として上記のような発言に繋がっているようにも聞こえるな。


 って事は、あいつが最近一緒に狩りしているのは「ヒカリ」さんと「ブラッチ」の二人だ。この二人が俺達の悪口を言ってて、それで利久が怒ってるって事か?


 いやでも、あの二人に恨みを買われるほど俺達は親しくはない。仮にブラッチだったとして恨まれるなら俺より里奈だろ。「くっこの」だのなんだの言ってたしな。ヒカリさんに至っては軽い世間話くらいしかしてないぞ。


「先輩?」


 気付くと理香が俺の顔を覗き込んでいた。どうも長い間自分の思考の中に入り込んでいたようだ。


「悪い悪い。まあとにかくだ、俺はもうなんとも思っちゃいないし、お前のせいでもないから。はい、これでこの話終わり!」


「・・・わかりました」


 俺の強引な終了宣言に理香は納得していない様子だったが、しぶしぶ頷いてはくれた。


 そしてその後俺達は、3人で学校の話なんかをしながらヨーチューブを見たりして、そして夕方になったのでその日はそれで解散した。


 そしてその夜。


「あんたその顔・・・まさかた本当に喧嘩したの!?」


 俺の予想に反して、かなり驚いた様子で姉貴がそう聞いてきた。昨日は「傷薬用意して待っててあげる~」みたいな軽口を叩いていたくせに。


「喧嘩っつーか、俺が一方的に殴られて終わっただけだけどな」


 本当は喧嘩した・・・って事で説明にしたかったんだが、後で一方的に俺が殴られただけで終わったなんて話が里奈の耳にでも入ろうもんなら、そりゃどんな嘲笑を姉貴からうけるかわからない。


 だから、昨日利久から言われたことや、今日の会話内容なんかも里奈には話したよ。少しでも俺への被害が軽減されることを願ってな!なのに・・・。


「はああああっ!?あいつ殴ってきたの?あんたは手を出してないのに!?」


 俺の予想に反して里奈はめちゃくちゃに怒っていた。しかも俺にじゃなくて利久の奴に。


「え?あ、うんまあ・・・そういう事になるかな?」


 なので俺はやや動揺しながらそう答えたのだが、俺が話し終えるかどうかわからないうちに、里奈の奴部屋を出て玄関に歩き始めた。


「おい、どこ行くんだよ?」


「ちょっとぼこぼこにしてくる」


「まてええええええっ!どこに誰をぼこぼこにしに行くつもりだ!」


「そんなの利久の家に乗り込んで、あいつをぼこぼこにするに決まってるでしょ!」


「待て待て待て!俺はもう怒ってないし、これ以上事をでかくすんじゃねえ!」


「むううう」


 馬鹿にされるか怒られるかのどっちかだと思ってたら、まさか利久に対し激怒するとは思わなかった。しかも家族団らんの時によそ様の家庭に乗り込んで、そこの息子さんをぼこぼこにするとか、お前が捕まっちゃうから!


「そもそも利久が何であんなこと言ってるのかもわからないんだ。まずはそこから調べたほうが良いんじゃないか?」


 利久が一方的に話してきたのを聞いて頭に来たって経緯もあって、なんであいつがあんなに怒ってるのか、まだ詳しい話を聞いてないんだよな。利久の奴も俺とのやり取りで相当ヒートアップしてたし。


 それにあいつはあほだが性根が腐っているような奴ではない。正義感なんてものが存在するなら、多分俺よりも熱いハートを持ってると思う。


 なのでまずは、あいつがなんでこんな事を俺達に言ってきたのか、そしてそんな行動を取っているのかを調査しようと俺は姉貴に提案したんだ。


 ところが俺は、里奈の口からとんでもないセリフを聞いてしまう。


「利久がなんであんな事やったかなんて、とっくにわかってるわよ」


「・・・え?」


 え?まじでわかってるの?なんで?

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