第50話 お前何言ってんの?

 それまでずっともくもくと狩りしていた・・・であろうヒカリさんが話しかけてきたので、おれはちょっと驚いた。つーか、いるならいると言ってくれよ・・・。


「どうしたの?」


 そんな俺に構わず千隼ちはやさんが対応している。


ヒカリ「あの、あんな事書かれて千隼さんは頭に来ないんですか?」


千隼「あんな事って・・・掲示板に書かれてた事?」


ヒカリ「はい。あの、私だったら腹が立って仕方ない状況だったので、ちょっと不思議に思って・・・」


 なるほど・・・。ここ最近の俺たちの会話で、掲示板で千隼さんの事についてある事無い事書かれていることについて話してたから、そりゃビギナーのヒカリさんでもある程度察しはつくか・・・。


 で、なんでそこまで言われて、こうもひょうひょうとこの人はしているんだろう?ってところだろうか。


 なるほど、わかるよその気持ち。俺だったら絶対へこんでゲーム引退の文字さえ浮かんできちゃうね!


千隼「いやあ、私だってちゃんと怒ってるよ?」


ダーク「え?」


 俺は思わず声を出してしまった。だって千隼さん全然怒るどころか、この状況を楽しんでいる節があっただろ。あの状況を見て、100人が100人千隼さんが怒っていたなんて認識するはずがない。


千隼「え?じゃないよー。もう「おこ」だよ「おこ」!激おこぷんぷん丸だよー!」


 いや、やっぱり怒ってねえじゃねーか・・・。


ヒイロ「これは大変です。千隼さんが激おこです。はやく怒りを鎮めないと・・・」


千隼「さあダーク君、早く!早く私の怒りを鎮めるのよ!」


 えー、なんだこれ・・・。


ダーク「じゃあ、どっかに狩りに行きましょうか」


千隼「やったー」


ヒイロ「このやり場のない怒りをモンスター共にぶつけてやりましょう」


千隼「おー!」


 いや、直接モンスターをたたくのは俺だし、千隼さんは回復だし、ヒイロに至っては補助じゃねーか・・・。一体どこにぶつけると言うんだ・・・。


「えっと、そういう事らしいですヒカリさん」


 俺はもはや、質問者の事をすっかり忘れているであろう二人に代わって、ヒカリさんに返事をしておいた。


「あ、はい、わかりました。すみません変な質問しちゃって」


 いやたぶん全然わかんなかっただろうなあ。何故ならおれもわからなかったからだ。そして俺達はそのまま3人で狩りへと向かった。


◆◇◆◇◆


「こんばんはー」


「先輩こんばんはー」


「おう」


 ある日俺が、ゲームにログインして挨拶すると、今日は珍しく「ライデン」と「ヒイロ」がログインしていた。と言うか、今は俺を含めてこの3人だけらしい。珍しいこともあるもんだ。


 つーか、ヒイロとライデンの二人で一体どんな会話が繰り広げられていたんだろう?すげえ気になる。


「なあ、たまには3人でどっか行ってみるか?」


 中々この3人の組み合わせと言うのはレアだから、俺はせっかくなので二人を仮に誘ってみた。ヒイロは回復キャラも持っているし、行けないことは無いだろう。


「あ、じゃあ私回復やりますよ」


 ヒイロが俺の意図を察してくれたのか、そう言ってくれた。あの孤高の存在だったヒイロさんが、自分からこんな事を言ってくれる日が来るなんて、俺は感無量だぜ。まあ、なんちゃって孤高だが。


「いや、悪いけど俺はパス」


 てっきり「よっしゃー!ヒイロちゃんとデートだぜ!」と俺の存在を無視するかのような発言と共に提案に乗ってくると思われたライデンが、素っ気なく断りを入れてきた。


「あー、今日もブラッチとヒカリさんと一緒か?」


 最近やたらと一緒に行動している事が多いからな。つーか、いつの間にそんなの仲良くなったんだ?


「そうだよ。悪いのか?」


 利久りくから不機嫌そうな返答が返ってきて、俺はちょっと固まってしまった。え?俺なんか、あいつの機嫌損ねるような質問したっけ?たぶんヒイロも利久の返答に困惑しているのだと思う。全く反応が無い。


「いやいや、悪いなんて一言も言ってねーよ。お前何言ってんだよw」


 俺はなるべくその場を明るくするよう、めったに使わない「w」を使って発言した。


 考えてみたら、ここのところずっとこいつとは会話していない気がする。と言うか、大体利久が先にログインしていることが多いんだけど、俺が挨拶しても返ってこないんだよな。


 そう考えたら、ヒカリさんとブラッチからも返事が返ってきてない・・・。あれ?俺何かしたっけ?全く思い当たるところがないんだが。


「つーかさ、お前、ちょっと自分の事しか考えなさすぎじゃね?」


「・・・は?どういう事?お前何言ってんの?」


 俺がこいつらに何か悪いことしたっけか?なんて考えていたら、利久がそんなことを言い出した。俺が自分の事しか考えてないだと?何言ってんのこいつ?


「お前はいつだってそうじゃねーか。自分の気に入った人としか狩り行かねーし」


「はあ?そんなの普通だろ?」


 こいつ何言ってんの?そりゃ普通自分と親しい人と一緒に遊ぶだろ。なんで仲良くない奴と一緒に好き好んで遊びに行くんだよ。


「お前がそんなんだから傷ついてる人だっているんだよ!なんでわかんねーの?」


「じゃあ俺が誰を傷つけたって言うんだよ!言ってみろよ!」


 俺は完全に頭に来ていた。そもそも俺は仲悪い奴と遊んだりなんかしない。とはいえ、だからと言って無視したり攻撃したりなんかもしてねえ。と言うか、一緒に遊んでほしいってアプローチさえ受けてねーぞ。いくら俺だって、誘ってきたら無碍に断りなんかいれねーよ!


「そんな事言われなきゃわかんねーレベルだからダメなんだよ」


「もういい!ちょっとお前電話でろ!」


 ゲーム内のチャットでの口論じゃ埒が明かないと思った俺は、利久に電話を掛けた。しかし待っても待っても電話に出る気配が無い。


「お前ふざけんなよ、電話に出ろって言ってるだろ!」


 ライデンがログアウトしました。


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