第二章 亀裂

第49話 お気楽な二人

「よう」


 例のごとく、ホームタウンの倉庫で倉庫整理をしていると、俺のゲーム内の友人であるエバーラングが話しかけてきた。


「よう、久しぶりじゃん」


「だな。お前が引きこもりから復帰して以来か?」


「引きこもりって言うな!」


 こいつが言う引きこもりっていうのはあれだ。俺が明海さんに暴言を吐いて、しばらくゲームにINしなかった時の事だ。


「そもそも俺は引きこもってねえ。ちゃんと学校だって行ってたし、部屋からも普通に出てたわ!」


「いやいや、ブラックアースからは引きこもってたじゃん」


INって言うのは斬新だな」


「だろ?w」


 こいつとは昔からこんなくだらない話ばかりして盛り上がっている。リアルの事は全く話さないが、会話のあちこちに男前要素がちりばめられており、絶対こいつイケメンだろうと勝手に考えて勝手に嫉妬している。


「ところで・・・」


 俺がそんな超くだらない嫉妬心にかられていると、エバーラングがそう俺に話しかけていた。


「なんか、また大変そうだなお前の所」


「大変・・・あー・・・」


 たぶん千隼ちはやさんの事だろう。今掲示板でたいそう盛り上がっているらしいからな。らしいってのは、俺の精神衛生上、あまり良いとは思えないので掲示板を見ていないからだ。


「シャイニングマスターの事なら、本人がなんとも思ってないからそこまで深刻じゃないけどな」


「そうなのか?」


「ああ。どっちかって言うと、周りの俺たちのほうがやきもきしてるぜ。身内しか知らない情報を、いったい誰が掲示板でばらしたのかって」


「ならいいじゃないか。本人が気にしてないなら周りが騒ぐことでもないだろ」


「そうなんだけどさ。なんか気持ち悪くて・・・」


「それはまあ・・・そうだけどさ、人のうわさも何とやらだよ」


「確かに」


 と言うかこいつ、俺を心配してわざわざ来てくれたのか?


「お前、それ言うためにわざわざ来てくれたの?」


「それもあるけど、水言みことさんがかなり心配してたからな」


「あーそっか、水言さんって、シャイニングマスターが憧れの人だったっけ?」


 実は黒乃水言くろのみことさん、千隼さんっつーか、シャイニングマスターが憧れの人だったらしい。レベル100を目指し始めたのも、当時レベル100に一番近いと言われていたシャイニングマスターに追いつきたい一心だったからだとか。


 そしてシャイニングマスターがブラックアースから姿を消した後もストイックにレベルを上げ続け、今やサーバーでも1,2を争うトップランカーとなっている。


「前の要塞戦で戦ったとは言え、もう会う事もないんだろうな~って考えてた所に掲示板騒ぎだろ?しかもお前の所のギルドにいるって話だし。内心穏やかじゃないと思うぜ」


「そっか、そうだよなあ。ただ、当の本人はいたって通常営業だから、あまり心配しないようそれとなく伝えといてくれよ。まあ、俺が言うのも変な話だけど」


「OKわかった。お前が言った・・・っていうより、そんな感じらしいって伝えとく」


「ああ、よろしく頼む」


 そう言って、俺とエバーラングは別れた。


 そっか、そりゃそうだよな。黒乃さんにとってシャイニングマスターは憧れだったんだ。そりゃあ気になるに違いない。俺も黒乃さんから情報もらった時、もうちょっと気を使って上げれれば良かったなあ。今度から気を付けよう。


◆◇◆◇◆


「やっほーダーク君」


 俺が夜ゲームにINすると、千隼さんがすぐに声をかけてきてくれた。良かった、いつもの千早さんだ・・・。そう思って俺はほっとしていた。


 最近は掲示板を見てはいないんだが、色々書かれて居ることは容易に想像できる。良いことも悪いことも含めてな。なのでいつか千早さんも嫌気がさしてログインしなくなるんじゃと考えてしまって気が気ではない。


「そういえば今日も掲示板見てきたんだけどさー」


 そんな俺の心境を知ってた知らずか、千隼さんは軽い世間話をするかのように俺にそう話しかけてくる。


「なんかもう、都市伝説みたいになってるんだよねー話が。そのうち私、実はレベル150くらいなのではくらいの話になっててもおかしくないよねw」


 等と言って一人で笑っている。いや、全然笑えないんですけど!こっちはその話題出るたびに冷や冷やなんですけど!


「こんばんはー」


 そんな事を考えていると、今度は燈色ひいろがログインしてきた。


「ヒイロちゃんこんばんはー」


「よう」


 良かった!もうこんな状況俺一人じゃ耐えられん。ここは二人を誘って借りにでも行くことにしよう。


「千隼さん掲示板凄い盛り上がってますね」


 そんな俺の心情を笑うかのように燈色さんがそんなことを言い出した。


「そうなの~。ダーク君も見てきた?」


「い、いえ僕は全く見てません」


 おい!おかしいだろ!なんでそんな普通に話してんだよ!俺なんかちょっと言われたくらいでメンタルやられて暴言吐いてゲームにINしなくなったんだぞ!え?もしかして俺がおかしいの?


「いや~もはや千隼さんが神格化されてて笑っちゃいました」


「でしょ?きっとそのうち、実は千隼ゲームマスター説まで出てくるわね」


「採用です」


「やったー!私ゲームマスターだー!」


 採用です。じゃねえ!なんなんだこの二人のお気楽さは・・・。すげえ気にしてる俺がバカみたいじゃないか・・・。俺にもその鋼のメンタルを分けて欲しいぜ・・・。


「あの・・・」


 俺たちがそんなやり取りをしている時だった。急にヒカリさんがそう言ってきたのは。と言うか、いたのかヒカリさん。ログインしたとき挨拶が無かったから気付かなかったぜ。あれ?そういえば利久とブラッチもいるじゃないか。また3人で狩りしてたのか。仲いいな。


「ちょっといいですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る