第48話 そっち!?

千隼ちはや「やっほー」


 俺がゲームにログインすると、千隼さんがいつものように声を掛けて来た。この様子だと、掲示板に書かれた情報は千隼は知らないのかもしれない。


ダーク「こんばんはー。あれ?今は千隼さん一人ですか?」


千隼「ううん、ブラッチとヒカリちゃんとライデンもいるよ」


 あれ?返事が無いからてっきり千隼さんだけかと思った。まあ、今手が離せない状況なのかもしれないな。あ、もしかして3人で狩り中か?仲良いなあいつら。


千隼「ダーク君、今日はエリナちゃん来ないの?」


ダーク「あー、何か師匠は今日は用事があるとか言ってました」


 里奈の奴、久しぶりに友達と会う約束をしたらしく、今日はINしないとか言ってたんだ。


千隼「なるほどなるほど。じゃあ今日はお姉さんとデートしよう」


ダーク「お、行きますか?」


 【ヒイロがログインしました】


 俺と千隼さんが何処どこへ狩りに行くか話していると燈色ひいろがログインしてきた。


千隼「ヒイロちゃん来たー。ねえヒイロちゃん、お姉さんの花にならない?」


ヒイロ「こんばんはーって、どういう事です?」


ダーク「千隼さん、全然意味が分かりません」


千隼「ダーク君とヒイロちゃんで、お姉さんの両手に花になるの」


ヒイロ「?」


 今のでわかったら逆にすげえよ!


ダーク「ヒイロ、つまり一緒に狩りに行かないか?と、千隼さんは言ってるんだ」


ヒイロ「あ、それなら了解です。と言うか、先輩も花なんですか?」


ダーク「おう、俺も花らしいぞ」


ヒイロ「それはさぞダークな花が咲くんでしょうね」


千隼「あはは」


ダーク「おい!」


 まあ、そんなこんなで、結局いつもの通り深淵しんえんの森へ3人で行く事になった。もちろん狙うはレアドロップだ。なので、レアが出やすい階層へとやってきた。


千隼「それにしても、この3人でここに来ると、シャイニングナイトに絡まれた事思い出しちゃうねー」


ダーク「あー、そんな事もありましたね」


ヒイロ「凄く失礼な奴らだった」


 まあ早い話が、シャイニングナイトって言う大手の要塞戦ギルドの奴らが、ここは今から俺らが使うから無名ギルドの奴はとっとと出ていけって言ってきたんだ。


 その後向こうのマスターとかも巻き込んで話し合いをして、無事解決・・・とはいかなかったものの、その後あいつらが俺達に絡んでくることは無かった。正直後味の悪い事件だったよ。


 これがきっかけで、千隼さんやグラマン、そして団長達の過去も知ることが出来たし、俺達が要塞戦に参戦するきっかけにもなったんだよなー。


千隼「あの時は、この狩場で右往左往してエリナちゃんから指導がビシバシ入ってた二人が、今ではこんなに立派になって・・・。お姉さん嬉しい!」


ヒイロ「ダーク先輩は、違う意味で今も右往左往してますけどね」


ダーク「うるせえ!まだ操作が完璧じゃないだけだ!」


 ブラックアースを休んでいる間に、操作系統をすっかり忘れてしまい、違うショートカットキーを連発したり、変なアクションを取ったりと散々だ。その度にヒイロにからかわれたり、姉貴から冷たい目で見られたりしている。


千隼「あはは。でもいいじゃない。レベル100目指しまーす!だったらそれじゃまずいけど、そういうわけじゃないんでしょ?」


ダーク「まあ、そうですね。のんびりまったりぬるーくゲームしてやろうと思ってます。でもレベルだけはそれなりに上げたいかなー。島とか楽になるし、要塞戦でもそこそこの戦力にはなりたいし」


千隼「うんうん、エンジョイ勢最高だよね」


ダーク「あ、はい」


 千隼さんの口からその言葉が出ると、掲示板での書き込みが頭を過ってドキッとするぜ・・・。


千隼「なのになんで掲示板にあんな事書いちゃうんだろうねえ・・・」


ダーク「・・・え?」


掲示板って・・・もしかして千隼さん知ってるのか?


千隼「お、ダーク君のその反応、掲示板見ちゃったとか?」


ダーク「あーえっと、見たというか教えてもらったというか・・・」


千隼「ねえ、ひどいよねー。お姉さんぷんすかだよー」


ダーク「あの千隼さん、俺達は全然そんなこと思って無いし・・・」


 そう言いかけたら、


千隼「掲示板にさ「今は」って書いてたでしょ?「今は」じゃなくて「昔から」私はエンジョイ勢だっていうの!失礼しちゃう!」


ダーク「・・・は?」


千隼「そもそも100なんて目指してないし!」


ダーク「怒るとこそこ!?」


ヒイロ「えっと私、掲示板になんて書かれてたのか知らないんですけど、今ので大体わかりました」


 ヒイロが全く抑揚のない声でそう言ってきた。


千隼「ねえ、ひどいよね!」


ヒイロ「ホントです。恐らく書いた相手はせっかく千隼さんを貶めようとして頑張って書いたのに、当の本人は見当はずれの所で怒ってるんですから。書いた人がかわいそうです」


ダーク「そっち!?」


 なんだこの緊張感の無さは・・・。すげえ心配してた俺が損した気分だ。あ、でも、千隼さんがシャイニングマスターだってばれたら、千隼さん色々大変なんじゃないだろうか?


ダーク「千隼さん、以前シャイニングマスターで活動したら、問い合わせが多くて困ったって言ってたけど、今大丈夫なの?」


 以前はシャイニングマスターで活動してる時だけ色々聞かれたけど、今は別キャラもさらされちゃったわけで、結構大変なんじゃないだろうか?


千隼「そうでもないよ。メッセージの通知切ってるし、普段は宿に引きこもってチャットしてるし」


ダーク「いや、それは結構な被害受けてるように思えますが・・・」


千隼「まあ、それで死ぬわけじゃないしねー」


ヒイロ「おおっ、さすが千隼さんです」


千隼「でしょー?えへへ」


 まあ、本人が気にしていないと言うのなら、俺がこれ以上言う事は無いな。でも今の状況が良いとは全く思えん。


 これ、千隼さんだからそこまで大事になってはいないけど、俺とかヒイロだったらやばい事になってると思うんだよな。二人とも豆腐とうふメンタルだから、へたしたら二度とゲームしないとか言い出しかねない。俺に至っては前科があるし・・・。


 とは言え、誰が言ったとかの証拠も無い状態では、犯人探しもままならない。しかもへたにそんな事したら、ギルド崩壊への引き金になってしまいかねないし・・・。


 やはり一度団長に相談してみるべきだろうな。もしかしたら把握している可能性も高いけど。今日の夜にでもちょっと話してみるか。


◇◆◇◇◇◇◆◇


「あー、その話なら僕も聞いたよ」


 俺が団長に千隼さんの事が掲示板に書かれていた事を相談すると、やはり団長も把握していたようだ。


「あまり身内を疑いたくはないのですが、ギルドチャットで話したことが、一定期間後に掲示板に書かれているとなると・・・」


「そうだねー。断言は出来ないけど、可能性は高いかもしれないね。けど・・・」


「はい」


「たぶん特定するのは難しいと思う」


「ですよね」


 そうなんだよな~。たぶん犯人を探し当てるのは難しい。だって証拠がない。状況から言って最近入団してきた人達が怪しいって言うのは簡単だけど、証拠は?って言われたら何も言えない。


 しかも、もしかしたら誰かが外部にうっかり話してしまって、そこから掲示板に・・・って可能性も有る。


「だから、今後出来るのは再発防止に努める事だと思うんだよね」


 団長の言葉に俺も賛成だ。確実な証拠があるのならともかく、推測だけで物事を進めてしまうのは、ギルド内にギスギスした空気を生んでしまうだけだ。


 とは言えどうやって再発防止すれば良いんだ?こんな事が続いてしまったら、千隼さん以外のメンバーも疑心暗鬼になってしまいかねないぞ・・・。

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