第46話 あれホントなの!?

 今日は珍しく里奈と二人で深淵しんえんの森へ来ていた。俺が姉貴に頼んで、狩りに付き合ってもらっている。


「それにしても、あんたからレベリングに付き合ってくれと言われるとは思わなかった」


「そうか?」


「一体どういう風の吹き回しよ?」


「あー、この前黒乃さんと一緒に島に行ったじゃん・・・」


 あの時、黒乃さんの圧倒的な強さを目の当たりにして、俺も強くなりたいって思ったんだよな。もちろんあそこまで強くなれるかどうかはわからん。けど、俺が今より強くなれば、パーティーで島での狩りももっと楽になるのは間違いない。そう里奈に説明した。


「なるほどねえ。確かに黒乃さんめちゃくちゃ強いからねー」


「まあ、あそこまでとは思ってねーけど、せめて島のもっと上層に行けるくらいには強く成りてーじゃん」


「なら修練あるのみね!バシバシ行くわよ!」


「お、おう」


 そしてその後俺は、妙に張り切りだした姉貴にしごかれまくったのだった。



「そういえば、千隼ちはやはあのキャラでゲームはもうしないのかしら?」


「あのキャラ?」


 そして二人で狩りを初めて2時間くらい経った頃だったか?姉貴が突然そんな事を言い出した。


「あのキャラよ!えっと、シャイニングワールドだっけ?」


「おい、混ざってるぞ。シャイニングマスターだろ」


「あーそれそれ」


「それについては千隼さんがする気は無いって言ってたじゃん」


 千隼さんの別キャラである「シャイニングマスター」は、以前、この鯖でもっともレベル100に近いプレイヤーと言われた事もあるキャラだ。けどまあ色々あって、今は封印されている。


「あの時はダメだったけど、今は良いかもしれないじゃない」


「いや、そりゃそうかもしれないけど・・・」


「よし!善は急げね!早速聞いてみましょう!」


 おいまじかよ・・・。頼むから千隼さんに迷惑掛ける事だけはやめてくれよ・・・。


エリナ「千隼!」


千隼「なーに?エリナちゃん」


エリナ「あなた、シャイニングマスターでプレイする気無いの?」


千隼「えー!何よ突然・・・」


エリナ「いやー、今ダークと狩りしてるんだけど、あなたがシャイニングマスター出してくれたら、私が楽だなーって」


ダーク「おい!」


 話のついでで俺をディスってんじゃねえ!


ヒイロ「凄い、エリナさん清々すがすがしい程に自分本位ですね」


エリナ「え?そんな事ないわよ?」


 ヒイロの言葉に何言ってんのよって感じで答える里奈。そういえばこいつはそんな奴だった・・・。


千隼「うーん、無いかなー」


エリナ「そっか残念」


ダーク「師匠あっさりしてるな」


エリナ「だってダメもとだもん」


千隼「あはは」


 くそー、一人冷や冷やしてたのが馬鹿みたいだぜ。つーか、俺が恥かいただけじゃ・・・。


ヒカリ「あのー、シャイニングマスターってなんすか?」


 俺が一人で悶々としていると、ヒカリさんがそう聞いてきた。あー、そういえば新人さんは千隼さんの別キャラの事なんか知ってるわけが無いよな。


千隼「あ、それは私の別キャラなの。今は使ってないんだけどね。できれば内緒にしといてくれると嬉しいかな」


ヒカリ「そうだったんですね。了解っす」


 あ、そっか!千隼さん、シャイニングマスターの事みんなには秘密にしてたんだった。ギルドチャットで助かったぜ・・・。


「おい里奈、千隼さんの別キャラの事あんま喋るなよ」


「わ、わかってるわよ」


 どもってる所を見ると、こいつも内心「しまった」って思ってるんだろう。まあ、ブラッチに聞かれて面倒臭い事になるよりはましだったかな。



 それから1週間ほど経った頃、俺のスマホから着信の音楽が流れ出した。一体誰だ?と思いながら見てみると、黒乃水言さんの中の人である「一条美琴」さんからだった。


「はいもしもし」


「ちょっと真司君!あれホントなの!?」


 あれ?あれってなんだ?いきなり何言ってんのこの人?


「すんません、あれってなんですか?」


「ブラックアース掲示板に書かれている事よ!」


 そう聞いた瞬間、俺は心臓が跳ね上がったような感覚に一瞬陥ってしまった。


「ちょっと真司君聞いてる?」


 俺がしばらく無言だったからか、美琴さんがそう尋ねて来た。大丈夫、前とは違う。俺の事が何か書かれていたとしても、俺には味方がいる。俺は自分にそう言い聞かせてから、改めて美琴さんに問い直す。


「はい聞いてます。えっとすみません、掲示板の内容を知らないのですが、何か書かれていたんですか?」


 俺は努めて冷静を装い返事をした。


「千隼さんの事よ!彼女が実はシャイニングマスターだって!そう書かれてたの」


「・・・へ?」


 千隼さんがシャイニングマスターである事が掲示板に書かれていただと!?一体誰が書いたんだ!?えーなんで!?


「あの、美琴さん、この事は内密にしておいてもらえますか?」


「え?じゃあ本当に・・・?」


「はい。ただ、当人があまり他人に話したくないみたいで・・・」


「え?じゃあこれ書いたのって・・・」


「たぶん、この事を知っている身内の誰かが嫌がらせで・・・って線が濃厚かもしれませんね」


「あー、ごめん・・・。なんか書き方が「え?みんな知らないの?自由同盟の千隼って人がシャイニングマスターの中の人だよ。ギルドメンバーで知らない人はいないんじゃないかな」って書いてたから、普通にみんな知ってるものだとばかり・・・」


「ギルドメンバーと一部の人だけ知ってるって感じですね。それにしても一体誰が書いたんだ?すみません美琴さん、ちょっと姉とも話してみるので、すみません情報ありがとうございます」


「ううん、なんか余計な事しちゃったかも・・・」


「いえいえ、そんな事ありませんよ」


 そう言って俺は美琴さんとの通話を終了した。


 と言うか俺はこの時点で怪しい人物が一人思い浮かんでいる。ちょうど1週間ほど前にヒカリさんの前で、俺達はシャイニングマスターについて話してしまったからだ。


 しかしなあ。あのヒカリさんがそう言う事をするタイプにはとても見えないんだよな。と言うか、そもそもあの人、最近ブラックアース始めたばかりなんだよな。ブラックアース掲示板の存在なんか知らないんじゃないか?


 そうなると、うちのギルド以外で知っていると言えば利香と実明みはるさんくらいか?まあしかしあの二人は完全に除外していいだろう。


 後は・・・。そうだ、あいつが千隼さんの事を知っているはずだ。ワールドマスター。千隼さんと一緒にシャイニングナイトを創設し、自らもレベル100を達成した奴だ。


 だけど、今更あいつが千隼さんに嫌がらせ?何の為に?自由同盟は、あいつが目を付けるようなギルドじゃねーぞ。そもそもあいつはそんな無駄な事はしないだろう。


 あーもうわけがわかんねーよ!

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