第45話 パラウォッチ

千隼ちはや!今よ!」


「オッケー!」


 里奈の合図に合わせて千隼さんが爆弾を投げ込んだ。里奈によって集められていた相手チームのキャラは5人中4人がダウンしてしまった。そして残りの一人を燈色ひいろが倒してこれで全員がダウンだ。


 俺達が今何をやっているのかと言うと、FPS型のMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)で、今人気のゲーム「パラウォッチ」をみんなで遊んでいる所だ。


 俺がブラックアースを休んでいる時に、コールオブダーティー以外に面白いFPSはないかな~と探していたら、基本無料で遊べたのでプレイしてみたら意外と面白かったんだ。


 このゲームはRPGみたいに役割があって、今回は里奈が攻撃タイプ、千隼さんが陽動タイプ、利香がヒーラー、燈色が攻撃、そして俺がタンク、つまり防御型という攻勢でゲームをしている。


 ルールはいくつか存在してるんだけど、やはり相手と陣地を取り合い、その後重要アイテムを相手陣地まで運ぶというモードが一番楽しい。


 その話を燈色にしたら、私もやってみたいですと言う話になり、基本無料なのでとりあえず二人で遊んでみた所、燈色もハマってしまい、それから自由同盟内に広まって行った感じだ。


 もちろんみんなブラックアースが主力なんだけど、1試合がそれほど長くは無いので、ブラックアースの合間に息抜きで遊んでる感じだ。


「ダーク、相手が攻めてきたらシールド展開よろしく!」


「おう!」


「先輩、ヒールは任せてくださいね」


 利香はブラックアースでも回復役なのに、このゲームでも率先して回復役を選んでいた。


「攻撃楽しいです」


 そして燈色は、普段が補助約だからか、ここぞとばかりに攻撃しまくっている。「先輩一人倒しました!」とか、はりきって言ってくる燈色さんは結構新鮮だったな。


 実はブラッチも誘ってみたんだが、ボイチャするからって言ったら、「我はそのような流行りに安易に乗ったりはしないのだ」等と意味不明の事を言い出したので、今回は参加していない。あれはまあ、音声で話すのが恥ずかしかったんだろうな、きっと。


「ダーク!シールド張って!」


 そんな事を考えていると、いつの間にか相手チームが復活して攻めてきていた。俺は慌ててシールドを展開して、後ろの攻撃陣を守ることに専念する。このまま時間まで拠点を押さえ続ければ俺達の勝ちだ。そう思っていたら、シールドが切れたタイミングで、目の前に爆弾が飛び込んできた。


「ぎゃあああああああああっ!」


「ちょっと!聞いてないから!」


 相手チームの陽動タイプが、俺のシールが切れるまで隠れていて、切れたタイミングで爆弾を投げて来たんだ。おかげで俺達は全員ダウン。スタート地点まで戻されてしまった。そしてそのまま相手チームに押し切られてゲームは終了した。


「いやー、惜しかったねー」


 ゲームが終わった後、千隼さんはいつもの調子でそう言ってくる。負けたけど楽しかった反応だ。


「あとちょっとだったのにー!」


 そして里奈はくやしさ大爆発のようだった。全く正反対の反応を見せる二人だけど、仲は良いんだよなー。


「わたし3人しか倒せませんでした。悔しいです」


 そういって悔しさを言葉で表現する燈色。声の調子だけじゃ悔しいのかどうかもわからんが、たぶん今までの経験上、相当悔しいのだろうと思う。


「あー、もうちょっと上手く回復出来たら!」


 利香は利香で色々と反省部分があったようだ。けどまあ、みんな始めたばかりだからなあ。


 まあ、その後はみんなで今度はあーしようこうしようと提案を出し合ってからお開きとなった。やっぱみんなで遊ぶと楽しいよな。



「せんぱーい!」


 次の日、俺が下校していると、利香が話しかけて来た。


「よう、昨日はお疲れ」


「お疲れさまー。ところで先輩、ブラックアース掲示板見ました?」


 ブラックアース掲示板・・・その言葉を聞いた俺は一瞬顔をしかめてしまった。もしかしたら結構露骨に顔に出てしまってたのかもしれない。


「あー!ごめん!軽率だった!」


 利香が咄嗟に謝って来た。


「いやいや、お前が悪いわけじゃないよ。と言うか、そんなに顔に出てた?」


「あーはい。まあ出てましたね・・・」


 利香は苦笑いしながらそう答える。自分ではもう過去の事だと、終わった話だと思ってたんだけど、まあ、急には無理だよな・・・。


「あーそれで、掲示板がどうかしたのか?」


「いやでも・・・」


「大丈夫だって!お前の兄貴にかなり愚痴を聞いてもらってからは、かなり割り切ることが出来るようにはなったんだよ」


「え?そうなんですか?」


 俺は利香の兄貴である火雷利久に、この件について相談した事があったんだ。そしたらあいつ、一緒に怒ってくれて、もっと早く言えとも言ってくれたんだよな。


「兄がそんな事を・・・」


 俺がその事について利香に話すと、利香はちょっと嬉しそうだった。


 最近の兄貴の言動で、利香の中の兄貴の評価が右肩下がりだったからなあ。ゲーム内のキャラ名が「お兄ちゃんLOVE」で、ギルド名が「お兄ちゃん大好き!」なのに、最近では「名前変えたい・・・」と、実は相談を受けていたりしていた。


「で、掲示板がどうした?」


 俺は改めて利香にそう尋ねた。


「あ、そうそう!昨日里奈さんがパラウォッチの事ブログに書いたじゃないですか?」


「え?そうなの?」


「そうですよー。あとで見てくださいね」


 里奈の奴、自分個人のブログを運営しているんだ。そこでは基本的にブラックアースの事を色々と書いている。ただ何が何でもブラックアースの事ってわけでも無いらしく、今回はパラウォッチの事を書いたようだ。


「で、パラウォッチの話題とブラックアース掲示板が何の関係があるの?」


 姉貴のブログはINTヒーラーという事で、度々掲示板に話題になる事はあるんだが、今回は全く違うゲームだぞ?


「実はですね?私と自由同盟の皆さんで一緒にゲームしてたから、水面下で要塞戦を一緒に戦う話が進んでいるのでは?みたいな議論がされてるんですよー」


「え?ホントに?」


「ホントホント!みんなブラックアース好き過ぎますよね」


 利香のギルドは、最近では準大手に成りつつあるギルドなんだ。だから大手の要塞戦ギルドよりも話題にはなりやすいのは確かだ。でもうちのギルドと利香の所じゃ規模も実績も違うからなあ。


 たぶん以前、利香と一緒に黒乃さんの所に攻めたことがあったから、そこからまだ繋がりがあるとみんな思ってるんだろうな。ホントは俺や姉貴が利香と個人的に付き合いがあるって話なだけなんだが。


 そしてしばらくすると駅についたので、そこで利香と別れて俺は家路についた。そういえばしばらく要塞戦やってないな~。

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