第42話 新人ヒーラー「ブラっち」

 新人メンバーの予想外の発言に、いきなり面食らってしまった自由同盟のギルドチャットは、本当に無音のままだった。さっきまでの賑やかなログがそのまま残ってるから余計に違和感しかない。


里奈「ちょっと、何よあれ!凄い変な子来ちゃったじゃない」


 里奈がようやく口を開いた。しかしチャットで何と返せば良いのかわからなかったのは俺達と同じようだ。


燈色ひいろ「私嫌なんですけど。毎回あの人と一緒になるの嫌です」


 燈色さんが下を向いてぶつぶつ言い出した。


「おいおいおい、このギルドは挨拶もできないのか?まあいい、この俺からほとばしる波動がモニター越しにも伝わっているんだろう、くっくっく・・」


 ん?ほとばしる波動?こいつ何言ってんだ?


「良いだろう!我の名は「ブラックエンペラー」そう、我こそが夜の皇帝であり、闇の支配者だ!」


 再びシーンとなる黒部家の俺の部屋。たぶんさっきとは「シーン」の意味合いが異なっていると思う。


 これはあれだな。燈色と姉貴にはかわいそうだが、千隼ちはやさんの言う事が正解だったという事だろう。


 燈色さんは「なんですかあのひと?頭おかしいんじゃないですか?」とガタガタ震えながら言っているが、逆に里奈の奴は盛大なため息をついていた。たぶん里奈も見当が付いているんだろう。


千隼「あら?もしかしてロールプレイやってる子なの?」


 そして、グラマンでそういう子には耐性が付きまくっている千隼さんが早速話しかけていた。


 そう、たぶん千隼さんの言う通りロールプレイ、つまりゲーム内で自分で決めた役割を演じている人なんだろう。黒乃さんとかグラマンみたいにさ。


団長「そうなんだよー。彼と話しててビビット来ちゃってさー」


 なるほど、さっき千隼さんが話していたように、グラマンみたいな奴を団長はついに自由同盟にも勧誘したって事か・・・。


ブラック「そこの千隼と言う者よ、これはロールプレイなんかではない。俺の中から湧き出る真の姿なのだ」


 すげえ、これはとんでもない新人さんが加入してきたぞ。さっき入って来たヒカリさん、ドン引きして早期の脱退なんかしなきゃ良いけど・・・。


ヒカリ「へーロールプレイって言うんすか?よろしくねブラっち」


 俺がそんな心配をしていると、ヒカリさんがブラっちに挨拶をしていた。


ブラック「ブラっち!?」


 そんなヒカリさんに困惑のブラっち。


ヒカリ「可愛くないっすか?ブラっち」


ブラック「俺をそんな変な名前で呼ぶのはやめろ!」


ヒカリ「えー、じゃあエペちん」


ブラック「略すんじゃない!皇帝と呼べ!」


ヒカリ「皇帝は可愛くないっすよー」


 うん、どうもその心配はないようだ。すっかり彼に馴染んでしまっている。むしろ俺達より適応力あるんじゃね?


団長「まあまあまあ、これで自己紹介は無事終了だね」


 無事終了したか?


団長「ともかく、みんな二人をよろしく頼むよ」


ダークマスター「はーい、二人ともよろしく」


エリナ「よろしくね」


千隼「よろしくー」


ヒカリ「よろしくっすー」


ブラック「ふん」


 すげえ、わざわざ「ふん」と書き込んだのか。徹底したロールプレイだな。


団長「まあ知っての通り、うちは要塞戦を行うギルドだけど、参加不参加は自由だからねー」


千隼「そういえば二人のレベルはどれくらいなの?」


 あーそういえば、その辺は聞いてなかったな。どうしよう、俺より上だったりしたら!


ヒカリ「ウチはレベル14っす」


千隼「あら?、もしかして始めたばっかり?」


ヒカリ「そうっす。団長さんのブログ見て最近始めたばかりっす」


 団長のブログ見て始めたって、一体あれのどこを見たらブラックアースやりたいって思ったんだろうか?今度聞いてみよう。


ヒカリ「そういえばブラっちは、なんで自由同盟に来たっすか?」


 あーそういえば、ブラっちの加入理由を聞いてなかった。


ブラック「ふっ、そんなに聞きたいか?ならば答えてやろう!我がこのギルドに加入したのはだなー」


ライデン「やべー遅くなった!こんばんはー!」


 ブラっちが加入の動機を説明しようとしていたら、ライデンがログインしてきた。こいつは俺の同級生でリアルでの名前を火雷利久からいりくという。


ダーク「おせーよライデン」


ライデン「悪い悪い。で、どこまで終わってんの?紹介もう終わった?」


 俺は来たばかりの利久に、新人さん二人の紹介が終わって、ブラっちの自由同盟への加入動機を聞いている所であることを説明してやった。


ヒカリ「ひかりっす。アーチャー女子やってますーよろしくー」


ライデン「ヒカリさんね!よろしく!」


ヒカリ「ライデンさんなら、ライちんて呼んで良いっすっか?」


ライデン「OK!」


 軽っ!お前それで良いのか・・・。


里奈「利久ったら、女の子が加入したからってはりきってるわねー」


真司「あ、そう言う事なの?」


里奈「それしかないじゃない」


 なるほど・・・。いつにも増してテンションが高いと思ったらそれが理由か・・・。ライちんとか呼ばれて、要は舞い上がってるって事だな・・・。


団長「じゃあ、ライちんもログインしたし、ブラっちの入会動機を聞いて行こうかな」


 団長ノリノリだな・・・。


ブラック「我はブラっちではない!全く・・・」


 そういえばブラっちの入会動機を聞いている途中だった。すっかり忘れてたぜ・・・。


ブラック「あーこほん。俺が自由同盟に加入した理由は、ヨーチューブだ!」


 え?ヨーチューブって、利久がやってるヨーチューブチャンネルをブラっちが見たって事?まじで?あれ見て加入しようと思う奴いたんだ・・・。


ライデン「まじかよ!」


 利久の奴は一気にテンションが上がったようだ。まあ、自分の動画チャンネルが加入の同期とか言われたら、そりゃあ喜ぶだろう。


ブラック「あの動画を見て、このギルドのグダグダ具合をどうにか出来るのは俺しかいない!そう思ったのだ」


 ぶっ!いや確かに、毎回俺達の狩りはグダグダだ。と言うか、利久が里奈に怒られる事が多いって事なんだけどな。何もこのタイミングでそれを言わなくて良いだろうに・・・。


ライデン「はあ?何こいつ?」


 ほら見ろ、利久が急速にご機嫌斜めになっている。


ダーク「ライデン、ブラっちはプレイスタイルがグラマンなんだ」


 なので俺は利久にそう言ってやった。


ライデン「グラマン?・・・あー、そういうことね。了解」


 グラマンと聞いて利久は納得してくれたようだ。良かった良かった。


ブラック「ちょっと待て!なんだその「グラマン」というのは?なんかこう、良いニュアンスで使われていない気がするのだが!」


団長「グラマンていう僕たちの知り合いがいるんだけど、ロールプレイが得意なんだよー」


 あれは得意って言うのか?


ブラック「くっ、この我はロールプレイなどでは断じてないわ!」


里奈「ロールプレイじゃなかったら凄いただの痛い子なんだけどなー」


真司「おい、それ間違ってもチャットで言うなよ?」


里奈「言うわけないじゃない!あんた私を何だと思ってんのよ!」


 こいつには以前、チャットと電話とを間違えた前科があるからな。あと暴君だし。そういうと怒るから絶対言わないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る