俺と姉貴がオンラインゲームで付き合ってる話 第四部

第一章 新人さんいらっしゃーい

第41話 二人の新人

「くっくっく、覚醒したこの我の真の力を持ってすれば、この程度の輩など一網打尽にするなど容易いことだ・・・」


「うるさいわよ「くっこの」!さっさと回復魔法を使いなさい!」


「くっ!この俺をそのようなふざけた名で呼ぶのはやめろ!」


「もう、くっこのくっこのうるさいのよ!そんなのどうでもいいからさっさとしなさい!」


「くっ!この俺に命令するとは、なんなんだあの女は・・・ぶつぶつぶつ」


 さっきから続いている二人の会話ログを見ながら、俺は「何のコントだよ」と思っていた。口に出すと二人から怒られるので言わないけどな。


 

 俺達は今死者の島に来ている。もちろん自由同盟のみんなで参加してるんだ。これは単なるギルドハントではなく。自由同盟の新団員歓迎ハントだ。


 俺達がやっているのは「ブラックアース」というオンラインゲームだ。一応同じギルドメンバーの「エリナ」とはゲーム内で「付き合っている」という事になっている。


 何故「一応」とか「なっている」とか付いてくるのかと言うと、そもそも付き合っているわけではなく、恋人同士だと貰えるアイテムをゲットする為に「ふり」をしているだけだからだ。しかもエリナは俺の実の姉だ・・・。


 そして諸事情から、俺はしばらくブラックアースを休止していたんだけど、つい最近ゲームに復帰する事になったんだ。


 そして俺がブラックアースに復帰するタイミングで、団長が明かしたギルド「自由同盟」への新団員加入のお知らせからおよそ一カ月経っている。


 団長から新団員を紹介された日の事は今でも忘れないぜ。



 その日は団長が新メンバーを加入させるというので、みんなで宿の2階の広間に集まっていた。


 ちなみに人見知りMAXな自由同盟のメンバーである燈色ひいろさんは、ログインはせずに、俺の部屋で姉貴と俺と3人で加入の様子を見るらしい。こういうイベントで、毎回俺の部屋に集まるのは恒例になってしまった感があるな。


千隼ちはや「それにしてもどんな人だろうねえ」


エリナ「団長が選んでくる人だし、変な奴じゃないでしょ」


千隼「それはそうだと思うけど、あの人グラマンみたいなのも大好きなのよ?」


エリナ「うっ、嫌な事言わないでよ・・・」


 千隼さんの言葉に、里奈と燈色は露骨に嫌な顔をしていた。


 グラマンってのは、俺達の知り合いで、その言動全てでうざいくらいのロールプレイをしている、つまり何らかのキャラになり切るプレイをしている奴だった。


 だったってのは、グラマンと言うキャラはすでに封印されており、今現在、中の人は普通の女子高生の「桜マスター」として活動しているからだ。


ダーク「いや、正直ああいうタイプはもういいです」


 俺はグラマンの中の人である桜菜実明さくらなみはるさんの事は嫌いじゃないが、あのキャラだけは勘弁してもらいたい。


「これは完全に先輩に同意です」


 俺の隣でパソコンを覗き込みながら、燈色が力強く頷いている。


「だよなあ」


 まあ、燈色と里奈の奴は、めちゃくちゃグラマンの事毛嫌いしていたからなあ。中身が自分と同じ高校生の女子と知った時の燈色の驚きっぷりは見ものだった。


エリナ「ま、まあ、団長も好き好んでそういう人を勧誘したりはしないわよ」


 里奈の願望に対し、千隼さんがそれはどうかな~等と反応して、里奈からやめてー!と言われている。燈色さんもリアルで真っ青だ。


 まあ団長がどんな人を連れてくるのかはともかく、今回は二人いっぺんに加入する事になっている。あまり人の出入りが無いうちのギルドからすれば、これは大事件ともいえるかもしれない。


「やあまたせたね!」


 そんな事を燈色達と話していると、団長が宿へやって来た。


団長「それにしても千隼さんひどいよ、僕がそんな変な人なわけないだろう?」


 まあ、部屋に居なかっただけでゲームにログインはしてるんだから、チャットは全部見えていたに決まってるんだけどな。


千隼「だって団長、グラマンを加入させようとしたり、黒を制するものを加入させた実績があるじゃない」


団長「むーそういわれるとなー」


ダーク「ちょっと待て」


団長「どうしたの?」


千隼「なになにどうしたの?」


 千隼さんと団長がわざとらしい反応をしてきた。いやいやいや、今聞き捨てならないセリフが千隼さんから出て来たんだが・・・。


ダーク「グラマンはともかく、俺は別におかしくなかったでしょ!」


千隼「え?」


団長「ええ?」


里奈「ええっ!」


「おい!里奈はなんでリアルで反応してんだよ!お前の弟だぞ!?」


 一人だけ横から音声が聞こえてきてびびったわ!


「いやだって、黒を制するんだって、あんたはりきってたじゃない」


「うるせえ!あれは昔の話しだろうが!」


「先輩そんな事言ってたんですか・・・。あれ、てっきり団長の冗談かと思ってたのに・・・」


 心底ドン引きした表情の燈色さんが、まるでグラマンを見るかのような眼差しをしつつ、俺から距離を取ろうとしている。


「おい、お前何で俺から距離取ろうとしてんの?」


「え?先輩は後輩女子にぴったり横についていて欲しいんですか?」


「はああ!?ちげーよ!お前がまるでグラマンを見るみたいな目で俺を見るからだなー・・・」


「まあ冗談です」


 っく、燈色にからかわれてしまった・・・。


団長「まさかダーク君、過去に黒を制する男になるって宣言した事とか、忘れちゃったわけじゃないよね!?」


 ぐっ、こっちもかよ・・・。


 昔俺がゲームを始めた頃、このゲームの名前がブラックアースって名前だったものだから、張り切ってた俺は自己紹介で「このブラックアースを、黒を制する男になりたくてダークマスターって名前を付けました!」って言っちゃったんだよなあ・・・。


 ああ、過去に戻れたら「それは絶対言うな」って自分に警告したいぜ・・・。


団長「いやあ、あれを聞いた時は「これはとんでもないニューカマーがやってきたな・・・」としみじみ思ったのが懐かしいね」


ダーク「あの、今日は新入団員の紹介じゃ無かったんでしたっけ?」


 もうこれ以上は俺の心が持ちそうになかったので、無理やり話をそっちに持っていく事にした。


団長「あ、そうだった!すっかり忘れてたw」


千隼「ずっとそこで待ってるんじゃないの?」


団長「そうなんだよー。じゃあ早速紹介しようかな。おーい二人とも入ってきてー」


 なんか、緊張感もくそも無いな。


 団長に言われて部屋に入って来たのは「女性アーチャー」と「男性ヒーラー」だった。やったぜ!ヒーラーとアーチャーはうちのギルドには一番欲しい人材だ。特にアーチャーはアッキーさんしかいないからなー。


団長「じゃあ自己紹介よろしく!」


「はーい」


 そういって自己紹介を始めたのは女性アーチャーの人だった。


「はじめましてー、ヒカリと言いまーす。アーチャーやってます!自由同盟は団長さん夫婦のブログを見て応募しましたー。よろしくねー」


 なんか、結構明るくはきはきとした人が入って来たなー。


「あら、中々イイ感じの人じゃない」


「そうですね、全然怖く無さそうです」


 燈色の怖そうじゃないという感想はともかく、二人とも好印象のようだ。


千隼「よろしくねー。ヒカリちゃんでいいのかな?」


ヒカリ「はい、よろしくお願いするっす」


 コミュ力モンスターの千隼さんが早速その真価を発揮している。


 まあ、とりあえず変な人じゃなくて良かったぜ。燈色と姉貴ほどじゃないけど、千隼さんからあんな話しを聞いた後じゃ、俺だって少し不安だったからな。


団長「はいじゃあ次の方どーぞー」


 団長がまるで面接官のような掛け声で待機していたもう一人に声を掛けた。


「ふん、ここが自由同盟のアジトというわけか。なるほど、聞いてたとおりの面々のようだな」


 団長にうながされてしゃべりだした新人は、いきなりそんな事を言い始めた。当然ギルドチャットは無音、ついでに俺の部屋もシーンとしている。


 いや、こいつ一体何なの?

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