第38話 他人事

 俺はブラックアースを休んでいる間、燈色ひいろに言われた通り早速新アップデートについて調べることにした。


 こういうのは実際に行ったことがある奴の日記なんかを見るのが手っ取り早いかと思い、俺は里奈の日記を見ることにした。


 実は里奈の奴、ブラックアウトの人達と何度か死者の島へ行ったらしいんだ。なのでたぶん、あいつの事だから日記にしているんじゃないかな。


 そう思いつつ、俺はパソコンでブラウザを開いて姉貴の日記を表示させた。


「死者の島に行ってきました」


 そこにはシンプルなタイトルの日記が書かれていた。まあでもわかりやすいタイトルかもな。


 内容は、島がどんなところか、ヒーラーとして何に気を付けて立ち回るのか、大まかに言ってこの2点について書かれている。


 ヒーラーとして云々については俺はよくわからないので、島についてを読んでみた。


 死者の島はその名の通り、アンデットモンスターが徘徊する島だ。なので有効属性は「光」となっている。これは俺も知っている情報だ。


 そして一概にアンデットモンスターのいる島と言っても、ランダムにモンスターが出現するわけじゃないのは、本土の狩場と同じらしい。


 島大まかに言って5区画に分かれていて「浜辺」「森」「荒地」「絶壁」「山頂付近」となっている。


 島に入島した地点から広がっているそれなりにでかい浜辺では、比較的レベルの低いモンスターが集まっているようだ。


 そして「森」「荒地」「絶壁」「山頂付近」の順で、レベルが上がっていくようだ。


 「浜辺」地点は中級者でもなんとか頑張れる難易度になっており、逆に山頂付近では、高レベル帯の人でなければやられてしまうような難易度に設定されている。


 里奈によれば、山頂付近は「神秘の塔」と遜色ないかもらしい。


 ただ、神秘の塔と違って、死者の島は時間制限がある。1アカウントにつき、一日に島に滞在できる時間が限定されているんだ。


 なので、神秘の石が必要な神秘の塔の代替地だいたいちには成り得ないだろう、というのが里奈の見解だ。今後も高レベル帯の主力狩場は「神秘の塔」か「罪人たちの流刑場」となりそうなんだって。


 俺には関係ないけどね!


 まあでも、レベルに合わせて楽しめる設計になっているのは間違いないようだ。


 こんな情報見ちゃうと、今すぐにでもログインしたくなる・・・という事は、意外にも無かった。


 あまり意識した事は無かったつおりだったけど、以前は毎日ログインしていないと「置いて行かれる」ような気がしてたかもしれない。


 毎日のログインボーナス、まるでそれが当たり前のようになってた毎日の経験値稼ぎ、イベントに参加しないと「イベントアイテム」がもらえないと必死にもなってた。


 楽しいから遊んでいるのではなく、遊ばないと損した気がするから遊んでいたような・・・。


 最初は面白くて遊んでたものが、今では義務感みたいなものがメインになっちゃってたんだ。


「ああ!あんた何勝手に私の日記呼んでるのよ!」


「うわああああっ!」


 突然大きな声で怒鳴られたので慌てて振り向くと、そこには里奈が立っていた。


「お帰り。つーか、なんちゅうでかい声出すんだよ・・・」


 マジで椅子から転げ落ちそうになったわ・・・。


「お帰り・・・じゃないわよ!あんた何勝手に私の日記読んでるのよ!」


「いやあ、死者の島について調べようかと思って」


「死者の島?ああ・・・このページね」


 そういって、俺のPCを覗き込んでくる。


「今度自由同盟でも行く予定よ」


「ああ、ついに行く事になったのか。なんかレア出るといいな」


「・・・あんた何でそんな他人事なのよ」


 里奈が俺の事をジト目で見て来た。


「いや別に、そんなつもりはないぞ?と言うか、俺が行かない狩りに対しての反応としては、極めて真っ当な反応だろうが」


「良くないわよ!あんた利久に「戦士の証使ってていいぞ」って言ったらしいじゃない」


「ああ、俺が戻るまでの間利久に使ってもらってた方が良いだろ?」


「あんたそんな事言って、このままゲーム辞める気じゃないでしょうね!?」


「なんでだよ!」


 なんでこいつはこんな極端なんだ・・・。


「大体、復帰するつもりがあるのなら、人に貸したりするわけないじゃない!」


「いや、復帰するまでの間貸すよって話だよ!」


「ホントでしょうね?」


「なんでそんなに信用しな・・・」


 って、そりゃあ、あんなことしでかして、しかもゲームにログインしなくなった俺だからだよな。


「あー、ホントだホント。利久にもそう言ってある。これはガチだ」


「わかったわよ」


 そう言ってから、ようやく里奈の奴は俺の言う事を信じてくれたようで、そのまま自分の部屋へと戻って行った。


 こりゃあ近いうちに一度ログインしたほうが良い気がしてきたな・・・。

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