第37話 はやく復帰したくなるかも
「ちゃんと話しできたの?」
俺が
「え?お前電話の内容聞いてたの?」
「聞いてないわよ!ドアの前を通りかかったら失礼しますってあんたの声が聞こえて来たの!大体ドア開けっぱなしで話してたのあんたでしょ!」
ドアを開けっぱなしで出て行ったのはお前だがな!そう言いかけたが、言ったところで現状は変わらないのでその言葉はぐっと飲みこんだ。
「まあとにかく、明海さんとちゃんと話し・・・と言うか、お互いに謝りあうような会話になっちまった・・・」
「あんたと明海さんじゃそんなもんじゃないの?話自体はちゃんと出来たんでしょ?」
「ああ、それは大丈夫だ」
「ならいいじゃない!これで問題解決ね!」
「そう・・・だな」
まあ・・・そういう事になるんだろうな。少なくとも明海さんとの関係は、修復したと思っているよ。
「なによ?なんかまだ問題あるの?」
「いや、全然無いな」
「あ、そ。じゃあゲームにも復帰するのね?」
「いやそれはまだ、しばらくちょっと・・・」
「はああああああああああ!?」
うわあ、俺が思ってたよりも姉貴のリアクションがでけえ。
「あんた、問題解決もしたのにゲームに復帰しないとか、何でそうなるのよ!」
「落ち着け!別にまだ気にしてるとかそういうんじゃねえから!」
「じゃあなんでよ?」
近くにあった、それなりに分厚い参考書を両手で抱え、今まさにそれを俺に振り下ろそうとしている姉貴を、俺は必死に止めたよ!あいつなんつー物で俺を殴ろうとしてるんだ・・・。
「いや、問題解決したばかりだし、なんかこう気恥ずかしいというか何と言うか・・・」
「はあ?あんた馬鹿じゃないの?何が恥ずかしいよ。今更恥ずかしいとかレベル50台の分際で図々しいのよ!」
「うるせえよ!それは関係ねーだろ!」
人が気にしている事をずけずけとこの女は・・・。
それにしても、普段こいつから暴言を吐かれまくって慣れているはずなのに、それよりも数ランクも激しさが落ちる明海さんの言葉でキレるなんて、ホントに俺も限界だったのかもしれない。
なので、恥ずかしいという理由よりは、少しゲームから離れてリフレッシュしたいという気持ちが強いのが正直なところだ。
考えてみれば、今までこんなにゲームをしなかった事なんてなかったからなあ。
もうとっくに最新アップデートが始まって、スタートダッシュにも乗り遅れている事も、俺が気を急かしていない理由の一つだ。
「あんた、うかうかしてると利久に抜かれちゃうわよ。そんなのは私が許さないんだからね!」
ビシッ!と俺に指をさしながらそう宣言し、里奈は自分の部屋へ戻って行った。
なんであいつの許可がいるんだよ・・・。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そうですか、それは良かったです」
俺から直接、明海さんと仲直りした話を聞いた
昨日の夜、姉貴との話を終えた俺は、まずは燈色に電話したんだ。かなり心配してくれてたし、俺に電話するよう後押ししてくれたのもあいつだからな。
それと利香にも電話をしといた。あいつもわざわざ家まで心配で来てくれたしな。
そしたら、今日のお昼休みに詳しく聞かせてくれと言われたので、一緒に昼飯を食ってる所だ。
「それで明海さんとどんな会話をしたんですか?」
「え?あー、それはだなあ・・・」
俺は燈色からそう聞かれて、明海さんとの電話の内容を思い返していた。
「・・・あの・・・真司君?」
携帯から聞こえた明海さんの声は、俺が知っている元気な彼女の声ではなく、何か恐る恐る尋ねているような印象だった。
その声を聞いて、俺は自分がしてしまった事のでかさを痛感したよ。だって、あんないつも元気で明るい明海さんのこんな震えたような声、俺は聞いた事が無い。
「あの、謝って済むような事じゃないのはわかっているんですが、本当に申し訳ありませんでした」
俺はその声を聞いて、ますます明海さんに
「そんな謝らないで。だって真司君色々つらかったの私知らなくて、なのに色々酷い事言っちゃった・・・」
「そんな事ないです!明海さんとのやりとりは自分でも楽しんでたんですから!・・・実は一度、
「ええっ!」
以前、利香と実明さんと話してる時に、かなりむっとしてしまった事があった。あの時はなんとかごまかしたんだよなあ。
「なので、明海さんがどうこうという事では無いんです。もしかしたら他の人の言葉でああなってた可能性も・・・。なので本当に申し訳ないです」
自分の弱さを、他人に当たって解消しようなんてホント最悪だぜ・・・。
「そんな事ないよ!私があれは悪いの・・・」
これ聞いた時、ますます自己嫌悪に陥っちゃったよ。
だってさ、普通あんな言葉吐かれたら、明海さんがキレてもおかしくない話だからね。しかもこんな若造に。なのに・・・。
「すみません・・・。ありがとうございます・・・」
俺は明海さんに謝罪とお礼の言葉を同時に言っていた。
こんな時に「ありがとうございます」はどうかと今は思えるんだが、あの時は自然に出ちゃったんだよな。
「すみません、夕食前にご迷惑じゃなかったでしょうか?」
「迷惑なんかじゃないよ!電話くれて嬉しかった」
この言葉を聞いた時、危うく泣きそうになったぜ。もっと早く電話すればよかった。
「またゲームに戻ってくるよね?」
これ聞かれた時に、一瞬考えてしまった。ゲームは確かに楽しいが、また同じようにストレスを抱え込んでしまうんじゃないだろうか?と不安になったんだ。なので俺は・・・。
「そう・・・ですね。今すぐと言うわけじゃありませんけど」
ちょっと色々と考えたい事もあるしな。
「やめるわけじゃないよね?」
明海さんが不安そうな声で聴いてくる。
「やめませんよ。少し休みも必要かなとおもったんです」
「そっか。うん、私待ってるからね」
「はい、ありがとうございます」
まあ、こんな感じで明海さんとの電話は大体終了した。
こんな内容の話しをしたんだ。って二人に言えるわけがねえ!恥ずかしすぎるわ!
「あー、なんか色々話した」
「え?なんですかそれ!教えてよ!」
案の定、利香がすげえ勢いで突っ込んできた。燈色もその後ろからじーっと俺の事を見ている。
「ダメダメ、プライベートな話だから無理!」
「先輩のケチ!」
「なんでだよ!」
こんなアホなやり取りをしていると、ホントなんでもかんでも自分だけで抱え込んでたのがバカらしくなるな。
利久の言う通り、もっと早く愚痴っとけばこんな事にならなかったんだろうなあ。
「先輩聞いてます!?」
「わあ!聞いてる聞いてる!あーとりあえず、おまえらありがとな」
「な、なんですかいきなり・・・」
「いや、ホント色々助けられた」
俺はそう言って頭を下げた。特にこの二人には色々心配も掛けたしな。いくらお礼を言っても足りねーよ。
「でも先輩、しばらく休むって・・・」
燈色が少し気を遣うような感じで俺にそう聞いてくる。そういえば休む理由は言ってなかったな。
「ああ、まあな。でも、こんなにゲームやってないの久しぶりだし、それも大事かなと思ったんだ」
「やめるわけじゃないんでしょ?」
利香にそう聞かれた。そういえば利香には、以前も同じこと聞かれたな。あの時は「わからん」て答えたんだったっけ?
「ああ、休むだけだ。しばらくしたらまたログインするよ」
「わかりました」
利香はそれだけ聞くと、それ以上は何も言ってこなかった。
「そういえば、死者の島の情報はチェックしてますか?」
「あー全くしてねえ」
俺は燈色の質問に正直に答えたよ。だってそれどころじゃなかったもん。
「でしたら休んでいる間、 新アップデートについて調べてたらいいのでは?」
「リフレッシュするために休むのに、ゲームの事調べるの俺!?」
ゲームを休んでリフレッシュしようとしてる奴にゲームの事を勧めて来るとか、とんでもない奴だぞこいつ。
「はい。そうすれば、はやく復帰したくなるかもですよ」
「・・・わかった」
俺は燈色の言葉にわかったとしか言えなかったよ。ホント俺は、周りの人間に恵まれてるよな。
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