第35話 電話
「うーん、どうしようっかな~」
だが、彼女の後輩だけは、それを見逃さなかったようだ。
「先輩、彼氏の悩みですか?」
「違うよ~、なんでそうなるのよ」
「だってこの前別れる別れないで揉めてたじゃないですか」
なんでこの子はこんな事だけは覚えてるんだろう?そう思いつつも、顔に出さないように対応していく。
「違うよ。あいつとはもう別れたしね」
「ええ!そうなんですか?」
「そうだよ」
桐菜はこれ以上ないくらい簡潔に答える。少しでも興味をひかせるような返答をすると、「どうしてですか?」攻撃が始まるからだ。
「どうしてですか?」
しかし桐菜の思惑は外れ、後輩の女子は遠慮なく桐菜に質問をぶつけてくる。
(あ~、今日は考え事に没頭していたいんだけどな~)
彼女の言う考え事とは、オンラインゲーム「ブラックアース」内で起きた、とあるギルド内での「事件」の事だ。
彼女のお気に入りのギルドメンバー「ダーク君」が、同じギルドメンバーの「アッキー」に暴言を吐いて、それから一度もゲームにログインしてないのだ。
暴言を吐いてゲームから退出した後、すぐにエリナちゃんから「ダークがすみませんって言ってます」と伝言があったので、たぶん凄く後悔してるんだと思う。
暴言を
桐菜はケータイを手に持ちながら、ずっとそんな事を今日は考えていた。アドレスには「ダーク君」と書いてある。
なんで「真司君」て書かなかったんだろう?と、時々考えては一人で笑っている。
「先輩!聞いてますか?」
「わあ、びっくりした」
「びっくりした!じゃないですよー!全然人の話し聞いてないじゃないですか!」
「ごめんごめん」
(今日はもう帰ろうかな~)
どうもここで考え事をするのは無理だと思った桐菜は、今日の所は自宅に帰ることにした。
「よし、帰るね」
「ええ!ちょっと待ってくださいよ!私も行きますから!」
桐菜はそんな後輩を気にすることなく、すたすたと部屋を出て行った。
◇◆◇◆◇◆◇
「それで、ケータイでずーっと話してたんですけど、もう全然話にならなくて!」
駅までの帰り道、後輩の話はずっと続いていた。どうやら彼氏と喧嘩した事を聞いてもらいたいらしい。
(それにしても、よくこれだけ話すことがあるもんだなあ)
桐菜は後輩女子に心底感心していた。
「それでえ、ケータイじゃ
「サプライズ?」
「突然彼の家に行きました!」
「え?それ大丈夫なの?」
「もう全然!おかげですぐに仲直りです!そのままその日はお泊りしちゃいました」
その情報はいらないな~等と思いつつ、桐菜は一つの考えにたどり着いた。
(電話はあれだけど、直接会うのは有りじゃないかな?)
一瞬そう思ったが、よくよく考えてみれば桐菜は真司の家を知らなかった。
それに、知らない年上の女がいきなり家に来たら、親御さんはびっくりして腰を抜かしてしまうかもしれない。
(うん、この案は無しね)
そして色々と考えた結果、真司のゲーム内彼女であるエリナこと里奈に聞いてみようという結論に至った。
以前も彼女経由で
(うん、そうしよう)
そして色々と話したりない後輩と別れ、桐菜は家路へと急いだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ダークなら元気にしてるわよ」
「そっかそっか」
里奈がゲーム内にログインすると、すでにゲーム内に多桐菜から「真司君は元気?」と聞かれたので、返答していた所だ。
「気になるなら電話すればいいじゃない」
そもそも遠慮して電話しないような性格では無い事は、里奈はよーく知っている。付き合いもそれなりに長いのだ。
「いやほら、傷心のダーク少年に、年上のお姉さんから電話で励ましとか、逆に嫌かなあって」
「何言ってるのよあんた」
桐菜のこういう所が里奈はよくわからない。なんで年上のお姉さんが関係あるのか。
「エリナちゃん、年頃の男子にはプライドとかあるものなの。変な励まされ方したら傷ついちゃうこともあるよ」
「そんなもんかしらねえ」
ますますもって里奈には桐菜の言っている事がわからなかった。そもそも真司にそんな変なプライドとかあっただろうか?
でも、何かしらのストレスが溜まったからこそ今回の事件に繋がった事を考えると、桐菜の言っている事もあながち間違ってはいないのかもしれない。
「ま、気を付けとくわ」
「それがいいと思うよ。あと、桐菜お姉さんが凄く心配してたと伝えといてね」
「あんたね・・・。一応私はダークの彼女なんだから、そこらへん考えなさいよ」
「え?でもゲーム内限定でしょ?あ!もしかして実は・・・」
「ない!無いから!実際に付きってるとか無いし!」
「じゃあ良いじゃない。お願い!><」
「でも傷ついちゃうんじゃなかったの?男心が」
「私が心配していたと里奈ちゃんが伝えるだけだから全然OKだよ」
「わかったわよ・・・」
(何か違うんだろうか?)
里奈はしぶしぶ承諾した物の、桐菜が心配していたと言われて喜ぶ真司の姿が容易に想像出来、何故かわからないがむしゃくしゃした気分になっていた。
◇◆◇◆◇
「そういうわけで、桐菜が心配していたわよ」
「そうか・・・」
里奈はゲームからログアウトし、今は真司の部屋へと来ていた。
そして、先ほど桐菜から言われた通り、真司に伝えていた所だ。
真司の反応は喜んでいる・・・というよりも、皆に心配かけて申し訳ないという気持ちの方が大きそうだと里奈は考えた。
「あんたさ、そんなに気になるなら、直接明海さんに電話して謝れば良いじゃない」
もうずっとこんな調子だと、はっきり言って里奈としてはイライラして仕方なかった。もちろん、以前自分も同じように行動していた事はすっかり忘れている。
「あーうん。それはさっき
「燈色?」
「さっき電話かかって来たんだ」
そういえば、さっき一度真司の部屋に来た時、電話中だったから引き返した事を里奈は思い出した。
実は以前燈色から、先輩に声を掛けたいのだけど、どう声を掛けて良いのかわからないと相談されたことがある。
その時は「そんなもの勢いで言えば良いのよ!」とアドバイスしたのだが、やっと電話ではあるけど実行に移したようだ。
「先輩も色々思う所はあると思うけど、向こうも同じだと思うって。だから、先輩が電話する事で、明海さんも心が軽くなるんじゃないかって」
「ふーん、燈色も良い事言うじゃない」
自分達と遊びたいが為に、斜め上の行動をしていた燈色とは思えないセリフに、里奈は、顔が少しにやけてしまっていた。
「何をにやけてんの?」
「にやけてないわよ!それよりどうするのよ!」
里奈はにやけ顔を見られていた恥ずかしさから、ややキレ気味に真司にそう聞いた。
「ん?あーそうだな。電話してみる」
「そうね、それがいいわ。じゃあどうぞ」
そう言って、右手で「どうぞ」のジェスチャーを行う里奈。
「は?」
「は?じゃないわよ!電話するんでしょ?」
「いや、今じゃねーよ!」
「何言ってるのよ!そんな事言ってたらいつまでたっても電話しないでしょ!」
絶対にそうだ。明日になったら、やっぱ今度するとか言い出すに決まってる。なら、姉の役目として、今絶対に電話させてやる!
里奈はそう考え「さあどうぞ」と再び電話を促した。
「まじかよ・・・」
こうなったら真司は諦めて、間違いなく電話をするだろう。こういう事は、思い立ったが吉日なのだ。
そして里奈の思惑通り、真司は姉の前で携帯電話を取り出した。
さすがにここからは、私が居てはいけない気がする。そう考えた里奈は、真司の肩を「ぽんっ」と叩き、そのまま部屋を出て行った。
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