第13話 なんか飽きてるのよね

 俺の予想では、姉貴に動画やブログを勧めたら、絶対速攻で拒否ると思ってる。うん、絶対そうなると思ってた。さっきまでは。


「うーん」


 俺の提案を聞いた姉貴は、さっきから腕組みしてずーっと考え込んだままだ。


「おい里奈」


「ん?何?」


「お前、動画とかブログとか、やるの嫌じゃないの?」


「あー・・・。まあ、あんまり得意じゃないかも」


「だよなあ」


「だよなって・・・。あんたが提案してきたのに、何よその言い草は!」


 ぎゃあああああ!なんか怒り出した!


「ち、違うんだよ!ダメ元で提案してみようと思ってたからさ・・・」


「あ、ああ・・・。そういうことね」


 姉貴は振り上げた拳を静かに卸す。

 その拳でこいつは何をする気だったんだ・・・。


「ここだけの話なんだけど・・・」


「ん?」


 俺は姉貴の話に耳を傾ける。


「私ね、正直言うと・・・」


「うん」


「少しゲームに飽きてるのよね」


「え!そうなの?」


 里奈の口から出てきたのは、すげえ意外な言葉だった。


 里奈がINT型を作って、それで高レベルを目指す事を決めてからしばらくはすげえ楽しかったらしい。

 何しろ、あまり前例が無いので、ネットにも装備や立ち回り方の攻略もほとんどなく、自力で情報を集めるしかなかった。

 けど、逆を言えば、やることがたくさんあってかなり充実してたんだと。

 でも今は、装備も収集可能なものはほぼ集めたし、後は高レベル帯の狩場でしか集めることが出来ない装備ばかり。

 そうなると一緒に行けるのは、桐菜さんのシャイニングマスターくらいで、俺達とは一緒に遊べなくなるし、それは本末転倒だ。


「それを、このまえ桐菜きりなと話してて自覚したのよね」


「桐菜さんと話してて、自分が飽きてるって事を自覚したのか?」


「そ」


 里奈の奴、桐菜さんがシャイニングマスターをレベル100目前まで育てておきながら、なんで放置しているのか気になってたらしく、このまえ聞いてみたそうだ。


桐菜「なんか飽きたのよね」


里奈「レベル100目前なのに?」


桐菜「私ね、レベルを上げようと思って狩りした事ってあまり無いのよ」


里奈「それでそこまで上がるとかどういうことよ」


桐菜「あはは。あそこまでレベルが上がったのは、シャイニングナイトを盛り上げようとした結果だよ」


里奈「どういう事?」


桐菜「ほら、自分のレベルが上がっていくと、みんな次の段階の狩場に行きたくなるじゃない?」


里奈「うん」


桐菜「だから、常に皆とどの狩場でも遊べるようにと頑張った結果なんだよね」


里奈「そっか~」


桐菜「だからね?団長と新しいギルド作るって決めた時に、思い切って新キャラ作ったの。団長も明海あけみさんも、二人ともまだレベル低かったし、丁度いいかなって」


里奈「でもさ、そこまでレベル上げたキャラを放置するのって、もったいないとか思わなかったの?」


桐菜「少しはあったよ。けど、あの終わりの無いレベル上げをしなくて良いと思ったら、気が楽になったの」


 こんな感じの会話を、桐菜さんと二人でしたらしい。


 俺は桐菜さんがシャイニングマスターを放置しているのをもったいないな~とは思ったんだけど、今の話を聞いて、少し納得もしてるんだよね。

 だって桐菜さん、必死にレベル上げするようなタイプじゃ絶対無いもん。

 ギルドの皆と遊びたいからって理由は、いかにもあの人らしいよな。


「でさ、私もそれで気付いたのよ。飽きてるんだって」


「ふむ」


 俺や利久なんかは、装備もレベルも、まだまだ成長の余地がありまくりなんだけど、ある程度のレベルと装備に達すると、そう考えてしまうもんなのかもしれないな。


「もちろん、みんなと一緒に狩りするのは楽しいよ。けど、私の場合、ゲーム内じゃなくても繋がりあるのよね」


「ああ、確かにな」


「だから、正直モチベーションは下がってたのよね・・・。だけど」


「ん?」


「さっきあんたが言った、ブログや動画でINT型の解説とかやってみたら、やる気も出るのかな~とか思ったの」


 ああ!なるほどねえ。それでずーっと考え込んでたのか!

 でも、実際にブログとか動画とか自分に出来るのか?って事を、延々と考え込んでいたんだろうな~たぶん。


「で、どうする?」


「うーん、ちょっと考えてみる」


「そうか」


 まあ、そんな早急に結論を求めるような事では無いし、そもそも俺の問題では無いしで、その日の話はそれで終わった。

 後は姉貴がどうするか決める問題だ。



 次の日、提案してきた利香りかには一応報告しておこうと、俺は家路につきながら昨日の話を簡単に利香に説明していた。

 桐菜さんの話は本人から承諾を得たわけではないので、一応省いておいた。


「そうだったんですか・・・。色々と突き詰めた人にしかわからない悩みとかあるのかもね」


「だな。でもそう考えるとさ、レベル100を突破するようなやつってすげえよな」


「確かに。ほとんどの人が挫折しそうになる所を突破してるからね」


 そう考えると、やはり黒乃さんも相当な人だよな。

 認めたくはないが、ワールドマスターもレベル100を突破している。


「そういえば・・・」


「ん?」


「先輩はレベル幾つになったの?」


「・・・え?」


 な、なんで俺のレベルの話が出てくるんだよ・・・。


「里奈さんのモチベーションを高めるなら、先輩と里奈さんで、一緒に高レベルの狩場へ挑戦するのが一番の早道じゃない」


「あ、うん、そうね・・・」


「で、レベル幾つなの?」


「ご、ごじゅうはち・・・」


「・・・は?」


「だから58だってば!」


「えー信じられない!先輩、ダークをマスターするとか言ってたんでしょ?なんでまだそのレベルなのよ!」


「うるせえ!往来でダークをマスターとか言うんじゃねー!」


 こいつはいきなり何を言い出すんだよ!

 つーか、誰からそんな事聞いたんだ?


「え?アッキーさんが言ってたよ。「ダーク君は黒を制するって野望があるから!」って」


 あの人はなんで利香にまでそんな事を言ってるんだ・・・。


「と言うか、要塞戦に今後も参加するつもりなら、そのレベルじゃきついと思うよ」


「うっ・・・。けどさ、別にレベル上げをさぼってるわけでもなんでもないんだぜ?」


 これは本当だ。

 ゲームで遊んでいる間中、ずっと狩りばかりしているわけじゃないが、別に手を抜いているわけでもない。


「目標とか持ってます?」


「目標?」


「そう。例えば、今週までにお金をこれくらい貯めるとか、経験値をこれくらい稼ぐとか、具体的な目標を立てるんです」


「なるほどなあ。「今週はこれくらい貯まった!」じゃなくて、「これくらい貯めるぞ!」って考えるのか」


「そうすると、目的に向かって頑張れるので、だらだらなんとなくプレイってのが減ると思いますよ」


「確かにそれは良い案かも」


「複数の目標を作るといいかも。今週はこれくらいお金を稼ぎ、いついつまでに目的の装備を買えるお金を貯める事。そしてレベルも幾つにしておく。みたいにね」


「なるほどなあ。ただ単に狩りするよりも、すげえ頑張れそう」


「でしょ?もちろん、目標を順守する事が目的になっちゃだめだけどね」


「なんで?目標なんだから守らなきゃダメだろ?」


「そんな事してたら、目的と手段の意味が逆になっちゃうよ。あくまでもレベルを上げやすくし、マンネリにならない為の目標なんだから」


 ああ、そっか!

 レベルをあげたり目標を立てたりする目的は、「最終的にゲームを楽しむ事」であって、レベル上げそのものでもお金を貯める事でもないんだよな。

 要は、ある程度自分で管理しなきゃいけないって事だ。


 それにしても、こいつすげえな。

 俺より年下なのに、そんな事まで考えてたのか。

 やっぱギルドを仕切ってたりするから、色々考えることも多いんかねえ。


 容姿端麗ようしたんれい頭脳明晰ずのうめいせき、これで極度のブラコンでさえなきゃ完ぺきなのにな・・・。

 惜しい女だぜ火雷利香からいりか


「ん?なんか言った?」


「な、ななななななな何も言ってねーよ!」


「なにどもってるの?変なの」


 あ、危ねえ!なんつー勘の良さだ。

 口に出ていなくて良かったぜ・・・。


 それはともかく、利香に言われた目標の件。とりあえず今週からやってみようかな。

 姉貴の話をしてたはずが、おれまでアドバイスもらっちゃったぜ。

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