第12話 利香からの提案

 うーん、どうしたものかなあ。


 俺は、スカイポをかけて来た相手である「火雷利香からいりか」に、兄の利久りくがなんでへこんでいるかをどうやって説明すればいいものかと悩んでいる。

 でもどう考えても、ありのままを伝えるしかないよな・・・。

 なので俺は、今起こった出来事を、ほぼそのまま利香に伝えることにした。


「え!?ちょっとそれ、どういう事なんですか!?」


 うわあ、めっちゃ怒ってる!めっちゃ怒ってるよ利香の奴。

 そりゃそうだよなあ。最近すっかり忘れていたが、元々こいつはお兄ちゃん大好きなブラコンなんだよ。

 いくらゲーム内とはいえ、ギルドメンバーの前で兄が恥をかかせられたとなれば、そりゃあ怒るだろう。


「あー、この件に関しちゃホントスマンと思っている。申し訳ない」


「そういう事じゃないんです!一体どういう事なのかを聞いてるんです!」


 やべえ、ガチギレだこれ。

 ここまで怒っているこいつを俺は見たことが無い。

 どうしよう・・・。


「お兄ちゃんが・・・ヨーチューブやってるって一体どういう事ですか!?」


「・・・は?」


「は?じゃないです!私全然知らなかった!なんで!?いつからやってんの!?」


「まてまてまて!お前、利久がへこんでるから怒ってるんじゃねーの?」


「え・・・?いや、今の話聞いた限りじゃ、完全にお兄ちゃんが悪いよ」


 なんじゃそりゃ!

 つーか、じゃあなんで俺はこいつに怒られてんの?


「ていうか、先輩知ってたの?お兄ちゃんがヨーチューブやってるって」


「お、おう」


「なんで早く教えてくれないんですかー!先輩ばっかりずるい!」


 ずるいてなんだよずるいって・・・。


「いや、俺はてっきりお前は知ってるものだと思ってたから」


「なーーーんにも聞いてません!」


「いやほら、そこは家族だから恥ずかしかったんじゃねーの?」


 俺だって、そんなもん親兄弟には見せられねえよ。

 あいつだってそこは一緒じゃねーかな。


「むう・・・」


「そこは察してやれよ。な?」


「・・・えて」


「へ?」


「お兄ちゃんのヨーチューブチャンネル教えてって言ってるの!」


 そして俺はなすすべなく、利香に聞かれるままに利久のヨーチューブチャンネルを教えてやった。

 利久には一瞬悪いと思ったが、とくにあいつに義理立てするような事は何もないので、俺は悪くはないな、うん。



 次の日、学校に行くとあからさまに利久の奴が無視してきた。

 なので昼休みに無理やり捕まえて「俺じゃなくて姉貴に文句言え」と飯を食いながら言ってやったら、しぶしぶながらも納得はしたようだ。

 まあ、姉貴に文句を言うかどうかはわからんけど。


「大体なあ、姉貴の言う事ももっともだぜ?」


「なんでだよ!やってみなきゃわかんねーだろ!?」


「わかんねーじゃダメだろ。自分からやる!って言ったからには、何が何でもやり続けなきゃダメなんだぜ?」


「だから出来るってば!」


「動画編集やって、ブログも更新して、レベル上げもやるの?」


「おう!」


「まあ、お前にそれだけの覚悟があるなら、俺は何も言わないけどな」


「お前覚悟って、そんなおおげさな」


「ギルドの、いわば広報面を預かるんだぜ?そりゃあ自分からする!って言ったんだから、頼まれた場合より責任は重いだろ」


「責任って・・・」


「例えば、ギルドに入りたいって問い合わせに対する対応とか、新しい人が入っていた時の紹介とか、やることは色々あるぞ」


「・・・」


「ギルドのメンバーからの要望にも応えないといけないだろうし、ブログの勉強もしなきゃいけないしな」


「・・・」


「そしてお前の対応の仕方で、ギルドの評判が上がったり下がったりするわけだ」


「・・・」


「まあでも応援してるから!よーっし、ガンガンやりたいことを考えるから頼むぜ!」


「・・・なあ」


「ん、どうした?」


「よくよく考えたんだけど、動画チャンネル登録者の人達の事をまずは考えなきゃいけないし、やっぱ辞退するわ」


「そうなのか?」


「おう!俺の動画を待ってくれてる人がいる限り、全力を尽くす!」


「そうかわかった」


 こうして利久はあっさりとブログ運営から引き下がり、当初の予定通り俺がやることになりそうだ。

 本当は利久がしてくれた方が俺は楽なんだけど、この先ずっとぎくしゃくしていくのもな・・・。


 後、利久には責任がどうとかって言ったけど、俺はギルドに対する問い合わせなんかは、全部団長に丸投げする予定だ(キリッ

 俺がしたいって言ったわけじゃないから当たり前だよ。

 そこらへんはギルドメンバーにも言っとくつもりだ。やれる範囲でしか出来ないよ、と。



「あれ?」


 学校が終わり、放課後になったので、俺はさっさと帰宅部の活動を行っていた。

 所が家の門の前に、誰かが立ってるんだよ。

 誰だあれ?


「あ、先輩・・・」


 そこに立っていたのは、利久の妹「火雷利香」だった。


「お前何やってんの?」


「ちょっと話が合って・・・」


「話?まあいいや、入るか?」


 俺が聞くと、利香はこくんと頷く。

 

 家に入ると、幸いな事に誰もいないようだった。

 なんかこの言い方だと、俺が利香と二人きりで変な事考えてるように聞こえるな・・・。


 つーかさ、お袋とか居るとうるさいんだよ。

 毎回「あらあらあら、今日はお家デートなの?」とか!

 なんで毎回飽きずに同じこと言うのか意味がわからん・・・。


「んで、話ってなんだ?」


 俺の部屋で二人分の飲み物と適当なお菓子を用意して、俺は利香に質問した。


「先輩、お兄ちゃんの動画見たんだよね?」


「ああ、一応全部見てるよ」


「正直に答えてもらいたいんだけど」


「ん?」


「あの動画面白いと思う?」


「・・・・・・・・」


 これ、なんて答えたら正解なの?

 正直言って一番最初の動画だけは、知り合いがアップロードした動画って事や、自分も映像に映ってる事もあって、それなりに興奮して見てたのは事実だ。

 だけど2作品目以降は、一応義理で見てるとこが大きいかもしれん。


 だって、全然面白くないもん


 けど、そう正直にこいつに言って良いものだろうか?

 大体こいつは、まあ最近は落ち着いてきたものの、お兄ちゃんLOVEは健在だからな。


「その沈黙が答えって事ね・・・。はあ」


 ぎゃあああああああ!

 やばい!どう答えればいいのか考えすぎた!


「実は、私もお兄ちゃんが作った動画だからと思ってみたんだけど、全然面白く無かった!」


「・・・へ?」


 いや、こいつの事だから、お兄ちゃんの動画は世界いちいいいいいいいいいいい!とか、言い出すんじゃないかと思ってたんだけど、そっか、こいつでも面白くなかったか。


「と言うか、なんでお兄ちゃんを止めてくれなかったのよ!」


「ええっ!」


「お兄ちゃんに、面白い動画を撮ったりとかできるわけないってわかってるでしょ!」


「待て待て、おまえ酷い事言ってるぞ?」


「事実だもん!」


 確かにな。

 あいつはいつも、何かをやり始めては、途中でほったらかしにするのが基本だからな。

 だから、突き抜けてやるってことがあまりないんだよな。

 まあ、チャレンジ精神は買うけどね。


「けど、あいつのチャレンジ精神は凄いだろ?」


「やり遂げなきゃ意味なくない?」


 ごもっとも。

 つーか、こいつ手厳しいなあ。


「まあ、周りが何言っても聞かないでしょうし、諦めます」


「だな。周りに実害が出てるとかならともかく、あいつが好きでやってる事だしな」


「自由同盟の皆さんには被害が出てると思うけど?」


「うっ・・・」


「と言うかね?こういうのって、里奈さんの方が向いてる気がするんだよね」


「え?姉貴が?なんで?」


 あいつが動画なんて始めた日には、恥ずかしがって一言も喋れない気がするぞ。


「里奈さんて、プレイスタイルでも装備でも、我が道を行ってるじゃないですか」


「ああ、それはそうだな」


 そもそもINT型を選択している事もそうだもんな。

 とにかく回復役として、どこまで出来るかを徹底的に追及しているようなところはあるな。


「人がやらない事をやるってのは、動画サイトでは一番成功しやすい要素だと思うんだよね」


「なるほどなあ」


 確かに、誰でも知っている事を動画にすると、それは余程内容を面白くしないとみてくれないかもしれない。ライバルも多いし。

 けど、誰も知らない事を動画にするって事は、それはライバルが少ないって意味でもある。

 だけど問題はそこじゃない。


「問題は需要があるかどうかだろ?」


「需要ならありますよ。要塞戦とかで、INT型って知った途端、色んな人が集まってきてたでしょ?」


「そういえば・・・」


 考えてみれば、エバーの奴も珍しいとか言ってたし、ワールドマスターの奴も似たような事言ってたな。


「里奈が帰ってきたら、ちょっと提案してみるか?」


「ですね。私も出来ることがあれば手伝うよ」


 そんなわけで俺と利香は、姉貴にブログや動画チャンネルの開設を提案してみる事となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る