第11話 気遣い?いいえ違います

「あんたなんで利久に譲ろうとしてんのよ!」


 鬼のような形相の里奈から発せられたのは、俺が利久りくに言った「どーぞどーぞ」という言葉に対する怒りの言葉だった。

 つーかマジ切れしちゃってるよこれ。どうしよう・・・。


「いやほら、あれだ!自分からやりたい!って言ってる奴の意思を無碍にも出来ないだろ?」


「あいつは何でも「俺がー俺がー!」じゃないの!きっと飽きたら投げるに決まってるわよ!」


 あー、それについては否定は出来ないなあ。


「いやけどさ、だったらその時は、俺達が「ちゃんとしろ」って言ってやれば・・・」


「だったら最初から投げ出さない奴がやれば良いでしょ!」


 それはその通りですね。

 つーか俺だって、別にやりたいわけじゃねーよ!

 そういうと烈火のごとく怒りだしそうなので言わないけどね!


「大体今回も


「なんで俺が知らない所で話が進んでるんだよ!絶対俺の方が上手くやれる!」


みたいな、根拠のない自信だけで言ってるに決まってるじゃない」


 うんまあ、おれもそれは同意するわ。

 なんであいつは、あんな自信満々になんでも出来るって思い込んでるのか不思議だよな。

 あの自信を、俺にも少し分けて欲しいぜ。


「まあいいわ」


「ん?」


 俺がそんな事を悶々と考えていると、意外な事にそれ以上の里奈からの追及は無いようだった。


「いいの?」


「いいわよ。直接利久に言うから」


 ひいいいいいいいいっ!


「いやお前、ギルドチャットで何か言うつもりか!?」


「別に心配しなくても説得するだけだから」


「ホントに?」


「あんたも心配性ねえ。いくらなんでも皆の前で利久の面子を潰すような事はしないわよ」


 いっつもぼろくそに言ってるじゃん!

 と言う言葉が思わず出かかったが、寸前で呑み込むことに成功した。

 ま、まあ、姉貴だって成長しているわけだしな・・・。


 たぶん・・・。



エリナ「利久!」


 しばらくすると、里奈のチャットが画面に映し出される。


ライデン「なんすか?」


エリナ「あなたの気持ちはわかるけど、今回はやめときなさい」


ライデン「えー!なんでですか!?」


エリナ「大体あなた、動画だってヨーチューブでやってるし、その上ブログまで管理できるの?」


ライデン「いや、それはなんとかするし・・・」


エリナ「なんとかするって、時間は無制限じゃないのよ。要塞戦で活躍するためにもっと強くなりたいんでしょ?狩りの時間も減っていいの?」


 おおお・・・。

 すげえ、かなり説得力のある話をしてるぜ。

 確かに、狩りしながら動画を編集し、そのうえブログまでやってたら、全く時間は足りないだろう。


エリナ「あなたのやる気はくむけど、今回は引いときなさい」


 いや、これはさすがの利久も大人しく引き下がるんじゃねーか?

 利久の面子も潰すような事はしてない。

 むしろ「色々忙しいでしょ?」と遠回しではあるが、気遣っているとも言える。


ライデン「エリナさん、気遣ってくれるんですか・・・。ありがとうございます!」


エリナ「いいのよ、わかってくれれば」


 ふーーっ。


 思わず大きく深呼吸しちゃったぜ。

 一体どうなる事かと思ったけど、姉貴の奴上手い事説得しやがった。

 俺じゃ、あーは無理だったなあ。


 まあ俺としては、利久がやってくれた方が良かったんだけど、まあしゃーない。

 これでこの話は終わり。ブログをレンタルでもしてきますか。


利久「ですがそんなお気遣いは無用です!」


エリナ「は?」


 俺がログアウトして、ブログを借りに行こうかな~と考えている時だった。

 いい感じに終わろうとしていた話を、流れを全く読まない利久が悪い方向へと復活させていた。


利久「他の奴ならそうでしょうが、この俺は違います!ライデンチャンネルを見事なまでに運営している俺なら!」


ダーク「いや、物理的に考えて無理だろ。時間がねーよ」


団長「そうだよ~。無理しちゃだめだよ」


 俺だけでなく団長までもが利久を諦めさせようと参加してきた。


利久「二人ともサンキュー!だが俺はやり遂げるぜ!」


 ダメだこいつ。完全に皆が自分を気遣ってくれていると勘違いしている。

 違うんだよ!

 俺はお前を心配してるんだ!

 姉貴の怒りの鉄拳の餌食えじきになりそうなお前を!


エリナ「いやだからね?あんたじゃ無理だっていってんのよ」


利久「心配ご無用です!俺ならできます!大船に乗ったつもりで居てください!」


 利久の奴、マジでどっからこの自信が湧いてくるんだ・・・。

 やべえ、これ絶対里奈の奴いらいらしてるはず。


「ぷるるるるるる」


 いっそ利久に電話して、その辺にしとけと直接言おうかと考えていると、燈色ひいろからスカイポで連絡がきた。


燈色「先輩、あれなんとかして。絶対エリナさんきれちゃうよ」


真司「だよなあ。つーか、もうキレてたりしてな・・・」


エリナ「あんたいい加減にしなさいよ!」


 俺が燈色に返事をしていると、姉貴がギルドチャットで大爆発していた。


ライデン「な、何がですか!」


エリナ「何が「俺ならできる!」よ!あんんたじゃ無理だと思うから、みんな反対してるんでしょうが!」


ライデン「はあ!?なんで俺なら無理なわけ!?大体俺には実績があるし!」


エリナ「はあ?どんな実績よ?」


ライデン「ゲーム実況動画をアップロードして、今やチャンネル登録300を超えて、人気ゲーム実況者への第一歩を踏み出した事ですよ!」


エリナ「WWW」


ライデン「な、なんで笑うんですかー!」


エリナ「あんたの動画なんて、回を重ねるごとに見事に右肩下がりじゃないのwww」


ライデン「!?」



 うわあ、姉貴の奴いきなり核心を突きやがった。

 実は利久のブラックアースの動画、最初こそ5000を超えて、実は1万回に迫ろうとしてるんだが、2作目以降再生数が激減し、最新動画は300行くか行かないかまで落ち込んでいる。


エリナ「しかもコメント欄は、ほとんどあんた以外の人の事しか書かれて無いじゃないwww」


 おいおい、さらに追い打ちをかけるか・・・。

 ただまあ、実際利久はレベルがまだそれほど高くないので、どうしても里奈や桐菜さんの動きに視聴者の注目がいってしまうのは事実なんだよな。


エリナ「それなのに「俺ならできる!」ってどの口が言うのよwww」


 いやもう、その辺でやめとけって!

 こいつのHPはゼロだぞ?ゼロに近いんじゃねー。ゼロなんだよ!


燈色「先輩、エリナさんが暴走してる!止めないと!」


真司「だよな、ちょっと止めてくる・・・」


ライデン「そこまで言う事ないじゃないですかー!」


「ライデンがログアウトしました」


燈色「あー・・・・・・・」


真司「あちゃー・・・」


 止めに入るのが少しばかりおそかったみたいだ。

 利久の奴、怒ってログアウトしちまった。


千隼ちはや「エリナちゃん、今のはちょっとかわいそうだよ~」


エリナ「え?いやでもあいつホント根拠のない自信だけで発言してたし!」


団長「いやあ、それにしてもライデンの触れられたくない所をピンポイントに攻撃してたね~」


エリナ「うっ・・・」


アッキー「エリナちゃん容赦無かったねえwでも私は良いと思うよ」


団長「ええ!?明海あけみちゃんなんで!?」


アッキー「だって、誰かが一度びしっと言ってやらないと、あれはわかんないよ~」


団長「うーん、確かにそれはそうなんだけどさあ」


 確かになあ。毎回「俺が俺が」は、あまり良いとは言えないよな。やる気があるのは汲むけどさ。

 ただ、やっぱり姉貴は言い過ぎだと思うわ。

 特に俺は身内だから、余計そう思うのかもしれんけど。


 本来はゲームなんだから、その辺は適当でいいじゃんと思う俺と、いくらゲームでも、画面の向こうには感情を持った人間がいるんだから、きちんとしなきゃダメだ!と思っている俺がいるんだよなあ。


「がちゃっ」


 この後、利久にフォローの電話でもしとくかどうか真剣に悩んでいると、里奈が俺の部屋に元気なく入って来た。


「どうしよ・・・。思ったより大事になっちゃった・・・」


 なんか、勢いで言ったはいいが、自分でも言い過ぎたかもって後悔してるっぽい。

 なんでこいつは暴走機関車のように突っ走って、んで後で後悔するパターンから脱却できないんだろうか?


真司「とりあえず、利久と連絡とってみるから・・・」


「ぷるるるるる」


 再びスカイポの呼び出し音が鳴り響いた。

 今度は誰だ?俺が名前を確認すると


 火雷利香


 の文字が画面に表示されていた。


 このタイミングで掛けてくるって事は、絶対利久の事だろうなあ。

 なんか妹に愚痴ったんだろうか。

 そう考えながら、スカイポのアイコンをタッチする。


真司「あー利香、もしかして利久のこt・・・」


利香「なんかお兄ちゃんが、ゲームやってると思ったら、突然机に突っ伏して拗ねてるんですけど!」


 どうも本人と話す前に、妹に説明と弁解をしなければならないようだ。 

 つーか、なんで俺がこんな役回りをしなきゃいけないんだ・・・。

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