第3話 それって余計気まずくないか?

 俺は参加していないものの、参加者全員に冷や汗を流させた(本人含む)自由同盟オフ会から、約2週間が経過した。

 その間姉貴は、一回もブラックアースにログインしていない。

 別に傷心からとかそういうデリケートな理由ではなく「なんかあんな事になっちゃってログインしにくい」というものだ。


 とは言え、姉貴自身は現在割と暇らしく、空いた時間を「コールオブダーティー」へ費やしていた。


 コールオブダーティーとは、FPSと呼ばれるシューティングゲームだ。

 対戦がメインで、スナイパーやアサルトライフルなどのお気に入りの武器を手に、相手を倒しまくる。

 中でも人気なのは「チームデスマッチ」で、一人倒すと1ポイントが入り、75ポイントを獲得したチームが勝利となる。


 そして弟である俺も、連日この「コールオブダーティー」略してCODに連日付き合わされている。


「真司!右のショップ2階の窓敵が隠れてる!」


「え?右のショップってどれ?」


「ショップって言ったら一つしかないでしょ!」


「いやわかんねー・・・あーやられた」


「だから言ったのに使えないわね・・・」


「だったら姉貴が倒せば良かったじゃん!」


「はあ?私はさっきフラグ使ったから、2階への攻撃手段がありませーん」


「ありませーん、じゃねーよ!俺は初心者なんだから、丁寧に説明しないとわかんねーだろうが!」


 大体こいつの都合で俺まで付き合わされてるのに、なんで文句を言われなきゃならないんだ・・・。

 とはいえ、このゲーム、姉貴がポケットマネーでゲーム配信ストア「STORM」で買ってくれたんだよなあ。

 まあつまり、一人が寂しかったんだと思うわ。

 確かに燈色ひいろや俺と毎晩のように話してはいたけど、それもこのまえ燈色に断ってたからな。さすがに申し訳ないって。


 別キャラ作ってみてはどうかって提案はしてみたんだ。

 ブラックアースは1アカウントで複数キャラの制作が可能なんだよ。

 なので、誰も知らないキャラクターを作って、気晴らしでもしてみたらどうだ?ってね。

 そしたら「ん~それはなんか違う気がするのよねー」と言って、結局は実行しなかったんだよ。


 で、結局俺を巻き込んでCODのオンラインマルチ対戦で遊んでるってわけだ。

 まあ、俺もゲーム好きだから別に良いんだけどね。




「そういうわけで、ギルドの皆さんには上手く言っときましたから」


「悪いな燈色」


 次の日、学校が終わって駅までの帰り道、燈色から姉貴の近況をギルドのみんなに説明してもらった報告を受けていた。


「ダークさんを巻き込んでCODやってるみたいです、って言ったら、みんな笑ってた」


「そっか」


 まあ、思い切り巻き込んでるからな。それは間違いじゃない。

 実を言うとここ1週間、俺もほとんどブラックアースにログインできていない。

 まあでもそれはあまり問題では無いんだよね。と言うのが、俺は本当に「遊び」としてブラックアースをやってるから。

 まあ、ギルドの皆と遊べないのは残念だけど、期間が開いた所でログインしにくいなんて事は俺には無いしね。

 でも姉貴はちょっと違うんだよ。 姉貴の場合、INT型を極めたいと言う目標がある。

 本当はブラックアースをやりたいはずなんだよな。


「里奈さんの様子はどう?」


 俺がそんな事を考えていると、燈色が姉貴の様子を聞いてきた。


「まあ、今の所問題ないよ。毎晩俺と一緒にCODやってる」


「私も買おうかな・・・」


「え?マジで?」


「だって、私も里奈さんと遊びたい」


 燈色と姉貴の過去の因縁を知る身としては、こういう燈色の発言を聞くと、感慨深いものがあるよな。

 まあだからこそ、はやいとこ姉貴にはブラックアースに復帰してもらいたい。

 こういうのって時間が経つとさ、なんか戻りにくくなったりするじゃん。

 もちろん、姉貴とセンジンさんの間の問題には深入りしないけど、ゲームにログインしようぜ的な事は言っても問題ないだろう。


早速今晩あたりにでも話してみるか。




「う、うーん」


 この歯切れの悪い返事は、俺が里奈に「ゲームにログインせんの?」って聞いた事への返事だ。

 燈色と話してから、姉貴が返ってきたら一度、ブラックアースへのログインについて話してみようと思ったんだ。


「燈色も寂しがってるぜ?」


「そ、それはその、わかってはいるんだけど・・・」


「姉貴が居ないと利久りくの教育も進まないし」


「むう」


「そもそも、原因のセンジンさん・・・谷崎さんだっけ?ほとんどログインしない人じゃん。お前がINしたからって、向こうと鉢合わせになる可能性なんかほとんど無いだろ?」


「そ、そう思う!?」


 すげえ勢いで食いついてきた。

 まあ、こいつの一番の心配はセンジンさんと鉢合わせになってしまう事だったんだろう。

 この分じゃ、大学でもあまり会話してないんじゃないの?

 なので俺は、あいつが望んでいるであろう答えを言う事にする。


「そりゃそうだよ。これまでだってそうだったじゃん」


「だ、だよね!いやあ、大学でも顔合わせ難くて、あまりちゃんと話せてないから、ゲームで鉢合わせると気まずいと思うのよ」


 あーやっぱり、あまり会話してないっぽい。

 まあ、喧嘩したとかならともかく、オフ会で会ったら大学の講師と学生だったってだけだからな。

 お互いの悪口を言いまくってたというおまけはついてきたが。

 でも、早いとこ、なんでも良いから世間話くらいしとかないと、もっと話しにくくなる気がするんだけどなあ。


 と言うか、センジンさんて確か30歳前後だったと思うんだけど、そのくらいの年齢の人が、話しにくいからと言って、学生である姉貴と全く話さないなんて事があるんだろうか?

 それは助教として、つーか大人としてどうなんだ?


「なあ姉貴」


「なによ」


「谷崎先生は、お前に話しかけたりしてこんの?」


「あーまー・・・。時々こっちに向かってくるのは知ってたんだけど、なんか、つい逃げちゃったんだよね」


「逃げた?姉貴が?」


「だって仕方ないでしょ!なんか気まずいもん!」


 気まずいもん!じゃねーよ!


「いやそれ、余計気まずくね?」


「そうなんだよね・・・どうしよ」


「・・・」


 実はもっと言いたいことはあったのだが、姉貴が涙目になってたのでやめた。

 こいつは、人の事になると物凄い行動力を見せるのに、どうして自分の事になると、こうもポンコツになってしまうのだろうか?

 わけがわからん。


「まあ、それはともかく、だ」


「ん?」


「とりあえず明日あたりログインしてみようぜ。燈色も待ってるし」


「・・・ん、考えてみる」


 まあ、そんな感じでこの日の会話は終了した。

 明日姉貴がログインするかどうかはわからないけど、とりあえず夕方にでも誘ってみることにしようと思う。




「エリナさんがゲームにログインしました」


団長「お!」


エリナ「あの、大変お騒がせしました・・・」


アッキー「エリナちゃんキターーーーーーーーーーー!」


千隼ちはや「エリナちゃん遅いよーw」


燈色「お待ちしてました」


団長「おお!今日は賑やかだね!」


ダーク「師匠が来ねーから、ライデンが寂しがってたぜ」


ライデン「ちょ!」


エリナ「ごめんねみんな心配かけて」


アッキー「いいのいいの!全部ダーク君が悪いんだから」


ダーク「なんで俺!?」


アッキー「黒を制するから?」


ダーク「意味わからんし!」


 まさか、姉貴のログイン祭りで、俺がこんな目にあうとは思ってもみなかったぜ。

 明海あけみさん恐るべし!


団長「いやあ、なんか久々に盛り上がってるし、みんなでギルドハントとか行っちゃう?」


ライデン「行く!」


燈色「行きたいです」


千隼「私も行きたいかもーw」


エリナ「ノ」


 そして俺も、当然の如く参加を表明したよ。

 

 ギルドハントは大勢で行っても大丈夫な「蒼の草原」を選んだ。

 ここは、あまり大きなレアアイテムは望めないんだけど、そこそこにモンスターが湧いてくるので、人数が揃っているような時は非常に重宝するんだ。


エリナ「ちょっとライデン!あんた前に出すぎだって何回言えばわかるのよ!」


ライデン「えー、あれくらい平気だって」


エリナ「あんたが平気なのは、私や千隼がバシバシ回復魔法かけてるからでしょうが!ちょっとはこっちの事も考えなさい!」


ライデン「へーい」


 なんか懐かしいやりとりが目の前で繰り広げられており、ちょっと安心してしまった。

 だって、姉貴がログインしなかったら、こういうやりとりは見れないわけだからね。


 そして約1時間ちょい蒼の草原でのギルドハントを楽しんでから、解散となった。

 久々に楽しい時間を過ごした気がする。

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