第4話 カシオペアサーバーの現状

お兄ちゃんLOVE「なんか大変だったみたいね」


ダーク「ん?ああ、利久から聞いたのか」


お兄ちゃんLOVE「うん」


 俺が今話しているのは、俺の中学からの友人で、ブラックアースでも同じギルドに所属する「ライデン」である火雷利久からいりくの妹、「火雷利香からいりか」だ。

 彼女は、俺の高校の後輩であり、ブラックアースでも、要塞戦で最近最も勢いがあると言われる「お兄ちゃん大好き」ギルドの君主でもある。


 俺が最近拠点としている街「水晶の都」で倉庫整理を行っていると、利香からダイレクトチャットが届いたんだ。


お兄ちゃんLOVE「なんか、あのお兄ちゃんが疲れ果てた表情で帰って来たから、一体何事かと思って聞いてみたの。そしたら起こった事全部詳細まで話し始めて・・・。なんかごめん」


 まあたぶん、利久の事だから何も考えずに、妹に今日あった出来事を話した感覚なんだろう。まあ、自分の家族に話すくらいするだろうし別に問題ない。


ダーク「大丈夫。赤の他人ならともかく、自分の身内にくらい話すだろ?」


お兄ちゃんLOVE「そう?」


ダーク「ああ。それに、姉貴もこのまえからログインし始めたしな」


お兄ちゃんLOVE「ああ、フレンド一覧に里奈さんの名前があったから、それは確認した。心配かけてごめんて言われたわ」


ダーク「そっか。悪いな、ホント心配かけて」


お兄ちゃんLOVE「そんな事ないよ!先輩と里奈さんにはお世話になりっぱなしだし・・・」


ダーク「俺達こそ、助けられてるしお互い様だよ」


 ホントこいつには色々とお世話になってるからな。

 この前、うちのギルドでちょっと要塞戦の事でグダグダになってた時も貴重なアドバイスをもらったし。


ダーク「ところで、それを言う為だけに連絡くれたの?」


お兄ちゃんLOVE「あー、忘れてた!実は今日、ローザに攻めようと思ってて」


ダーク「おーまじかよ!」


 実は先日、お兄ちゃん大好きギルドと自由同盟とBMAの3ギルドで手を組んで、ブラックアウトが防衛する「ローザ要塞」に攻め込んだんだよな。

 あれは楽しかったなあ。


お兄ちゃんLOVE「それで、もしよかったら見学に来なさいよ」


ダーク「おー!行く行く!あ、でもさ、俺が行ったら「お兄ちゃん大好き」が攻めてくるって黒乃さんにばれるかもだから、お前らが攻め始めたアナウンスが流れたら行く事にするわ」


お兄ちゃんLOVE「ああ・・・。そうね、そうしてくれると助かる。黒乃さん、そういう所鋭そうだから」


ダーク「だな。まあ、頑張れよ!」


お兄ちゃんLOVE「ありがと」 


 がんばってるなあ利香の奴。


 実はサーバー内でも、「ブラックアウト」「シャイニングナイト」「風光明媚」のカシオペアサーバー三大ギルドに続く強豪ギルドに「お兄ちゃん大好き!」が入りつつあると、最近評判になっているらしい。

 どこで評判になっているかと言うと「カシオペアサーバー専用掲示板」で団長がそう書かれているのを見たんだと。


 まあ、コボルト要塞と並んで、長い間ネタ要塞として君臨していた「カルニスク要塞」を長期にわたって保持している実績も評価されているのかも。

 それに加え、「お兄ちゃん大好き!」という一度聞いたら忘れられないインパクトのあるギルド名も、ギルドを有名にしている一因かもな。


 それに比べれば、我らが「自由同盟」は、いささかインパクトに欠けるギルド名と言わざるを得ない。

 そもそも自由同盟と言う名前は、ゲームを思い切り自由に楽しむという理由から付けられたらしい。

 ただ、明海さんに言わせると、団長が好きな某スペースオペラ小説に出てくる「自由惑〇同盟」から取ったはず!との事なので、たぶん深い理由はないだろう。


 まあ、どっちにしても俺達も頑張らないとなあ。



エリナ「え?お兄ちゃんギルドが今日ローザに攻めるの?」


ダーク「そうらしい。だからアナウンスがあったら、俺は見学に行ってくるわ」


ヒイロ「そういえば最近要塞戦に参加していませんね」


 そう、最近俺達は要塞戦に参加していない。

 まあ色々あったのも理由の一つだけど、一番の理由は「資金が足りない」に尽きるだろう。

 要塞戦では、ヒーラー職の奴が回復魔法をかけてくれるんだが、もちろんそれでも足りない時の方が多い。

 そんな時は回復アイテムを使うんだけど、当然これは無料では手に入らない。

 特に戦士系の職業の奴は前線で戦う事が多いわけで、大量の回復アイテムを必要とするんだ。

 俺なんかは、姉貴がヒーラーで自分じゃ回復アイテムを使わないので、ソロプレイで雑魚モンスターから手に入れた回復アイテムを分けてもらったりしているので、かなりその辺りは楽なんだけどね。

 けど普通は自分で買うしかないわけで、そうなると俺らみたいな弱小ギルドは、回復アイテムを大量に消費する要塞戦には定期的には参加するのが難しい。


エリナ「まあ、うちは大手じゃないし仕方ないわよ」


ヒイロ「他所は他所、家は家ですね」


エリナ「そそ」


 パッパラーパララパッパラー


 そんなたわいない話をしていると、要塞戦の時間を示すファンファーレが鳴り響いた。


団長「お、時間になったようだね」


ダーク「ですね。でも、アナウンスが流れない所を見ると、まだ仕掛けないみたいです」


エリナ「多分、ある程度時間がたって、気が緩んだ瞬間を狙ってるんじゃない?」


ヒイロ「ですね。まあ、ブラックアウトに「気が緩む」なんて、そんな可愛げがあるかどうかは知りませんが」


 なんかここだけ聞くと、要塞戦ギルドっぽい会話に聞こえるなあ。

 燈色ひいろなんか、最初は「ブラックアウト」てなんですか?状態だったのに、最近ではカシオペアサーバーの要塞戦情報を調べまくって、ギルドで一番詳しいんじゃないかってくらいになっている。

 コボルト要塞であたふたしてた頃に比べたら、すげえ進歩だぜ。


アッキー「そういえばうちのギルドって、歴代要塞所持ギルド名鑑に掲載されてるよね」


団長「うん。一応、コボルト要塞をゲットした事があるからね!」


 歴代要塞所持ギルド名鑑ってのは、ブラックアースユーザーの誰かが作った、歴代の要塞所持ギルドを掲載しているホームページの事だ。

 要塞戦があるたびに更新されていて、コボルト要塞なんかは毎回所持ギルドが変わるので、物凄い数のギルドが名を連ねている。

 逆にローザ要塞なんかは、ずーっとブラックアウトの名前が掲載されている。

 ローザだけでなく、マーチス要塞や深淵の要塞なんかも所持ギルドはほとんど変わっていない。

 ブラックアウト、シャイニングナイト、風光明媚ふうこうめいびの3ギルドでずっと安定している。

 悪く言えば、停滞してるとも言えるかも。

 だから、お兄ちゃん大好き!のような、新進気鋭のギルドが出てくると、掲示板なんかも盛り上がるんだろう。


 自由同盟も一度だけ掲示板に話題になった事があるけど、あれはほとんどシャイニングマスター(千隼さんね)のおかげだったからな。

 いつか定期的に話題になるようなギルドになってみたいね!


 まあこれが、現在のカシオペアサーバーの現状みたいなもんだ。


「お兄ちゃん大好き!がローザ要塞に宣戦布告しました」


 俺がそんな事を考えていると、チャット欄にアナウンスが流れた。


ダーク「来た!行ってくる!」


エリナ「あ!私も行く!」


ヒイロ「私も行きます」


団長「僕も行こうかな」


アッキー「じゃあわたしもー」


 なんだよ!みんな来るのかよ!



 ローザに着くと、すでに隊列が門の中まで入り込んでおり、激しい戦闘が行われていた。

 前回お兄ちゃん大好き!と共闘した時は、俺達は主にサポートに回っていた。

 回復役を相手から狙われないよう護衛を任されていたんだが、今回は俺達のサポートが無い分自分達でどうにかするしかなく、人数的にちょっと苦しそうな気がするな。


 これまでも要塞戦は何度も見学していたんだけど、前回お兄ちゃん大好き!組んだことで、これまでは気にならなかったっつーか、見えてなかった点も、なんか意識してみるようになった気がする。


 そしてそのままタイムアウトとなり、ブラックアウトが見事にローザ要塞を守り切った。

 利香達も頑張ってたけど、やっぱブラックアウトは強いわ。


ヒイロ「やはりブラックアウトは強いですね」


ダーク「だなあ。お兄ちゃんギルドもかなり強いんだけどな」


エリナ「何というか、役割分担みたいなのがしっかりしてるわよね」


ヒイロ「はい。自分の役割をそれぞれがしっかりと認識してる印象を受けます」


エリナ「それに加えて組織力もあるし、個人のレベルも高い。嫌になってくるわね」


ヒイロ「同感です」


ダーク「・・・」


 こいつらすげえな。

 嫌になってくるって言葉が出るって事は、いつかブラックアウトに追いつき追い越したいって考えてるって事だろ?

 俺なんかブラックアウトすげーくらいの感想しかでなかったよ。


 まあでも、姉貴には結構良い感じの息抜きになったんじゃないかな。

 なんか、やる気も出て来たみたいだし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る