第30話 記念におひとついかがでしょう
「おい!お前なんつー声を出すんだよ!」
「いやだって、シャイニングマスターが先輩のギルドに居るって聞いたら、そりゃあ驚きますよ!特に要塞戦をやってる人間なら!」
「そうなの?」
「そんな事も知らないんですか・・・」
俺の間抜けな問いかけに、両手を広げ、肩をすくめて呆れる利香。すっかり忘れてたが、こいつはそういう奴だった。
「当時、シャイニングマスターが急にサーバーから居なくなったときは大騒ぎになったんですから!」
利香の説明によると、急にいなくなったシャイニングマスターを巡って、様々な噂がサーバー内を飛び交ったらしい。
例えば、ゲーム内規約に反する行動を取ったため、運営事務局からBAN、つまり強制的にキャラクターを削除されたとか、ゲームに飽きて引退しただとか、それはもう色んな噂で溢れ返ったんだと。
「もう、要塞戦をやってるギルドの間では、大騒ぎだったんですよ!」
「それは凄いな」
いや、なんか凄い人だってのは知ってたけど、サーバー中で話題になるくらい凄かったのかよ・・・。そこで俺は、以前黒乃さんがシャイニングマスターについて語っていたのを思い出した。
「そういえば、ブラックアウトの黒乃さんが言ってました。「彼女が居たら、カシオペアの評価も今とは違ったものになってたかもしれんな」って。自分は当時、手も足も出なかったって言ってました」
「うわー、自分より凄い人に言われると、なんか照れるなあ。でも、当時の黒乃さんの事は、私覚えてるよ」
「え?そうなんですか?交流があったとか?」
「いやあ、いいのかなあこれ言っても」
思い出し笑いをしつつ悩んでいる桐菜さんだが、そこまで口に出してしまったら一緒ではないだろうか?そう桐菜さんに言ってみた。
「それもそうね。でも内緒だからね!」
そう断りを入れてから桐菜さんが話し始めた黒乃さんのエピソードは、とてもあのキャラクターからは想像できない様な、爆笑物のエピソードだった。
当時、ブラックアウトが防衛していたローザ要塞に、シャイニングナイトが攻め込んでいった時の事。当時の桐菜さんはバリバリの先鋭職で、いつも先頭に立って門を攻めていたらしい。
で、門を先頭で防衛していたのが黒乃さん。でも待ってほしい。物凄い攻防が行われている中、イチイチ門を防衛しているプレイヤーの事を覚えているわけはない。ではなぜ桐菜さんが黒乃さんの事を覚えていたのか。
事件は、シャイニングマスターが黒乃さんに斬りかかって行った時に起こった。
当時の黒乃さんはまだ無名の戦士で、当然シャイニングマスターに勝てるわけはない。しかし、ただでやられるわけにもいかないと考えた黒乃さんは、必殺技を使って、少しでも桐菜さんのHPを削ろうと考えた。そして必殺技を使った瞬間だった。
黒乃水言「黒乃!
その叫び声が戦場一帯に響き渡った。
実はブラックアースでは「掛け声」というシステムが実装されていて、特定の動作を実施した時に、掛け声が出るようにすることが出来る。
魔法使いが氷の魔法で敵に止めを刺す時に「ダイアモンド〇ストー!」と叫ぶように設定する事も可能だ。そして戦士なら、例えば必殺技を使った時とかね!
どうも黒乃さんは、みんなで狩りに行った時に使っていた設定を解除するのを忘れたまま要塞戦に参加して、それであの惨状になったんじゃないかと言う事だ。
そのセリフが出た瞬間、一瞬だが時が止まったそうだ。まあ、本当に一瞬だったらしいけど。それ以後、黒乃さんは、要塞戦を行う人間の間で一躍有名になり、さらにレベル100プレイヤーになった事で、サーバーでも屈指の有名人になったらしい。
そういや以前エバーラングが、黒の一閃の名を持つ黒乃さんがどうたらって話をしたら、えらい慌ててたもんなあ。そりゃあ言えねえはずだわ。
ふと隣に座っている利香を見ると、顔を真っ赤にして口を押えて笑っていた。まあ、あの一条さんにそんなエピソードがあるなんて、そりゃ笑ってしまうよな。でも、本人に言ったらすげえ動揺しそうだから、今度会った時に面と向かって言う事にしよう!うん。もちろん、シャイニングマスターから聞いたとは言わないよ?
「提案があるんだけど!」
笑い地獄から立ち直った利香が、手を思い切り上げていた。
「はい、火雷利香ちゃん」
それに対し団長が、まるで先生のように利香を指名する。
「いや、小学校ですか・・・」
「ははっ、いいじゃない」
俺の突っ込みは団長に軽く流されて、利香の話が始まる。
「あのね?
「お、いいなそれ。でも「思ってた」って事は今は違うのか?」
だって思い切り過去形だもんな。
「ちょっと考えが変わったの。シャイニングマスターが復活、そして実明さんもシャイニングナイト創設者なら、もっと派手な事やってもいいかなって」
「派手な事?」
「例えば、うちとそっちの同盟で手を組んで、ブラックアウトに仕掛けるとか・・・」
「えええええええええええええっ!」
一瞬の沈黙の後、桐原家のリビングには驚きの声が広がった。
そして今、自由同盟とBMA,お兄ちゃん大好きの3つのギルドで作戦会議を行っているわけだ。いやもちろん俺は異議を唱えたよ?利香の所ならともかく、俺たちの同盟じゃブラックアウトには手も足も出ないって!けど、なんかあいつには考えがあるらしく、結局今日の会議を強引に開かれることになった。
会議の参加者は、
自由同盟が「団長」「ダークマスター」「シャイニングマスター」、BMAからは「桜マスター」「スターナイト」、お兄ちゃん大好き!からは「お兄ちゃんLOVE」「ブラックリスト」の合計7人だ。
本当はお兄ちゃんLOVEの人達は、シャイニングマスターが来るって聞いて、俺も私も!と凄いことになってたらしい。まあさっきまでもブラックリストさんはかなり興奮した感じで、シャイニングマスター、まあつまり千隼さんに挨拶していた。
「で、この前も言ったと思うけど、俺達じゃブラックアウトと戦うには戦力が足りないと思うんだけど」
会議スタートと同時に俺はそう言った。だって、利香達のギルドとの戦闘でも、戦力不足を毎回痛感させられてるというのに、ブラックアウトはその上だぜ?ありえねーよ。
「それはわかってます。その為の作戦も考えています」
「作戦?」
「はい。まず、ローザ要塞の門を攻めるのは、私達のギルドがメインで行います。皆さんには、戦士への回復と回復役を守る役をしてもらいたいんです」
「回復役って言うと、エリナ師匠やお兄ちゃんLOVEさん達ってこと?」
「はい。実は、ブラックアウトには、いつも回復役の人を不意打ちで狙われてまして・・・」
「不意打ち?」
「門を攻める時に、門で相手の戦士と戦ってる人に僧侶が回復魔法を使いますよね?」
「うん」
「で、その回復魔法を唱えている僧侶を、少人数で目立たないように近づいて攻撃してきます。僧侶なので攻撃に弱く、回復を自分たちに回すか、その場から逃げるしかありません。するとですね・・・」
「門で戦っている戦士たちに回復魔法が届かなくなり、前線が崩壊してしまうのよね」
利香に変わって答えたのはシャイニングますt・・・面倒なので千隼さんでいいか。まあ、千隼さんが答えてくれた。
「え、えげつないな・・・」
「容赦ないですよ~上位ギルドの人達は」
利香は発言すると同時に、お手上げのジェスチャーをとる。でも、外から見てる感じでは、かなり健闘しているように見えたけど、本人達からすれば、まだまだ大きな壁があるって所なんだろうか?
「いやけどさ?そんな大事な役目を俺達でやれるもん?」
聞かずにはいられなかったよ。だって、前線を維持できるかどうかの結構な大役だぜ?
「大丈夫です。回復役にそれなりの人数を掛ける予定なので、たぶん、回復役への攻撃自体を諦めると思います。あくまでも
「それなら大丈夫かな・・・」
「大丈夫だよダーク君。いつも通りいつも通り」
「そうですね!」
俺は千隼さんの言葉に頷いた。そうだよ、今から急に強くなったりは出来ないんだから、やれることをやるしかないんだ。
「それにしても、この要塞戦は話題になりますよ~」
「シャイニングマスターがいいるからか?」
利香があまりにも自信たっぷりに言うので、思わず聞いてしまった。
「それもありますけど~」
利香が言うには、ただいま絶賛売り出し中の「お兄ちゃん大好き」ギルドと復帰したシャイニングマスターが手を組んだ!そして、ブラックアウトに攻めているBMAって何なんだ!?
って事らしい。
「そんな上手くいくかな」
「行くに決まってるじゃないですか!いえ、上手く行かせるんです!」
なんか、そう熱く語る利香の背後に、燃え
ともかく、桜マスターの新しい出発、シャイニングマスターの復帰、まあこれは一時的な可能性もあるが。そして打倒ブラックアースに燃えるお兄ちゃん大好きギルド。それを自由/BMA同盟で行うのか。
うん、なんかちょっと、わくわくしてきたかも!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます