第28話 実明さんからの相談

 俺たちは、団長の家のリビングで、実明みはるさんが何故、グラマンというキャラクターを作り、そのキャラでプレイしていたかを聞いていた。

 俺は単に、ストーカー絡みのトラブルが何かだと思っていたんだが、現実は思っていたより深く重い話しだった。


「人間関係のトラブルは難しいよね・・・」

 桐菜きりなさんが、誰に語りかけるでもなく、そうつぶやいた。

  そういやこの人も、シャイニングナイトで色々あったんだよなあ。

 あ、それだと実明さんはシャイニングナイトでも揉め事に巻き込まれてる事になるのか。

 俺なんか、ブラックアースやっててトラブった事と言えば、姉貴が憧れの人だった事ぐらいか?

 いや、あれはあれで破壊力抜群だったけどな・・・。


 でもそう考えると、実明さんが俺よりもキャリアが長いのに、狩りのスキルがほとんど上達していない理由も合点がいく。

 たぶん無意識かどうかはわからないが、積極的に人と関わる事を避けていたんだと思う。

 そういや、絶対に一緒に行かないであろう俺の姉貴には、一緒に狩りに行こう!と誘っていたが、俺には絶対誘いの言葉を掛けなかった。

 里奈は絶対一緒に行かないだろうってわかってて声を掛けてたんだろう。

 そして俺は声を掛けられたら、一緒に行ってたかもしれない。

 それは実明さんもわかってたんじゃないだろうか。

 そう考えると、浅く広い付き合いは多かったように見える。

 桜時代の事と、シャイニングナイトのトラブルの両方の事で、人と深く関わらないように、無意識のうちになってたんじゃないかな。


 それにしても、今日里奈の奴がここに居なくて良かったぜ。

 今の話聞いたら絶対ブチ切れて、そいつらを呼び出しなさいとか言いかねないからな。

 あ!もしかして、姉貴にグラマン=実明さんだって言わなかった本当の理由は、これじゃねーの?

 だってあいつ、グラマンが実明さんだって知ったら、絶対なんで男アバター使ってるのか聞いて来るだろうし、あいつに押されたら、実明さん喋ってしまいかねない。

 心配性の実明さんの事だから、可能性は十分あり得るな。


「あの・・・」

 俺がそんな事を考えている時だった。

 黙って話を聞いていた利香が、実明さんと団長に向かって話しかける」


「何があったのかはわかりました。それじゃあ、今日私たちに協力してもらいたい事って何ですか?」

 そうなんだよなあ。

 今日団長は、協力してもらいたい事があると言って俺達を呼んだわけだけど、一体何の相談なんだろう?

 ストーカー対策ってわけでも無いだろうし、今現在問題が起きているわけじゃないんだから、特に相談したい内容なんて存在しないように見えるんだ。

 利香もたぶん同じことを考えていたんだろう。

 俺はちょっと聞きにくかったんで、あいつが聞いてくれて助かった。


「ああ、ごめん、最初に言っておくべきだったかな。」

 団長はそう謝って、再び話し始めた。


「実は今までの話は、今日相談したい事の前提として聞いてもらったんだ」


「前提・・・ですか?」

 思わず俺は聞き返していた。

 今の話を前提とすると、一体どんな相談があると言うんだろう?


「うん、そこは実明ちゃん本人から聞いた方がいいんじゃないかな」

 そう言って、団長は実明さんに発言を促した。

 団長に促された実明さんは立ち上がり、そしてこう言った。


「あの、私、もう一度「桜」という名前でブラックアースをプレイしたいんです!」


*****************


 帰りの電車の中、俺と利香は正直かなり疲弊していた。

 いやあ、普段使わない脳をフルに使用すると、こんなに疲れるもんなんだな。


 結局、良い案は出なかった。

 そして、とりあえず今日はお開きにして、それぞれ各自で考えてみようという事になった。

 実明さんは恐縮しまくりで、ずっと「すみません、すみません」って言ってた記憶がある。

 たださ、俺は当初かなり気楽に考えてたんだよね。

 だから、話し合いの場でこう言ったんだ。


「いや、だったら使えばいいんじゃないんですか?」


 って。


 いやあ、そしたら女性陣から非難轟々ひなんごうごうだったね!

 利香からは「馬鹿じゃないですか?」とまで言われた・・・。

 明海さんは「これだからもてない男は」とか言われ、桐菜さんからは「まあ、高校生の男の子にはわからないよね」と同情の目で見られ、実明さんからは困ったような笑いをされた。


「良いですか先輩!先輩は女の執念と横のネットワークを甘く見過ぎです!」


「お、おう」


「そして、ストーカーするような男は、もっと危険なんです!」

 利香に言わせると、ゲーム内だけでなく、ブラックアース専用掲示板なんかで、ある事ない事書かれたりするに決まってるらしい。

 そういうわけで、俺はさっきまで話し合いの最中ずっと小さくなってたんだ。

 そんな事言われてもわかんねーよ!と思ったが、反論すると3倍くらいで返ってきそうなので黙っていた。


 しかし実際問題、そういった困難をすべてクリアできて、桜と言う名前を使って平穏にゲームが出来る妙案なんぞあるのだろうか?

 さっき利香はああ言ったものの、さすがにかなり古い話だし、実際に問題が起こる可能性は低いと思っているようだ。


「でも問題はそこではなくて、実明さんが不安になっている事が問題なんだと思います」

 帰りの電車の中で利香はそう言った。俺もそれは思う。

  実明さんが何の不安も感じることなく、桜と言う名前を使用してブラックアースを遊ぶ。

 いやあ、これ難しいんじゃねーの?

 冷静になって考えると、段々そんな気がしてきた。

 そして俺と利香は駅で別れ、それぞれ帰路へついた。


****************


「しんじいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ」

 家に帰ると、般若が仁王立ちで俺の事を待ち構えていた。

 いや違った、里奈が腕を組んで俺の事を待ち構えていた。

 あれ?なんかつい最近こんな事があったような・・・。


「あんた、今日のお昼頃、髪を両サイドで結った女の子と駅で一緒に歩いてたんだってね」

 ちょ!こいつ、この前も、俺と利香が駅で歩いてた時に同じことで怒ってたのもう忘れたのか!?


「いやお前、この前も同じこと言ってたよな?」


「冗談よ」


「は?」


「どうせ利香なんでしょ?いくらなんでもそれくらいわかるに決まってるでしょ。ちょっとからかってみただけよ。」

 ぐぬぬぬぬ。まさかこいつにからかわれるとは思っても見なかったぜ・・・。

 ついうっかり構えてしまった自分が情けない!


「で、あんた達駅で何してたわけ?」


「え?」


「だから、駅で何してたの?」

 言い方は柔らかいが、あの目はマジだ。全く笑ってない。

 やべえ、まさかこんな事聞かれるとは思わず、何の言い訳も用意してませんよ俺。


 ・・・・・・・・・・。

 いや、ちょっと待て。

 これさ、姉貴に相談できる良い機会じゃね?

 実明さんの過去の事、そして今後の事。

 

 もちろん俺はエリナに聞くのはルール違反だと思う。

 なので俺は、黒部里奈という、俺の姉貴に弟としての立場から聞こうと思ってる。


 わかってる。屁理屈へりくつなのは十分わかってる。

 けどさ、里奈の奴、こういう時の機転の利き方だけは確かなんだよ。

 もちろん、なんでエリナが呼ばれなかったのかって聞かれたら、お前が暴走するからだと言っておく。

 これは本人も自覚があるので、逆切れしたりは・・・俺にはするかもだが、実明さんにキレたりはしないだろう。


 よし決めた!

 実明さんには悪いが、グラマンの事姉貴に相談する事にする。


 そして俺は、俺の事を問い詰める気満々の姉貴に向かって、俺の部屋で話さないか?と、提案した。

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