第27話 実明さんの過去

 俺と利香と一条さんの3人で行ったオフ会からしばらく経った後、俺はこっそり団長にグラマンこと実明みはるさんの事を聞いてみた。

 と言うのが、団長や桐菜きりなさん達と相談した結果、団長が実明さんに直接聞いてくれることになったからだ。

 

「実はその事なんだけど、今度僕の家に来れないかな?実明ちゃんが直接説明したいって言うんだ」


 直接説明ってことは、やっぱり何かあったんだろうなあ。


「それはもちろん大丈夫です。大丈夫なんですけど、俺が聞いても良い話ですか?」


「あー、それはもちろん。出来れば真司君たちにも協力を願いたい話だし」


 協力?俺らが何か協力しないといけないような事態なの?

 実明さん大丈夫なのか?


「それと、お兄ちゃんLOVEさんも来れたりするかな?彼女にもお世話になってるし、説明した方がいいんじゃないかって言ってるんだ」


「あー、わかりました。俺の方から伝えときます」


 まあ、今回は利香にもかなりお世話になってるみたいだしな。

 実明さんの事だから、説明義務があるとか固い事考えてそうだ。


 とにかく次の週末は、団長宅で実明さんが何に悩んでいるのか聞くことになった。

 俺たちが協力できることがあればいいんだけど。

 そして俺は、利香に週末団長宅へいけるかどうかのラインをしてみた。


「もちろんOKですよ。私も気になってたし」


「そっか。わかった、団長に伝えとく」


「あ、でも私、団長さんの家知らないんで、先輩案内して下さいね。それと時間は早めにお願いしますよ」


「へいへい」


 そういうわけで、利香も週末の団長宅へ行く事となった。

 あれ?俺、なんか忘れてる気がするんだけど、なんだっけか?

 まあ、思い出せないって事は、そうたいした事でも無いんだろう、うん。


 ****************


 そして、週末の団長宅。


 リビングには、団長、明海さん、桐菜さん、俺、利香、そして実明さんの6人が集まっていた。

 実明さんには色々と聞きたい事は山ほどもあるが、まずは無難に久しぶりの挨拶だ。

 あ、今日は利香も連れてきてるし、紹介もしとかなきゃな。


「あー、実明さん、このひとがお兄ちゃんLOVEこと火雷利香、俺たちの1年後輩です」


「あ、あの、初めまして桜菜実明さくらなみはるです。よろしくお願いします」

 そう言って実明さんはぺこりと頭を下げる。


「そういうわけだから、仲良くしてやって・・・おいどうした利香?」

 さっきから実明さんを指さして、俺と実明さんを驚愕の表情で交互に見ている後輩に声を掛けた。


「え?だって、え?ええ!?」

 完全に混乱している火雷利香高校1年生。


 俺は心の中で「よっしゃああああああ!」と声を上げていた。

 だって、グラマンが女の子だって知らなかった俺は、それは驚いたもんだよ。

 なので、目の前で後輩女子が、明らかにうろたえてる様は、非常に心地よかった。

 仲間、ゲットだぜ!


「真司君は、自分もグラマンが女の子だって知った時凄いびっくりしてたから、自分と同じ反応が見れて嬉しいんだよね!」


「ちょ!明海さん!なんでばらすんですか!」


「うひひひ」

 俺のささやかな優越感は、明海さんのおかげでほんの数秒で終わってしまった。

 その後、へそを曲げてしまった利香をなだめるのに、それ以上の労力を使う羽目に。

 いたずらなんか、しなきゃよかった・・・。


「じゃあ、真司君の掘った墓穴が埋まったところで、本題に入ろうか」


「ぐっ」

 団長余計な一言を・・・。

 まあでも、あまり明るい話題じゃなさそうなので、軽く本題に入れたのは良かったかな。


「皆さんには、大変な心配とご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」

 実明さんの話しは、まずは謝罪から始まった。

 そんな事ないよと言いたいところだが、まあ心配はしたな。


「今回私が悩んでいたのは、まだ私がブラックアースを始めたばかりの初心者の頃に起きた出来事に関係があります」

 まあ、ゲーム内のアバターの可愛さから、困った事は無いか?とか聞いて回ってたし、たぶんゲーム関連だとは思ってたけどね。

 けど、グラマンのキャラで、ストーキングや恋愛感情のもつれなんか発生するのか?っていう疑問もある。


「私は、ゲームを始めた当初、グランドマスターではなく別のキャラクターを使っていました」


「・・・え?」

 たぶん、実明さんから話を事前に聞いていたであろう団長だけだったんじゃないかな。まったく驚いて無かったのは。

 あの桐菜さんさえ驚いているし、今まで誰にも話したことは無かったんだろう。

 もちろん俺もめっちゃびっくりしている。


 ただ、それだと、実明さんがストーカー関連で悩んでいるって説は、現実味を帯びてきたかもしれない。

 以前さ、グラマンが実明さんだって初めて知った時、なんでグラマンなんて男アバター使ってるんだろう?って、まあ当然疑問に思ったんだよね。

 たぶん、実明さんの最初のキャラクターは女性アバターで、誰かにストーキングされて、男アバターにしたんじゃないだろうか?

 まあ、現時点ではあくまでも予想なんだけど、割と自信がある。


「えっと、なんでキャラクター変えちゃったの?」

 このメンバーの中でも、一番驚きが少なかったであろう利香が、実明さんに質問する。

 まあ、ここ最近だからね。グラマンと親しくなったの。


「私は、以前は「桜」と言う名の女性アバターを使ってゲームをしていたんです」

 あーやっぱりそうだったんだ。

 グラマンじゃどう考えてもそんな問題に発展しそうにないしな。


「最初は仲の良い仲間も出来、楽しく遊ぶことが出来ていたんです」

 実明さんは、淡々と過去に合った出来事を話してくれた。


 実明さんは今でもかなり控えめな性格だが、当時はもっと奥手で引っ込み思案だったらしい。

 だけど、それを「大人しくて性格が良い」や「お嬢様風」と勝手に脳内変換した、一部の男性ギルド員達の間で「桜フィーバー」が巻き起こってしまった。

 調子に乗ったギルド員達は「桜ファンクラブ」まで作ったらしい。

 それだけならまだ良かった。実明さんが我慢すればいいだけだったから。


 しかし、これで面白く無かったのがやはり一部の女性ギルド員達。

 自分以外の女性キャラが異様なほどにちやほやされている状況に我慢が出来なかった。

 良い意味でも悪い意味でもギルドの中心となっていたメンバーが分裂したことで、ギルドそのものの状態も二分された状態に。


 それでもギルド内には、桜の本質を知っている友人たちが何人もいて、彼女達と楽しくプレイできていた。

 でもある日、桜と仲の良かった女性ギルド員が、密かに想っていた男性キャラが「桜ファンクラブ」に入会。

 桜と仲の良かったその女性ギルド員は、桜に暴言を吐いてギルドを抜けていった。

 

 限界を感じた桜は、すぐにギルドを脱退。

 しばらくは単騎でブラックアースを遊ぶことに決めた。


 だが、桜が脱退したことを知ったファンクラブメンバーは、桜が脱退したのは嫉妬で桜をいじめていた女性ギルド員が悪いと決めつけ。

 ギルド内で大論争が起こり、結果的にギルドは解散。


 一部の女性プレイヤーは、これは桜のせいだと桜に誹謗中傷のメッセージを送り付け、一部の男性プレイヤーは桜のストーカーとなり、彼女に付きまとうようになった。


 そして彼女はブラックアースにログインしなくなった。


 正直ここまでの話だとは予想もしてなかったわ。

 てっきりストーカーされて、それが嫌で男性キャラを作っただけかと。


「それにしても、よくブラックアースに戻ろうと思いましたね。私だったら、頭にきて、絶対復帰とかしませんよ!」


 実明さんの話を聞いて、心底怒っていた利香が話しかけた。

 こいつは話の途中でも「ひどい!」とか「きもい!」とか言ってたんだ。


「ギルドに入った当初の、和気あいあいとした雰囲気が忘れられなかったんです。私は実生活でも、あまり前に出れる方ではありませんでしたから尚更ですね」


 ここから実明さんが話してくれたのは、どうして復帰したかだ。


 さっき本人が話したように、ギルド加入当初の、楽しい雰囲気が忘れられなかったのが大きな理由らしい。

 でも、普通に復帰しても、ストーカーや誹謗中傷のメッセージがまた届くのではないかと思うと、怖くて復帰できなかった。

 じゃあどうすればいいか。


 一つは新キャラを作る事だった。

 桜には愛着があるが、現実問題として、新たなトラブルの火種を生む可能性があった。

 だけど、誰も知らない新キャラならその心配はない。


 二つ目は、男性キャラを使用する事だった。それも、エキセントリックな男性キャラを。

 普通に男性キャラを制作しようと思ったらしいが、ブラックアースには、結婚や恋愛システムがある。

 仮に、実明さんの作った男性キャラに、他の女性プレイヤーが告白してきたとして、普通だったら「私実は女なんです」で済む話だ。

 しかし実明さんはそれをしたくない。女性だとバレたくない。

 だったら、ちょっと風変わりなキャラクターを作ろう。そうなったらしい。


 そして誕生したのが「グランドマスター」つまりグラマンだった。

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