第26話 黒乃水言さんの正体
最近は隣町へ行くことが多い。団長宅にも行ったし、姉貴のパソコンの下見にも行ったしね。
「それにしても、いきなりオフ会しようって言われるとは思いもしませんでした」
「だよなあ」
だって、ダークマスターとエリナが実は姉弟でしたってのを、なんで黒乃さんが知ってるの?ってライン送ったら、「オフ会しよう」って返信が来るとは、普通思わねーよ。
「そういや、利香は黒乃さんとは面識あるの?もちろん現実でな」
「ないですよ」
「あれ?じゃあどうやってコンタクト取るんだ?」
「来ればわかるとか言ってましたけど」
来ればわかるってなんだよ。駅前で、すげえ奇抜なファッションしてるとか、ダークマスター様はこちらとか書いた看板持ってるとか・・・。ないな、うんない。
ファッションと言えば・・・。俺は隣に座る、後輩女子の姿をチラ見した。
白のブラウスに赤系のリボン。リボンに色を合わせた、ひざ上のひらひらスカートに黒タイツ、そしてベレー帽という組み合わせだ。最初見た時は、どこのお嬢様かと思ったよ。
んで、俺は待ち合わせ時間ちょっと前に駅に着いたんだけど、15分前には来ていたという利香は、俺が来るまでの間ナンパされまくってたらしい。まあでも、ナンパした奴らの気持ちはわからんでもないけどな。でももっと早く来いと怒られたのは解せない。
「そういえば、あのグラマンって人の事、何か進展有りましたか?」
そうだった!こいつから教えてもらったおかげで、団長がグラマンこと実明さんに話をしてみるって流れになったんだった。
「あの時は教えてくれてありがとうな。おかげで、グラマンと付き合いの長いうちの団長が、グラマンに話を聞いてみるって流れになったよ」
「そうですか。なら良かったです。自分から言った手前、ちょっと気になってたので」
こいつは、本当に利久の妹か?ってくらい、気が付く奴だよな。
ややブラコン気味だが。
「別にブラコンじゃないもん!」
「あれ?なんで俺の思ってる事がわかったんだ?」
「思い切り口に出してました!」
「ありゃ、失敬失敬」
まあ、今のはわざと口に出したんだけどね!
さて、そんな楽しい【?】会話をしていると、いつの間にか隣町に着いていた。
「えっと、確か「来ればわかる」って言ってたんだよな」
「はい。えっとですね、駅前の「unique」ってカフェで待ってるそうです」
カフェ「ユニーク」か。やっぱユニークな格好で俺らを待ってるって言う意味なんだろうか?まさかなw
カフェ「ユニーク」は、本当に駅の真ん前にあった。ドアを開けると「カランコロン」と音が鳴り、目の前には「ユニークへようこそ」と書いてあった。そして「ユニーク」の由来、唯一無二の自分だけの空間を楽しんでほしいとの店長のメッセージが添えてある。
あー、ユニークってそっちのユニークだったのか!てっきり面白い方の意味かと思ってたわ。
そう思いながら店内を見回すと、完全な個室ではないんだけど、固定された煉瓦で作られた仕切りが、本当に自分だけの場所を作ってるような雰囲気の店だった。
「良い感じのお店ですね」
利香も俺と同じ感想を持っていたらしく、興味深そうに店内を見回している。
そして俺は、店の奥から手招きする一人の女の人を見つけた。
「あれ?」
「先輩知り合いですか?」
利香もその女性に気付いたらしいが、自分は顔見知りでは無かったので、俺の知り合いかと思ったらしい。
「久しぶりですね。お姉さんにはいつもお世話になってます」
ニコッと笑いながら、そう話しかけて来たのは、パソコンショップTSUKUNEの店員さんである「一条」さんだった。以前、里奈がパソコンを買い替えるときに随分とお世話になったんだ。
「あ、初めまして
そういってペコリと頭を下げる。
「あ、初めまして
そう言って、微妙に苦笑いをする一条さん。
この時点で、俺はとある結論に辿り着いた。いや、辿り着いたって言うか、もうそれしかないんじゃね?って思った。あれだ、今までの経験から言って、もうそれほど驚いたりはしねーぞ。そもそもエリナ師匠が姉貴だったってのを経験したし、実はグラマンが女でした!ってのも経験済みだ。しかもお兄ちゃんLOVEは利久の妹だったしな。
もう驚かないぞ!
「初めまして、ブラックアースで「
「えええええええええええええええええええっ!」
すまん、思い切り驚いた。
*******************
俺と一条さんと利香が座ったテーブルには、俺が頼んだコーヒーと、利香の頼んだケーキセット、そして一条さんのミルクティーが置かれている。
「ごめんね?里奈ちゃんと買い物に来た時に伝えてたら、こんな面倒にならずに済んだのに」
「いえいえ、おかげでなんで黒乃さんが俺たちの事知ってたのか、全部理解できましたから」
そりゃ、一条さんが黒乃さんで、里奈の奴が自分から俺と姉貴のゲーム内キャラを晒したんだから、二人の事を知ってて当然なわけで。
「と言うかびっくりされたでしょ?ゲーム内で付き合ってたダークとエリナが姉弟だったって知って」
「もうそりゃびっくりした!里奈ちゃんからゲーム内キャラの名前聞いた時は、どっかで聞いた名前だな~って思って、すぐに自由同盟の!ってわかったんだけど、あれ?あの二人付き合ってるって・・・って、もう大混乱w」
「ホント申し訳ない」
「ホントですよ。私だって、エリナさんとダークさんが付き合ってるって聞いた時は「え?え?」ってなりましたもん」
「あはは、利香ちゃんもやっぱそうだったんだ?」
「はい!」
俺達は、ゲーム内での他愛の無いはなしで盛り上がっていた。今の話のネタは、俺と姉貴の事だった。
「本当は里奈ちゃんも一緒にお茶したかったんだけど、里奈ちゃんは姉弟ってのは内緒がいいんだよね?」
「そうみたいです」
「でも利香ちゃんから、ダークさんが「なんで黒乃さんは、俺たちが姉弟だって知ってるんだろう?」って不思議に思ってますよ、ってラインが来たときは、びっくりしたよ。だってまさかリアルの知り合いだとは思ってなかったもん」
黒乃さんには、俺と利香が小中学生の頃からの知り合いだって事は、利香の方から話したらしい。黒乃さん、最初は俺と利香が恋人同士だって思ってみたいだ。。それを聞いた利香が全力で否定したけどな。
それにしても、やはりゲーム内と現実では随分と印象が違うな。どっちかって言うと現実の黒乃さんは、客商売をしているせいか、随分と物腰が柔らかい印象だ。ゲーム内でも物腰柔らかい人だけど、あの話し方だからな。やっぱロールプレイしてるってことんなんだろう。
「あ、そういえば利香ちゃん、あの話真司君にはしたの?」
ん?あの話ってなんだ?
「あ、はい。この前先輩の家にお邪魔した時に、少しだけですが」
「えっと?」
「グラマンさんの事ですよ」
ああ!その話か。
「あれ?一条さんもその話関係してるの?」
「実はね、私と利香ちゃんがゲーム内でお話してる時に、偶然グラマンさんが通りがかって・・・」
一条さんによれば、最初は世間話に花を咲かせていたらしいが、段々と、女性アバターで気を付けてる事や、今までに怖い目に合った事はないのか?などと言う話題になって行ったらしい。
それで、以前もそういう話を二人にグラマンがしていたんで、利香の方から俺に相談したみたいだ。
「あのグラマンって人、彼女さんか何かがストーカーされてるんじゃないの?」
利香や一条さんは、グラマンが実は「
俺も実は、グラマンがストーカーに悩まされてるんじゃ?と思ったことはあったんだけど、男性アバターだしそれは無いと思ってたんだ。けど、一条さんっつーか、黒乃さんにまで聞いているとなるとなあ。
もしかして実生活でストーキングされてるの?けど、女性アバターでどうのこうのって言ってるみたいだし・・・。
うーん、やっぱ団長からの報告を待つしかないよな。考えても全然わからんし。
*****************
黒乃さんとのオフ会も終わって、ご機嫌で家に帰ると、姉貴がリビングで仁王立ちしていた。
そりゃもう、どこに出しても恥ずかしくないくらいの立派な仁王立ちだったよ。あれ?この感じなんか前にも・・・。
「ただいま・・・?」
「そこ座って」
こえええええええええええ!目が完全に座ってるってのは、こういうのを言うんだろう。やばい!なんか目に涙がたまってきた!
「あんた今日、髪を両サイドで結ったカワイイ女の子と歩いてたらしいわね」
「は?」
髪を両サイドで結ったカワイイ女の子って・・・。
「は?じゃないわよ!なんかお嬢様みたいなファッションの女の子と歩いてたって、隣のおばさまが言ってたわよ!」
隣のおばさまって、あのスピーカーおばちゃんか・・・。まさか見られてるとは思わなかった。
「えっと、姉貴、それは誤解だ」
「何がよ!」
「お前の知り合いに、一人だけ、髪を両サイドで結った女の子がいるだろう?」
「いないわ!」
「即答かよ!いるだろうが!最近俺と揉めてた女子が!家でお前も泣かせたろうが!」
「泣かせた?私が?女の子を?ありえないわね!」
だあああああああ!なんでこいつは都合の悪いことはさっぱり忘れてるんだ!
「いやいや、お前、利香の事ストーカーとか言って泣かせただろうが!」
「ああ・・そういえば忘れてた。・・・なんで利香が出てくるのよ?」
「だーかーらー!今日歩いてたのは利香なの!」
「あ・・・」
あーもー!ホント察しが悪いぜ!
「で、なんで利香と駅前を歩いてたのよ?」
「え?」
あ、やばい!そこまでは考えてなかった!今日がオフ会だったことは言えねーし、なんかいい案は・・・。
「あーえっとだな、実は隣町のTSUKUNEショップに行ったんだ」
「TSUKUNE?美琴さんの所?」
「そうそう。お前がTSUKUNEで一条さんからパソコン見立ててもらった話をしたら、私にも紹介して下さいって言われたんだよ」
「あーまー、美琴さんの見立ては完璧だからね!」
自分の事じゃ無いのに、何故か鼻息荒く自慢してきた。
「まあ、そういうわけだ」
「まあ、なら仕方ないわね」
何が仕方ねーんだよ!って、突っ込みたかったのはやまやまだが、なんか怖かったので、そのまま部屋に引き下がっちまった・・・。
もちろん、利香と一条さんには「話を合わせて><」ってラインしといた。二人とも快くOKしてくれたよ。
Orz
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます