第23話 またこのパターンかよ!

 コボルト要塞戦で勝利した日から1週間。そろそろあの興奮も落ち着いて来た頃、俺とエリナ、団長とアッキーさんの4人と言う、非常に珍しい組み合わせで狩りに来ていた。


 本当はいつものメンバー、俺、姉貴、ライデン、千隼さん、燈色ひいろの5人でいく予定だったんだが、俺と姉貴以外の面子の都合が悪くなってしまった、じゃあたまには一緒に行こうよと、団長と明海さんと一緒に行くことになったんだ。


団長「いやあ、このメンバーで行くのもなんだか新鮮だねえ」


エリナ「だって、団長と明海さん、いっつも二人で行動してるんだもの」


アッキー「妬かない妬かない、エリナちゃんにはダーク君がいるじゃない♪」


ダーク「・・・」


アッキー「あれ?エリナちゃん、だーりんの反応が無いよ?」


ダーク「いやいや、ちゃんと聞いてますよ」


アッキー「あー、もしかして、二人っきりで本当は行きたかったとか?ごめんねーw」


ダーク「アハハハハ」


 あー!何が悲しゅうて、実の姉との仲を冷やかされないといかんのだ!そもそも、みんなは俺とエリナが姉弟とは知らないんだけどな。というか、そろそろ別にばらしてもいいんじゃねーの?とは思うんだけどなあ。何故にこうも頑なに拒否るのかがわからんわ。


エリナ「そういえばアッキーさん、アーチャー専用の回復魔法持ってるんだっけ?」


アッキー「持ってるよー。それっ」


 アッキーさんの掛け声とともに、俺のHPが回復していく。

 アーチャーの回復魔法は、少ない魔力や知能でも、最大限の回復量が約束された,

それはそれは凄い魔法だ。


 じゃあヒーラーなんかやらないで、アーチャーで回復魔法使った方がいいんじゃね?って思うだろ?ところがこの回復魔法、スーパーレアなので、市場価格がめちゃくちゃ高い。


 そのうえ、消費MPが半端ではないので、普段使いするには燃費が悪すぎるんだ。そしてアーチャーはMPの量が少ない。団長と明海さんみたいに、狩り中にガンガン休息入れて会話したり、ヒーラーの補助として使うなら便利なんだけどね。


エリナ「それにしても、そんな高価な物良く買えたわね」


アッキー「ムフフ、実はね、レイ君が買ってくれたの♪」


 レイ君とは団長、つまり桐原礼二さんの事だ。普段から団長って呼んでるから、一瞬誰の事かわからなくなるな。


エリナ「えー!いいなあ、私にも誰か買ってくれないかなあ」


アッキー「ダーク君に・・・って、そんな甲斐性あるわけないかw」


ダーク「すみませんね!どうせレッドリングだけでいっぱいいっぱいですよ!」


エリナ「別に期待してないからいいわよ・・・ふう」


 くあああああああああ!むかつくぜえええええ!大体、なんで俺が実の姉にプレゼントを贈らねばならんのだ!ばらしてえ!実は姉弟ですってまじでばらしてえ!


 そんな下らない会話をしながらダンジョンを進んでいると、進行方向から別のパーティーがこっちに向かってくるのが見えた。


団長「あれ?あのパーティーって、お兄ちゃん大好き!ギルドの人達じゃない?」


 団長の言葉を聞いて、相手キャラに自分のマウスカーソルを合わせてみると・・・。


【名前:お兄ちゃんLOVE クラス:僧侶 ギルド:お兄ちゃん大好き!】


 こういう表示が出てきた。


お兄ちゃんLOVE「自由同盟の皆さんじゃないですか」


団長「やあ、こんにちは。皆さんもここでパーティーハントを?」


お兄ちゃんLOVE「はい。普段は別の狩場がホームグラウンドなんですけどね」


アッキー「そうなんだー。こっちはねえ、今日はWデート♪」


お兄ちゃんLOVE「そうなんですか?うらやましいですw」


 俺の方は、別に全然羨ましがられる要素は無いけどな。


アッキー「私と団長は夫婦で、ダーク君とエリナちゃんは恋人っていう違いはあるけどね」


お兄ちゃんLOVE「へえ、お二人はご夫婦なんですか。ますますうらやましいです。で、ダークさんとエリナさんが恋人・・・・え?」


 そのまま固まってしまう、お兄ちゃんLOVEこと火雷利香からいりか

 一体どうしたと言う・・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!


 やばい!利香には、俺と姉貴がゲーム内で付き合ってる振りをしている事を伝えてなかったああああああ!そういえば利久の時も伝えて無くてめちゃくちゃ焦った事あったけど、またこのパターンかよ!


ダーク「団長!電話離席します!」


団長「え?あ、うん」


 俺はそう打ち込むが早いか、利香のスカイポへとコールしていた。あぶねえ、すっかり忘れてた!ホントなら、利香が家に来た時に話しておくべきだったんだが、色々とごたついてたんですっかり忘れてた。


 しばらくコールしてると、利香がコールを受け取ったアナウンスが流れる。


真司「利香?今ちょっといいk・・」


利香「ど、どどどどど、どういう事ですかあああああああああああああ!?姉弟で付きあっちゃってるんですかああ!?」


 俺が話そうとする前に、マシンガンのように話しかけてくる火雷利香。


利香「先輩達もしかして、近〇相〇上等!ってやつ!?」


真司「違うわぼけ!」


 少なくとも、お兄ちゃんLOVEとかいう名前を付けてるお前に言われたくねえ!

 と、思わず言いそうになったが、今はそういう余裕はないので、簡潔に伝えることにした。


真司「あー、これについては今度家で話すけど、付き合ってる振りをしてるだけだ」


利香「へ??振り??どういう事??」


真司「とにかく、今日はそんな暇がないから明日にでも家に来い。そこで話すからさ」


 今一つわかってない感じの利香に、とりあえずエリナとダークが姉弟ってことは口外するなとだけ伝えて、スカイポを切断した。ふいー、焦ったぜえ。


「どうだった!?あの子に説明してたんでしょ!?」


 スカイポを切ったタイミングで姉貴が部屋に入ってきた。まあ、気になるわな。


「大丈夫、詳細は後日話すけど、とりあえず姉弟ってことは黙ってろって言っといた」


「そ、そう。あー、焦ったあ。変な汗かいちゃった・・・」


 姉貴の額を見ると、確かにうっすらと汗が滲んでいた。まあ、この状況じゃなあ。


 ゲーム画面では、俺は電話で離席してる間に、お兄ちゃんLOVEの人達は団長に別れを告げ、再び狩りに戻って行ったみたいだ。


 とりあえず、明日学校で待ち合わせて、放課後俺の家に寄ってもらって説明するしかねーな。姉貴と付き合ってる振りをしてるとか、外で話してて誰かに聞かれたりした日には洒落にならん。


***********


 そういうわけで次の日、最寄り駅で利香と待ち合わせてから、俺の自宅へとやってきた。


「あら、あらあらあら、カワイイ娘さんじゃないの?」


 リビングに居たお袋が、俺たちの姿を見るなり声を掛けてくる。ついこの間も利香の顔を見たと思うんだが、お袋の奴もう忘れてるらしい。まあ、あの時は利香の奴がわんわん泣いてたからわからんのも無理ないか。


「違うよ。利久りくの妹の利香だよ。子供の頃遊びに来たことあったろ?」


「あらー、火雷さん家の利香ちゃんなの?大きくなったわねえ」


「ご、ご無沙汰しています」


 利香の奴、かなり緊張してやがる。こいつもうちの姉貴と似ていて、知らない奴相手だと、めちゃくちゃ緊張するんだよな。


「あら、じゃあ火雷さん家のお嬢さんとあんた付き合ってるの?」


「違うわ!」


 絶対言うと思ったけどな!燈色の時もそうだったけど、お袋は俺と女の子が話していると、どうも「付き合ってる」とか「彼女」とかいうワードが先頭に来るらしい。

 この年代の子供を持つ親特有の何かなのか?


「ちょっと用事があって家に来たんだよ。利香、お茶の用意するから先に俺の部屋入っててくれる?」


 利香と一緒に行動すると、何を言われるか全く予想が付かないので、先に俺の部屋に行ってもらう事にする。


「あら、お母さんは、もうちょっと利香ちゃんとお話したいのに」


「それはまた今度にしてくれ」


 俺はそう言って、とっととお茶の用意をして2階の俺の部屋へと逃げることにした。これ以上お袋に関わっていると、俺の精神上あまりよろしくない。


「悪い、待たせたな」


 部屋に入ると、利香は俺のPC周りを色々と眺めているようだった。やっぱそこ気になりますよね。


「あ、ごめん、ちょっとPC周り見させてもらってた」


「別にいいよ。大したもんでもないけどな」


「グラボ何使ってるの?」


「CTX970」


「あ、私と一緒!里奈さんは何使ってるの?」


「姉貴は、CTX750Ti。ただ、今度CTX1060に乗せ換えるらしいよ」


「1060!いいなあ私も欲しいかも」


 そういうやり取りの最中も、利香の奴はかなりそわそわしている。もう、聞きたくて聞きたくて仕方ないんだろうなあ。

 

「で、昨日の件なんだけど・・・うをっ!」


 俺が本題に入ろうとした瞬間、利香は身を乗り出して、ずずっと顔を近づけて来た。


「近い!近すぎるから!」


「あ、ごめん!もう昨日からめっちゃ気になってて、正直授業もあんまり身に入らなかった!」


 そんなにかよ!正直言って、利香の期待に応えられるような内容じゃないんだけどなあ。


「まあ、あんまりご期待に添えれる話じゃないぞ?」


 そう言ってから、俺は利香に説明を始めた。

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