第24話 コールオブダーティー
「そういうわけで、レッドリングを使いたい為に、付き合ってる振りをしてるだけだ」
「なんですかそれ!ホントにどうでも良い理由じゃないですか!」
「そんなの俺が知るか!」
俺は今自分の部屋で、
恋人同士でしか装備することが出来ない「レッドリング」を使いたい!これが、俺と姉貴が付き合ってる理由だ。俺っつーか、姉貴の理由だな。
「でもでも、オフ会で会うまでは、互いに姉弟って知らなかった話は面白かったですけどね!」
「へーへー、そうですか」
俺はちっとも面白くなかったけどな!エリナ師匠が実は姉貴と知った時のガッカリ感と来たら、どう説明していいかわかんねーわ。
「あ、だけど、エリナさんが里奈さんだって知るまでは、すっごい仲良かったんでしょ?」
「あー、まあそうかもな」
今が仲が悪いってわけじゃないけど、前みたいに出来るかって言われたら絶対無理だな。
「だったら、基本的に相性は悪くないんでしょうね」
「まあ、そこは姉弟だからな」
「正直羨ましいです。同じ家の中に、一緒にゲーム出来る人が居て」
「いや、お前だって・・・いえ、すみません」
そういやこいつは、憧れてたお兄ちゃんに、妹とは知ら無かったとは言えナンパさまくって、絶賛ドン引き中だったの忘れてた。
「いえいえ。正直お兄ちゃんと一緒に遊ぶイメージが、私も湧きませんから。と言うか、ゲーム内で妹だって名乗りたくない・・・」
うを・・・そこまでですか・・・?利久の兄としての威厳とか尊厳はこりゃ0だな。まあ、あれだけやらかせばなあ。
でも、利久にとってもお兄ちゃんLOVEが妹だってのは、知らない方が幸せな気はするわ・・・。いくら知ら無かったとは言え、妹をあれだけナンパしてたしなw
でもこの前、自由同盟で軽く揉めた時、利久のおかげで問題解決したって話をしたら、ぱーっと利香の顔が輝いてたから、まあそのうち解決するんじゃないかな。
「ただいまー」
玄関の方から姉貴の声が聞こえてきた。もうそんな時間かよ。利香に俺達の話をしてたら、意外と時間が経ってたみたいだ。
そしてどたどたどたと廊下を歩く音がして、俺の部屋のドアがガチャッと開き、姉貴が部屋へ入って来た。そして俺と利香を見るや否や、みるみる不機嫌な顔になる。
「ちょっと!なんでこの子があんたの部屋にいるわけ?いやらしい!」
「ちょ!昨日話しただろうが!俺とお前がゲームで付き合ってる話を利香にするからって!」
俺が目いっぱいの抗議を行うと、里奈も思い出したらしく「はっ」とした顔になった。しかし忘れていたことを認めたくないのか、再びぶすっとした顔に戻る。めんどくせー奴!
「大体あんたの部屋じゃなくてもいいじゃない!リビングでするとか!」
「あほかお前!お袋の前で「俺とお前がゲームで付き合ってる理由」を話せってか!?」
そして再び「はっ!」となる姉貴。
こいつ大丈夫かよ・・・。と、ここで俺は、里奈の後ろにひっそりと佇む燈色の姿に気付いた。
「よ、来てたのか」
「こ、こんにちはお邪魔してます」
そう言って、深々と頭を下げる。なんか初対面の人に挨拶するような、すげえ余所余所しい挨拶なんだけど。ああ!利香とはもしかして初対面なのか?同じ1年生だから面識くらいあるかと思ってた。
「ああ利香、紹介する・・・って、お前何やってんの?」
気が付くと、利香は俺の後ろへ回り込み、俺の服の裾をちょこんと握りながら、燈色の方を見ていた。
あ!そういやこいつも人見知りだった!先輩達ばかりの兄貴のクラスにはどうどうと入って来れるのに、1対1で話すのはダメなのが意味わからんよな。あ、むしろ人数少ないからダメなのか?
「利香、こちら同じギルド員でお前と同じ1年の古名燈色さん」
「よ、よろしく」
「んで燈色、こちら、火雷利香さん。利久の妹だ。やはりブラックアースをやってる」
「よろしくお願いします」
それぞれのキャラクター名が何かってのは、もうちょっと仲良くなってからでいいだろう。というか、お兄ちゃんLOVEさんですって紹介するのがつらい。
と、そこで俺は、姉貴の右手に何かが握られている事に気付いた。
「おい里奈、お前何持ってんのそれ?」
「ん?あ、これ?ネットマネー」
ネットマネーってのは、ネットマネー対応ショップで使えるインターネット上のお金の事だ。クレジットカードとか持ってない俺らには、大変重宝しているアイテムだ。
「なんか買うの?」
「いやあ、せっかくある程度の3Dゲームが出来る環境になったし、STORMで何か買おうかなーって」
STORMってのは、海外のバブルって会社が運営する、PCゲームのダウンロード販売を行ってるサイトだ。
ここが人気なのは、ダウンロード販売だけでなく、ユーザー同士のコミュニケーションにも力を入れているところだ。
会員になると自分のプロフィールページがもらえ、自分好みにカスタマイズしたり、他ユーザーとチャットしたりできる。俺たちが遊んでいるブラックアースも、STORMでダウンロードできるんだ。
ちなみに俺と姉貴はSTORMでブラックアースをダウンロードした。燈色と利香は、公式サイトから特典付きパッケージで購入したらしい。俺もゲーム内で使えるアイテム付きが欲しかったんだけど、金が無かったんだよな・・・。
せっかくだから里奈が遊んでいる所を、姉貴のPCの見学も兼ねて後ろから拝見しようと言う事になって、みんなで姉貴の部屋へ移動した。
で、里奈が選んだゲームがよりによってライフルやスナイパーを使って、オンラインで他のプレイヤーと倒し合いをするゲーム「コールオブダーティー」だった。
画面はプレイヤー視点で表示される、いわゆるFPSという奴だ。、真ん中に銃の照準が表示されている。そして、相手プレイヤーを発見したら、照準を相手に合わせライフルやマシンガンなどをぶっ放して倒していく。で、1人倒すごとに1ポイント入り、75ポイント先取した方が勝利となる。
「えっと、キーボードで前後左右に移動して、マウスで視点移動ね!」
里奈はトレーニングモードで操作を覚えている所だ。こいつの事だから、とりあえずやって覚える!とか言うかと思ってた。
「よーっしじゃあやるわよー!」
そう言って、オンラインモードを立ち上げる。そして6対6の対戦が楽しめる「チームデスマッチ」を選択。マップは、テロリストにハイジャックされた豪華客船のようだ。そしてスタートの合図と共に、試合開始。
「おい、あんま自分だけでガンガン進むなよ・・・」
そう言おうと思ってたら、案の定どんどん突っ込んで行って、早速倒されていた。
「first death ERINA」
の文字が画面に表示される。つまり、最初の死亡者エリナって意味だな。なんとこれ、同じマップに居る奴全員に表示されるらしいぜw
「ぶっ!」と失笑が漏れる里奈の部屋in黒部家。
「ぐぬぬぬぬぬっ!」
「一人で突っ込んでいくからだろうが」
「わかってるわよ!」
とか言いながら、再び一人で突っ込んで倒されてしまう。こいつは、ブラックアースではあんなに頭脳プレイを見せるのに、FPSでは学習能力がどっか行ってしまうのか?
「誰かの後に付いて行けばいいんじゃね?」
「あんたはいいかもしれないけど、それじゃまるでストーカーじゃないの!」
「あほか!俺だってそんなの良くねーわ!」
そして現在、あんたが横で見てると集中できないとか言われて、俺は自分の部屋へ戻ってきた。確かにちょっと口出しし過ぎたかも・・・。
「ちょっといい?」
ドアをノックしながら利香が入って来る。
「どした?」
「先輩のお友達の、グランドマスター?とかいう人の事でちょっと・・・」
利香の口から出て来たのは意外にもグラマンの名前だった。グラマン?こいつがなんでグラマンの事で俺に話があるんだ?
「以前、カルニスク要塞戦後に、グランドマスターって人が、私に向かってストーカーとか怖くないのか?って聞いて来たことあるでしょ?」
そういえば、要塞戦後にぐらまんがお兄ちゃんLOVEに、ストーカー対策とかどうしてるのか?みたいな趣旨の質問をしていた事があった。あの時はみんなで「グラマンどうしたんだ?」って、すげえ心配してたな。
「ん?あ、ああ!2回目くらいの要塞戦の後か何かだったか?それがどうかしたの?」
「実はあの後も、あの人にどう対策したのかとか、色々と詳細を聞かれてるんだよね」
「ええ!」
「あの人、何か悩みを抱えてたりするんじゃないの?」
実はグラマンの中の人は「桜菜実明」という、俺と同じ高校2年生の女の子だ。しかしそれを知っているのは、団長や千隼さんを始めとする数人だけ。ゲーム上のグラマンは、誰がどう見ても男なんだ。
なので、グラマンがストーカー被害を受けるとかいうのは、可能性としてはすげえ低いと思う。
実明さんに一体何が起こってるんだ?
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