第22話 嬉し恥ずかし初勝利

 団長の号令と共に、俺たちはコボルト要塞へとジャンプした。そしてジャンプと同時に、要塞内へと突撃する。この辺の行動は、カルニスク要塞での戦闘で慣れたもんだった。

 

 突然現れたそれなりの人数の集団に、コボルト要塞は一瞬だけ時間が止まったような状況になった。そりゃあ、突然結構な人数の集団が突然現れたらびっくりするよな。しかもコボルト要塞なんかで、こんな集団で戦闘になる事なんてほぼ無いし。


 そういうわけで、他のギルドの奴らが固まってる間に、俺たちはクリスタルを奪取する為に、門内へと急いだ。


 今現在、要塞をの仮主は「セブンズナイト」だ。どっかで聞いた事あるな~とか思ってたら、俺たちが要塞戦に参加し始めた頃に戦った事のある相手だった。セブンスナイトなのに3人しか居なかったから印象に残ってた!


 あの時はみんな慣れていなくて、グダグダな戦い方してたっけな。明海あけみさんが全然言う事聞いてくれないんで苦労した記憶も蘇って来た・・・。


 だってあの人、俺のフォローが仕事なのに、全然関係ないとこにガンガン弓撃ってたからなあ。


 今日は一応、防護壁ぼうごへき、つまりクリスタルを守るウォールを破壊する班と、防衛者と戦う班に分かれている。


 俺はウォールを破壊するメンバーなので、防衛側の人間には目もくれず、ひたすらウォールを破壊する事に専念だ。


 とか思ってたら、防衛排除ぼうえいはいじょのはずのグラマンが一緒にウォール破壊に参加していた。


ダーク「あれ?グラマンは、排除側じゃなかったっけ?」


グラマン「あ、そうでした!」


ダーク「ええ!?」


 俺は慌てて周囲を見回すと、すでにセブンスナイトの防衛者は誰も居なくなっていた。

 どうやら、他のメンバーですでに排除してしまっていたようだ。


グラマン「申し訳ありません・・・」


ダーク「いやいいって。それよりさっさとウォールを破壊しよう!」


 そう言いながら俺とグラマンは、ウォールの破壊へと戻る。そしてウォールが破壊され、むき出しになったクリスタルを団長がゲット!


「自由同盟がセブンスナイトとの戦闘に勝利しました」


 俺たちが一時的に要塞主になったアナウンスが流れる。


団長「みんな門防衛へ急いで!内側に入られない内に、門を戦士で固めちゃうよ!」


 団長が最後まで言い切らない内に、ほとんどの奴が門へと走っていた。もちろん俺も。


 門へ着くと、要塞外側の広場部分から、大勢のプレイヤーが門へ向かって攻めてきていた。俺たちはあらかじめ決めておいたフォーメーションで門をふさぐ。


 まず、防御力の高い戦士系のキャラクターが先頭に並んでいく。そして、その後ろに飛び道具系のキャラが並び、最後に、補助、又は回復系のキャラクターが並んでいく。そして指揮を任されている千隼ちはやさんの指示で戦闘を進めていく。


 と言っても、そこからはピンチというピンチはほとんど無かった。普段から乱戦になりやすいコボルト要塞でばかり戦ってるギルドが多いので、俺達みたいにまとまった数で防衛される事には慣れてないと思う。


 それでも以前ブラックアウトが防衛した時、千隼さんが指揮したような戦い方が出来れば戦況は変わったかもだが、あいにくそういう事が出来る人が、相手には居なかったようだ。


 まあ、そもそも千隼さんが百戦錬磨ひゃくせんれんまの人だって事もあるし、仕方ないとは思う。


 そして・・・。


「自由同盟がコボルト要塞での戦いに勝利しました」


 俺たちが勝利したアナウンスがチャットボードに流れた。カシオペアサーバーの全ユーザーが見ているチャットボードに!


 あれ?確か俺、気晴らし程度くらいにしか思ってなかったはずなのに、なんかすげえ嬉しいんですけど!

 

 スターナイト「やったあああああああああああああっ!」


 俺がそんな事を考えていると、スターナイトさんの声が響き渡った。そして俺の所へ足早に向かってくる。


スターナイト「やりましたよダークさん!俺達、要塞戦を始めてから、やっと要塞ゲットできましたよ!初ですよ初!」


 そう言いながら、彼はまた別の誰かの所へ喜びを共有する為に飛んで行った。


エリナ「ダーク」


ダーク「おう」


 気が付くと、姉貴が横に立っていた。


エリナ「ねえ、最初はさ、コボルト要塞なんて、なんの得にもならないって思ってたけど、初めて要取れたんだって思ったら、なんかこう、やっぱり嬉しいもんなんだな~って」


ダーク「そうだな」


 そっか、そうなんだよ。最初は俺も「コボルト要塞?」って思って馬鹿にしてたけど、考えてみりゃ、初めて要塞取れたんだよな。


 そして、今日から4日後の要塞戦までは、コボルト要塞所有ギルドとして、自由同盟の名前が掲載される。やべー!なんかマジで嬉しくなってきた!初勝利だよ!


「お疲れ様です」


 俺と姉貴が勝利の余韻に浸っていると、お兄ちゃんloveこと「火雷利香」がいつの間にかすぐ近くにまで来ていた。


お兄ちゃんlove「なかなか様になってたじゃない。おめでとう。これで、要塞持ちギルドの仲間入りね」


エリナ「まあ、コボルト要塞だし、このまま放棄だけどね」


 本心では飛び上がりそうなくらいの興奮してるだろうに、姉貴はまるで大した事ない風に利香に答えていた。


お兄ちゃんlove「で、本心はどうなんです?」


ダーク「すっげえ嬉しい!」


 素直に答えないであろう姉に代わり、俺が正直に喜びを表現して見せた。


お兄ちゃんLOVE「あははっ、なら良かったです」


ダーク「ああ、ホントありがとな。お前が背中押してくれなかったら、たぶんこういうハッピーエンドは無かったかもしれねーわ」


お兄ちゃんLOVE「べ、別に、あんた達の為に助言したわけじゃないからっ!自由同盟には強くなってもらわないと私たちが困るからなんですからね!」


 と、顔を真っ赤に【たぶん】して、利香はどっかへ行ってしまった。今なら心から言える!


 ツンデレ乙!


 利香とのやり取りを終えて、改めて周りを見てみると、自由同盟やBMAの他のメンバーも、それぞれ健闘を称えあったり、喜びを分かち合ってるようだ。


 が、俺はそんな中、グラマンの姿を探していた。だって今日の戦闘中もなんか様子がおかしかったもん。周りが盛り上がってるだけに、余計なんか気になったんだよな。


 居た。


 どうやら千隼さんと話してるみたいだ。なら俺がでしゃばる事も無いかもな。それにしてもここ最近の実明さんの様子はホント気になるよな。もっと気軽に相談してくれると嬉しいんだけど、あの人の性格からして、ギリギリまで我満とかしそうなんだよなあ・・・。


***************


 次の日、自由同盟のギルドチャットは、ブラックアース専用掲示板のとあるスレッドの事でもちきりだった。


 ブラックアース専用掲示板には「カシオペアの要塞戦を報告するスレ」というタイトルのスレッドがある。そこに、昨日の自由同盟とBMAの事について書かれていたみたいなんだ。なので俺も早速読んでみた。


102:ブラックアースの名無しさん

 昨日のコボルトで防衛してた「自」マークのギルドって何?


104:ブラックアースの名無しさん

 ああ、あの変なマークなw


105:ブラックアースの名無しさん

 スキャンしたら「自由同盟」ってギルドらしい。


106:ブラックアースの名無しさん

 新興勢力?


107:ブラックアースの名無しさん

 それにしては、統制とれてたっぽくね?


108:ブラックアースの名無しさん

 いや、あいつら最近「BMA]ってギルドでカルニスク攻めてる。毎回ぼこぼこにされてるけどwww


 まあ、たったこれくらいの話題だったんだけどね。でもさ、俺らみたいな弱小ギルドが、専用掲示板で話題にされるって凄いことだよ?大抵は、ブラックアウトかシャイニングナイトの話題で終始してるし。


 黒乃さんやワールドの話題は毎回出ている。やっぱLV100プレイヤーともなると、色々と話題や噂話も多くなってるな。良くも悪くもだけどね。


 なので、そういう事に慣れていない俺たちは、ギルドチャットで大盛り上がりなんだ。

 

 実は、この事を教えてくれたのはスターナイトさんなんだよね。と言う事は、BMAでも同じように盛り上がってるんだろう。やっぱ、コボルト要塞攻めは大正解だったみたいだ。


ライデン「くっそー!俺が出てりゃ、間違いなくスレッドの主役になれてたのに!」


ダーク「無理だろ」


エリナ「無理ね」


ライデン「ちょ!即答かよ・・・」


団長「まあまあ。ライデンも、最近はレベルアップも早いし、装備も充実してきてるし、もうちょっとの辛抱だよ」


ダーク「俺だってギリギリのレベルなんだからな。せめて俺のレベルくらいになったら参加出来るだろ」


ライデン「まあいいや。俺の名前がサーバーに知られるためには、コボルトじゃ役不足だしな」


エリナ「勝手に言ってなさいよ」


 まあ、こんな軽口が叩けるくらいには雰囲気は良くなってるのを感じる。改めて今回のコボルト要塞戦は大成功だったと思う。

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