第12話 ぬるま湯サーバー
アニメやTVドラマで流れる、定番の学校の昼休みのチャイムを確認し、俺は昼飯を食う為に屋上へと向かっていた。
最近は
利公には感謝すべきだろうが、なんか納得いかねえ。
「そういえば、オリオンサーバーの話を、ブラックアウトの人に聞いてくるって言ってたよね」
俺が悶々とした気分でクラスでの出来事を思い出していると、燈色からそんな質問をされた。こいつはこいつで、あの噂話が結構気になっているんだろう。なので俺は先日、ブラックアウトの
*********
「結論から言うと、その噂は本当だ」
オリオンからカシオペアに移住してくる奴らがいるって噂についての黒乃さんからの回答だ。
ダーク「え?いやでも、今から要塞戦で活躍できるような装備やレベルなんて、絶対ムリでしょう?」
だって、カシオペアができてもう何年経ってっ話だ。サーバーでレベル100達成者が生まれたのが去年の話だぞ?絶対ムリだって。
黒乃水言「ダーク君。このカシオペアサーバーが、他サーバーからどう呼ばれているか知っているか?」
ダーク「呼ばれ方ですか?いや、ちょっとわかりません」
黒乃水言「ぬるま湯・・・だよ」
ダーク「ぬるま湯?」
黒乃水言「オリオンでは、サーバー開始した年に、すでにレベル100に到達したプレイヤーがいるんだ。それも複数」
ダーク「はああああ!?」
黒乃水言「それだけじゃない。カシオペアの後に出来た「アクエリアス」も、カシオペアより先にレベル100プレイヤーを輩出している」
ダーク「え?と言うことは、つまりぬるま湯って・・・」
黒乃水言「カシオペアサーバーは、大した事のない、ぬるいサーバーって事だよ」
まじかよ・・・。レベル100とか、俺なんか何年かかるかわかんねーよってくらい遠い存在なのに、あんなのを1年で達成するとか、バケモンか・・・。
それにしても「ぬるいサーバー」か・・・。なんかショックだ。だって、他のサーバーから「ぬるい」って言われてるんだぜ?そりゃあ良い気はしないさ。
エバー「なんだよ、そんなにショックだったか?」
俺が黙りこくったのを見てそう思ったのか。エバーが俺に話しかけてきた。
ダーク「そりゃまあ、ぬるま湯とか言われたらな・・・」
エバー「いや、そもそもお前、レベル55だっけ?ショックを受ける程のもんじゃねーだろwww」
ダーク「うるせー!そういう問題じゃ無いんだよ!サーバーのプレイヤーとしてショックだって言ってんだよ!」
黒乃水言「なら、問題あるまい」
ダーク「へ?」
黒乃水言「そもそもダーク君は、強いことが一番とは考えていないのだろう?もしそうだったら、君は迷わずブラックアウトに加入していたはずだからな」
ダーク「あ・・・」
黒乃水言「だったら、強いことが一番と考えているプレイヤーの言葉なんか気にする事はない。そもそも価値観が違うのだからな」
エバー「そうそう、カシオペアってPKサーバーだってのに、全然殺伐として無くてさ」
ああ、それは確かに。シャイニングナイトのような連中もいるけど、あれだって、オリオンの話を聞いた後じゃ、可愛く感じちゃうもんなあ。
黒乃水言「しかし、彼女が居たら、カシオペアの評価も今とは違ったものになってたかもしれんな」
ダーク「彼女?誰です?」
黒乃水言「ああ、ダーク君は知らないかもしれんが、昔シャイニングナイトに凄い女性アバターの剣士が居たんだよ」
あれ?シャイニングナイトの女性剣士って・・・。
黒乃水言「確か、シャイニングナイトの元マスターで「シャイニングマスター」という名前の剣士だった」
やっぱり千隼さんのことだ!千隼さんは、シャイニングナイトをグラマン達と創設したメンバーの一人で、初代マスターだったんだ。
黒乃水言「私も何度か要塞戦で戦った事があったが、手も足も出なかったのを覚えてるよ」
ダーク「ええ!黒乃さんがですか?」
黒乃水言「ああ。確か彼女は、当時すでにレベル100目前だったはずだ。彼女が今もゲームをプレイしていたら、ぬるい等とは言われなかっただろうな」
ち、千隼さん、元シャイニングマスターの創設者だし、そりゃあ凄いだろうとは思ってたけど、そこまででしたか・・・。
黒乃水言「しかし、ある時期から突然姿を消してしまったんだ。残念だよ」
いやあ、実はその人、ヒーラーとしてうちのギルドにいるんですけど!しかも、かなりヒーラー楽しんでますよ!でも本人が公言しているわけじゃないからなあ。黒乃さんには悪いけど黙っておいた方が良いだろう。
黒乃水言「まあ、それはともかく」
この話はここで終わりとばかりに黒乃さんが話を切り替える。
黒乃水言「仮にオリオンの連中がカシオペアに移住してくるとなると、カシオペアの雰囲気が一気に変わってしまう可能性もある」
ダーク「それは嫌だなあ」
黒乃水言「まあ、今すぐ移住してくるとかという話じゃない。それに、何かわかったら、君にもすぐに伝えると約束しよう」
ダーク「ありがとうございます!」
黒乃水言「だから、次に要塞戦があるときはすぐに教えるのだぞ?」
ダーク「ははっ、了解です」
その後は、二人に、新しい俺達の同盟についての話をしたり、要塞戦でのアドバイスをもらったりしてお開きになったんだ。
********
「まあ、そういうわけだ」
「噂は本当だったんだ・・・」
俺は、カシオペアがぬるま湯とか呼ばれている所は伏せて、燈色に黒乃さんからの話を聞かせていた。だって、あんな話聞かせた所で一文の得にもならんし。
「今すぐじゃないんだよね?」
「ああ。黒乃さんの話だと、オリオンサーバーが安定してからだろうって」
先日燈色から聞いた通り、ダンジョン封鎖やら全要塞の占拠などで、かなりオリオンサーバーは荒れてるらしい。なので、サーバー内での揉め事がひと段落したらって事だろう。
「そっか」
そう言うと、燈色は不安そうな顔で昼飯を食べ始めた。まあ、気持ちはわかるけどな。
「まあ、仮にそいつらがやってきたとしても、レベルや装備の差があるし、オリオンみたいにはならねーよ」
「だよね!」
俺がそう言うと、燈色はほっとした表情を浮かべた。
まあ、本当は、1年でレベル100に到達するようなやつらなんだけどね・・・。もちろんその辺りは燈色には話さなかった。
******
その夜、風呂上がりにミネラルウォーターをリビングでぐびぐび飲んでると、一足先に風呂を済ませていた里奈が話しかけてきた。
「そういえばグラマン達、コボルト要塞で武者修行してるらしいわよ」
「え?そうなの?」
「なんか、要塞戦に慣れてないもんだから、グラマンの指示が全然聞こえてなかったりしてたらしいの」
「ああ・・・。わかるわかる。俺も初めての時、めっちゃ手が震えてたもん」
「そうなのよねえ。今でこそなんとか余裕出てきたけど、最初の頃なんて軽くパニックになってたもの」
普段モンスター狩りやってるからそれと一緒じゃねーの?って思うかもだが、やっぱ他のプレイヤーと斬り合いをすると思うと、かなり緊張してしまうんだよなあ。里奈なんか、笑っちゃうくらいパニックになってたしな。
「それでね、近々、デビュー戦のリベンジをしたいって」
「おお!」
「発案者はスターナイトさんらしいわよ。どうよ、先輩としてその辺は」
「うるせえよ!お前がそう呼ばせてるだけだろうが!」
「あっはっは」
まったく!でも正直、前回のちょっとグダグダだった戦いの借りを返せるのは嬉しいかも。
「ただねえ、ちょっと心配事もあるらしいのよね」
「心配事?」
「うん。グラマンがね、ちょっとおかしいんだって」
「どういうこと?」
「なんか、何やってても、心ここにあらずって感じなんだって」
そういや、この前のお兄ちゃん大好きとの戦闘の後、なんかグラマンこと、
う、うーん、なんか不安なんですけど。
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