第二章 少女の決断

第11話 ち、違うんです

「よ、久しぶりだな!ローザ要塞で会って以来か?」


 会うなり軽い挨拶あいさつをしてきたのは、俺のゲーム内の友人である「エバーラング」だ。サーバーでもトップのバトルギルド「ブラックアウト」所属の剣士だ。


「悪いな、忙しいんじゃないのか?」


 こいつは現在、ブラックアウトの幹部らしいので、色々やる事も多いんじゃないかな。そう思って、一応気を使ってみた。


「別に構わないさ。なんか聞きたい事あるんだろ?あ!もしかして、要塞戦の事についてか?」


「ん?ああ、まあ、要塞戦の話と言えば、間違っては無いな」


 要塞戦っつーか、オリオンサーバーからカシオペアに要塞戦の為に移動してくる奴らの噂が本当かどうか聞きたいんだけどね。ブラックアウトは老舗の(?)要塞バトルギルドなので、他サーバーの情報とかも、入ってくるのが早いんじゃないかな~と安易に考えただけなんだけどな。


「まあ、せっかく本格的に要塞戦に参戦したんだからなあ。わからない事はどんどん聞いてくれていいぞ」


「おう、助かるぜ」


 やはり要塞戦の大手に加入しているだけあって頼りになるわあ。って、違う違う。今日はそんな話をしに来たんじゃないぞ。と言うより、なんでエバーの奴、俺が要塞戦を本格的に始めたって知ってるんだ?


 実は、グラマンこと桜菜実明さくらなみはるさんが、センセーショナルなデビュー戦を飾りたいから、くれぐれもこの事は内密にお願いしますとか言うもんだから、知り合いにも話してなかったんだよな。


 まあ結果としては、ある意味センセーショナルだったけどな。あまり良くない方向で・・・。


「エバー、お前なんで、俺が要塞戦に本格参戦した事知ってるわけ?」


「ああ、それはな・・・」


 こいつの説明によると、自由同盟とBMAがカルニスク要塞を攻めていた時、エバーも見学していたそうなんだ。要塞バトルギルドとしては、新しい勢力の登場は興味があったらしく、エバー他数名の幹部が見学してたそうだ。


「そうだったのか。だったら声をかけてくれたらよかったのに」


「いや、俺もそうしようとは思ったんだけど、なんか、込み入った話をしてたっぽいからさあ」


 ああ、そういえば、あの要塞戦の後、実明さんがお兄ちゃんLOVEさんに質問があるとかで、しばらく話をしてたんだった。


「そうだったそうだった。すっかり忘れてた」


「で、お前、BMAって所に移籍したの?」


「へ?いや、BMAは自由同盟と軍事同盟を結んでいるギルドで、要塞戦に参加するときは、BMAか自由同盟に所属して戦う事になってるんだ」


「ああ、なるほどな。まあ、そうだとは思ってたんだけどさ」


 そう話すと、エバーはしばらく沈黙してからこう語りだした。


「あのさ、なんか俺に聞きたい事あるって言ったじゃん?」


「そうそう、今日はそれが本題なんだよ。ちょっと隣のサーバーの事について聞きたくてさ」


「隣の・・・オリオンか・・・」


 そういうと、エバーはまた考え事をしている仕草を見せた後話し出した。


「それじゃあさ、今度ローザ要塞に来ないか?他サーバーの事だったら、俺より水言さんの方が詳しいと思うし。あのひと、結構人脈広いからさ」


 水言さん・・黒乃水言くろのみことさんの事か。ブラックアウトのエースで、サーバーに3人しかいないレベル100プレイヤーの一人。ちょっと前に、俺は黒乃さんからブラックアウトに移籍しないかって誘われたんだよな。結局、自由同盟に残る事に決めたんだけどさ。その話をして以来って事になる。


「わかった。久しぶりに黒乃さんとも話をしたいしな」


「ああ。お前の口から直接、今俺にしたBMAと自由同盟に関する説明を水言さんにしてやってくれ」


「は?どういう事?」


「まあとにかく、また今度ローザでな」


 そう言って、エバーは去って行った。俺の口から直接BMAと同盟を組んだことを黒乃さんに説明しろ?あいつ一体何言ってるんだ?


**********


 あれからしばらく経った今日、俺はエバーから「要塞まで来れるか?」と聞かれたので、ブラックアウトが所持しているローザ要塞まで来ていた。


 ここに来るのは、ブラックアウトにスカウトされたのを断って以来だった。要塞バトルに参加する奴にとって、ブラックアウトに加入する事が、どれだけ誇らしいことかはよーくわかってるつもりだったけど、俺は自由同盟でバトルをやりたかったんだから仕方ない。


 それにしてもこの要塞に来ると、先日俺たちが戦った「お兄ちゃん大好き!」と「ブラックアウト」の戦いを思い出す。俺たちが全く歯が立たなかった「お兄ちゃん大好き」の攻めを余裕であしらってたもんなあ、ブラックアウトは。


 それを考えると、やっぱり、BMA同盟の最初のデビュー戦に「ローザ要塞」を選ばなかったのは、賢い選択だったと思うわ。きっと、お兄ちゃん大好きとの戦い以上に以上にぼろぼろになってたと思うもん。


 ブラックアウトの人に案内されて、会議室の前までやってきた。相変わらずエバーの奴の出迎えは無し。会議室には一度行ったことがあるが、俺が勝手に動き回るのもあれなんで、門のとこで談笑していたブラックアウトの人に案内してもらったんだ。


「悪い悪い、一度来てるから大丈夫かな~ってw」


「一度来たくらいで覚えられるか!」


「まあそう言うな。おーい黒乃さん、ダークが来ましたよー」


 エバーは、会議室のドアを開けながら黒乃さんに呼びかけていた。


 部屋に入ると、黒髪ロングに、北欧神話に出てくるバルキュリアのような、一度見たら忘れられない印象的なアバターが窓際に立っていた。はあ、いつ見てもこの人カッコいいよな。


黒乃「やあダーク君、久しぶりだね。私が知らない間に、かなり大規模な要塞戦を行っていたようだけど、目いっぱい楽しめたかな?」


ダーク「お、お久しぶりです黒乃さん。あ、はい、初めての大規模戦だったので緊張しました」


 あ、あれ?なんか言葉に棘があるような気がするんだけど、気のせいかな?


黒乃「そうか。まあ、私の誘いを断ってまで選んだギルドでの要塞戦だしな。BMAと言ったか?」


ダーク「い、いや、黒乃さん違うんです!BMAは自由同盟と軍事的な同盟を組んでいるだけで、別にBMAに加入したわけじゃないんです」


黒乃「ふむ、まあそうだろうな」


 はあ、なんだわかってくれてるんじゃん。ん?じゃあなんで、ちょっと嫌味っぽく言われてるんだ俺は・・・?」


黒乃「しかしだ、少しくらい教えてくれても良かったのではないか?せっかく君のデビュー戦だと言うのに、予定を入れてしまって、見学にも行けなかったではないか・・ぶつぶつぶつ・・・」


エバー「黒乃さん、いつまで拗ねてるんですか。こいつが別のギルドに行ったわけじゃないのはわかってるでしょ?」


黒乃「べ、別に拗ねてなどいないぞ!ただ私は、友人のデビュー戦くらい見学したかったなあと思ってるだけだ!大体貴様は、自分だけ見学に行ってずるいではないか!」


エバー「ずるいとか意味わかんないし・・・」


 エバーに顔を真っ赤にして・・(いるように見える)抗議している黒乃さんを見て、俺はしまったと考えていた。やっぱりエバーと黒乃さんには、要塞戦の事を伝えとくべきだった。


 最初は、俺がBMAに移ったのだと勘違いしているんだろうと思ってたけど、どうも、要塞戦の事を教えてくれなかった事でふてくされている感じだからなあ。


ダーク「あーいや、すんません。BMAのマスターに、くれぐれも内密にと言われていたもので、少し神経質になってたかもしれません。考えてみれば、黒乃さんとエバーには伝えておくべきだったんですよね」


 黒乃さんが、俺のデビュー戦にそこまで興味を持っていてくれることがすげえ嬉しかった俺は、伝えなかったことを素直に詫びることにしたよ。


黒乃「む、そ、そうだぞ!大体、カルニスクに攻め込むって知ってたら、お兄ちゃんLOVEさんにお願いして、見学させてもらう事もできたんだからな」


ダーク「え?お兄ちゃんLOVEさんと、交友あるんですか?」


黒乃「ああ。以前LOVEさんがローザに攻め込んできただろ?あれ以来、お互いに切磋琢磨せっさたくましあえる関係になれればいいと思い、時々情報交換も兼ねて交友させてもらっている」


 はあ、LOVEさんと黒乃さんがねえ。見た目は対照的な二人だけど、考え方に芯が通っている所など、気が合う所も多いのかもしれないな。


エバー「おほん、黒乃さんの機嫌も直った事だし、ダーク、本題に入ったらどうだ?」


黒乃「ん?ダーク君は、何か私に聞きたいことがあるのか?」


 ああ、そう言えばそうだった。黒乃さんの機嫌が悪かったのですっかり忘れてたが、今日は、オリオンサーバーの事について、黒乃さんが情報を持って無いか聞きに来たんだった。


 もちろん聞きたいのは、オリオンサーバーのエース級の奴らが、このカシオペアサーバーに移籍する噂の事だ。

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