第37話 vsシャイニングナイトの話

(えーっと、今日のローザ防衛戦の見学にグラマンが来るって話しあったっけ?)


 俺は自由同盟の二人に加え、グラマンが堂々と立っていることに違和感を覚えずにはいられなかった。


ダーク「と言うか、違和感しかねえよ!」


グランドマスター「何を一人でブツブツ言っているのだ黒を制する者よ」


ダーク「だあああっ!その名前で呼ぶなと言ってるだろうがグラマン!」


グラマン「その名で呼ぶなと言っておろうがあああああああ!」


 べしっ!


エリナ「何二人で漫才やってんのよ!」


 そんなやり取りを見ていた里奈が、後ろから素手で叩きやがった。HPがちょびっとだけ減っただろうが。


エバー「えっと、見学はこの人数でいいのかな?」


ダーク「え?あ、ちょっと待って。てか、グラマン何しに来たの?」


グラマン「要塞戦を一緒に見学するために来たのだ」


 だろうとは思ったよ。でも聞いてねーよ。グラマンの参加は正直聞いてなかったが、来てしまったもんは仕方ない。エバーの奴は、グラマンの行動に正直どう接していいかわかり兼ねて、スルーすることに決めたようだ。うむ、それは正しい選択だ。とりあえずグラマンの件については、後でゆっくり話を聞かせてもらおう。。


エバー「じゃあ俺は行くから!ゆっくり見ていってくれ」


ダーク「おう!頑張れよ!」


 「手を振る」コマンドを実行しながら、エバーは要塞へと入っていった。さてと、じゃあとりあえず見学席に行くか。


ダーク「俺から呼ばれた奴は「OK」ボタンを押して入場な」


 今日の参加者は、里奈・千隼ちはやさん・グラマン、そして俺の4人である。団長とアッキーさん、そして利公りくはリアル事情で来れなくなった。まあ、こればっかりは仕方ない。で、いつもなら絶対いるはずの燈色だが、今日は里奈の部屋でTVにノーパソを接続して、二人で見学するらしい。


 それはともかくだ。俺は見学席に皆を招待するや否やすぐに離席を宣言して、スカイポから里奈のIDを呼び出した。


「おい、なんでグラマン来てんだよ!聞いてねーぞ!」


「だって、仕方ないじゃない!皆で集まってたらグラマンに見つかっちゃって・・・」


「先輩聞いて下さい」


 うをっと、いきなり燈色ひいろの声に変わりやがった。どうも、音声は小型のスタンドマイクを使って、俺の声はTVのスピーカーから出力してるらしい。これなら3人で話しながら見学出来るか・・。


「里奈さんはかなり頑張って断ろうとしてたんです。なのに、あの変態ナル男騎士は、「では直接ダークマスターと交渉しますゆえ!」とか言って、強引に付いてきたんです。なので、悪いのは全部あのナル男です」


 燈色がこんなに長いセリフを喋ってるのは初めて見たかもな。てか、変態ナル男騎士って・・・。こいつ以前に輪をかけて酷いこと言うな。


「あー、まあ大方そんな所だろうとは思ってたけどな。たださ、あいつ、この前までシャイニングナイトだったろ?もしエバーがグラマンの事知ってたら、色々と誤解が生じてた可能性もあったかもだからさ」


「あ・・・」


 なんか、バトルギルドってのは、敵対ギルドの動向にはかなり過敏に反応するものらしい。互いのギルドにスパイを送ったり、バトルで揉め事が起こったりした日には、フィールドやダンジョンでのPKに発展することもあるんだとか。


 PKってのは、プレイヤーキラーの略で、文字通り、他のプレイヤーに対して攻撃を仕掛けることだ。ダンジョンやフィールド等で敵対ギルドにPKを仕掛けることにより、そのギルドを弱体化させたり、中にはPKが怖くて、他のギルドへと移ってしまう人もいるらしい。


 あ、これ全部千隼さん情報ね。まあ、そんな事を聞いていたもんだから、グラマンが登場した時はびっくりしたぜ。


 なので、一応エバーにはプライベートメッセージで、元シャイニングナイトの奴が一緒でも大丈夫か?とは聞いておいたんだ。そしてら「お前が大丈夫ならOKだ」って返事が返ってきた。なので見学席にグラマンも招待できたんだよ。


 まあグラマン自身は、スパイ行為なんかとは一番縁遠い存在だってのは、自由同盟の奴らなら分かってることなんだけど。


「こ、怖いですね」


「だよなあ」


 燈色が本当にビビってる感じでそう言ってきた。まあ、俺らにはわからない苦労やらも結構あるみたいだしなあ。


「まあとりあえず、グラマンの件は問題ないから、ブラックアウトの凄いって噂の防衛戦見せてもらおうぜ」


 そう言いつつ、俺は徐々に準備ができ始めているブラックアウトの防衛陣を見た。


 門の幅は、キャラクター4人が横に並べる広さなんだけど、門から真っ直ぐウォールの方向へ4人×8列の長方形に剣士が並んでいて、さらに剣士をカタカナのコの字型に囲むようにアーチャーが取り巻いている。


 つまり、門に向かってきた敵は、正面の剣士と斬り合う間、左右正面3方向から、アーチャーからの弓の雨を受けることになる。しかも、僧侶が、左右の城壁にぴたりと張り付いて、敵の攻撃を受けること無く、ローテーションで味方を回復するようになっている。


 こんなの突破できるわけねーぞ。いや、千隼さんがシャイニングナイト時代に何度か突破してたって話しをしてたな。一体どうやったんだ?


ダーク「ねえ、千隼さん。シャイニングナイト時代に何度か門を突破したって言ってたけど、どうやってこんなの突破したのさ?」


千隼「あー、それはねえ・・・」


 と、千隼さんが俺に説明しようとした瞬間


黒乃水言「ちょっと待ってくれ。千隼さん、君は元シャイニングナイトなのか?」


 いきなり水言さんの声が聞こえてきて、座ってた椅子から落ちそうになった。


ダーク「え?水言さん?」


黒乃水言「あれ?聞いてなかったのか?公式の見学席は、一部のギルド幹部には聞こえるようになっているんだ。プライベートメッセージも使えない。まあ、スパイ対策だな」


ダーク「な、なるほど・・・」


 おお、さすが要塞バトルをメインに売りだしたオンラインRPGだけあって、かなり凝った仕様になっている。


黒乃水言「で、千隼さんと言ったか?君は元シャイニングナイトなのか?」


 やばい!グラマンのことはエバーに言ってたんだけど、千隼さんのことまでは気が回ってなかった!


千隼「元、と言っても、もう3年前だけどね」


黒乃水言「3年前・・・」


 水言さんはしばらくの間沈黙していた。まずいなあ、なんで俺SKの話なんかしたんだろう。ばかばかばかばか俺のばか!


黒乃水言「うん、問題ないな。」


 しばらくの沈黙の後、突然水言さんがそう宣言した。はあああ、良かったああああ!


黒乃水言「エバーの友人であるダーク君が連れてきた人だし、最初から疑う余地は無かったな。いや、すまなかった。少し、神経質になっていたようだ。」


 そう言って水言さんは逆に俺達に謝ってきた。カッコいい!やばい、なんか惚れてしまいそう!


千隼「いえいえ、シャイニングナイトとブラックアウトの関係性を考えたら仕方ないわよ」


黒乃水言「うむ、そう言ってもらえると助かる」


 シャイニングナイトとブラックアウトの関係性って、敵対するギルドって以外にも・・・・まあ、何かあるんだろうなあ。なんせあのワールドの事だからなあ。


黒乃水言「で、どうやってうちの門防衛を破ったか?だったな」


ダーク「あ、はい。これだけ強固な防衛をどうやって突破したのか、全くわからなかったので・・」


黒乃水言「うむ、では、それについては私から説明しようか」


ダーク「え?いいんですか?忙しいんじゃ・・」


黒乃水言「いや、大体の準備は終了している。そもそも、エバーがほとんどしてくれてるからな」


 ほおお、すげえなエバーの奴。バトルギルドで色々任される程になってるのかあ。


黒乃水言「それでは、説明しよう」


 そう言って、水言さんは両ギルドの激しい戦いについて説明してくれた。


 さっき説明したとおり、門にはキャラクター4人が横に並べる幅がある。なので、攻め側の剣士も、大体は4人×8列~10列くらいで並んで門に攻め入ってくる。


 で、その後方にアーチャー部隊が陣形を組み、剣士が攻撃している相手の剣士を、一斉に攻撃するわけだ。ただ、コボルト戦でもそうだったように、最前列の奴を帰還又は倒しても、次の列の剣士が最前列にスライドしてきて、で、さっき帰還した剣士が、最後方に並ぶ、ずっとこれの繰り返しなのだ。


 さすがにSKの戦闘力だと、俺達の攻撃とは比べ物にならないくらい火力はあるんだけど、まあ剣士の列が8列もあるからねえ。


 そこでSKが考えたのは、剣士は4人×2列に留めて、残りの列全てをアーチャーで埋めたんだ。アーチャーは剣士に比べて耐久力がはるかに低いので、普通では考えられない戦略だった。


 だが、この戦略は功を奏した。攻め側のアーチャーが門内まで入り込むことにより、これまで攻撃することが出来なかった、防衛側のアーチャーにまで弓矢が届くようになったんだ。そして、門内に入り込んでいるアーチャーを保護するために、ヒーラーの数をいつもの3倍に増やした。これで、手厚いヒールでアーチャーを完全に保護出来る。


 これに混乱したのが防衛側のヒーラー達だった。これまでは、前列の剣士だけを回復してれば良かったのを、左右のアーチャーまで回復しなければならず、いつしか最前列の剣士へのヒールが滞るようになった。


 そしてついに、最前列の剣士の列の一部が瓦解、その隙から、SKの剣士が要塞内に入り込み、ヒーラーを次々と倒していった。


 ただ、そこはさすがのBO。速攻で門防衛を捨てて、ウォール防衛へと移行。乱戦の末、タイムアウトによる防衛側勝利となった。


黒乃水言「とまあ、こんな感じだ。あの時は正直要塞を落とされる事を覚悟したよ」


千隼「あの時がたぶん、最初で最後のチャンスだったのよね。後の2回は門は抜けたけど、抜いた瞬間タイムアウトになるような展開だったもの」


 おおお、なんか俺達とは次元の違う話をされて、全くついて行けん。これ、本当にブラックアースの話しなのか?っていうくらい、全く別の世界の話をされてるようだった。


黒乃水言「おっと、そろそろバトルの時間だな。じゃあ私はこれで失礼するよ。自由同盟の皆さん、ゆっくり見学していってくれ」


ダーク「頑張ってください!」


 俺の言葉の後、しばらくは見学席で誰も話そうとはしなかった。だって圧倒されたもん。さっきの話に。


と、そこで里奈がSKYPOで話しかけてきた。


「ちょっと真司、今の黒乃さんて誰よ」


「ああ、ブラックアウトの剣士さんで、レベル100プレイヤーの人だよ」


「ふーん」


 な、なんだ里奈の奴。なんか不機嫌オーラがヘッドセット越しに伝わってくるんだけど・・・。


「なんか、ダーク君とか親しげに呼ばれてましたね」


 今度はお前かよ燈色!なんだよ、俺が何かしたか?


「え、いやほら、名前が「黒」繋がりで気が合ったというかなんとうか」


 そして俺は、なんで姉貴と後輩に向かって、必死で言い訳してるみたいになってんだ・・・。


「どうせあんたの事だから・・」


パッパラーパラララララパッパラー


 そこまで里奈が言いかけた所で要塞戦スタートのファンファーレが鳴り響いた。


「お、は、始まったみたいだぜ!」


 助かった!なんかわからんけど助かった!

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