第36話 黒乃水言

 友人であるエバーラングに、ブラックアウトの要塞防衛戦の見学に来ないかと誘われてから3日、今日はそのブラックアウトが所持する『ローザ要塞』の防衛日だ。


 なので、俺は朝から若干緊張していた。と言うのが、コボルト要塞戦後エバーと別れてからギルドチャットで千隼さんに聞いた、ブラックアウトの防衛戦の話が頭から離れなかったからだ。


燈色ひいろ「私、本格的な要塞戦みるの初めて。緊張する」


団長「あー、特にブラックアウトの防衛戦は凄いらしいからね」


ダーク「そうなの?」


団長「そこはシャイン(千隼ちはや)ちゃんが詳しいよ」


千隼「そうねえ、ブラックアウトの防衛戦の何が凄いって、門防衛を抜かれた後ウォール防衛に移るスピードが尋常じゃないのがひとつね」


 千隼さんが言うには、万が一門での防衛が瓦解がかいしても、すぐにウォールでの防衛に移行するので、なかなか簡単に崩れてくれないのだとか。


千隼「そもそも、門防衛をとっぱするのが難しいんだけど・・」


 シャイニングナイト(以下SK)時代に、何回もブラックアウトとは対戦したらしいんだけど、門を突破できたのは2,3回。しかも要塞を奪えたことは一度も無いんだと。


ダーク「それ、相当凄いんじゃ・・・」


千隼「それだけじゃないわよ~。なんとローザ要塞、カシオペアサーバーが出来てから、一度もブラックアウト以外のギルドの手に落ちたことがないの」


ダーク「え?」


エリナ「それって、一回も負けたことがないってことなの?」


千隼「そそ。サーバーで初めてのバトルで、ローザ要塞をブラックアウトが手に入れてから、一度も他のギルドの要塞になったことがないの」


 とんでもない話が千隼さんの口から飛び出した。このカシオペアサーバーが出来てから、もうすぐ5年になるんだけど、その間一回も要塞を他人のギルドに渡したことがない、つまりローザでの防衛戦で負けたことがないという。


千隼「で、カシオペアサーバーでも幾つか強豪と言われるギルドがあるけど、ブラックアウトがNo1って言われてる理由もそこにあるのよ」


燈色「一度も落ちたことのない要塞、そこを今日見学するんだ」


エリナ「そう考えたら緊張するわね」


 そう言った里奈の通り、負けたことのないバトルってどういうもんだろうなどと考えてると、自分のことじゃないのに緊張してきた。


 そんな事を考えながら移動を繰り返しているとローザ要塞へとたどり着く。エバーには「悪いけど1時間前くらいにはお前だけでも来といてくれ」と言われている。


 なんでも、ギルドの公式の見学席のキーを渡しておきたいんだと。俺が持っていれば、俺が許可した奴を見学席に招待できるそうだ。「誰でもいいの?」って聞いたら、「敵対ギルドのやつじゃなければ・・」と言われた。


 今、ブラックアウトと敵対関係にあるのは、


 深淵しんえんの要塞・カドリナ要塞の二つの要塞を所持する「シャイニングナイト」


 マーチス要塞を所持する「風光明媚ふうこうめいび


 この二つのギルドが敵対関係にあるかも、との千隼さん情報だ。あの人バトルに参加しなくなってからも、カシオペアサーバーのバトル勢力図みたいな物は、毎回チェックしてるらしい。


 幸いシャイニングナイトと風光明媚、この二つのギルドに友人はいないので、見学席への招待については特に問題無さそうだ。なので、そろそろエバーとコンタクトを取ろうと、要塞前でメッセージを送ろうとしていると、門のほうから人影が近づいてきた。


「あの、何か当要塞に御用でしょうか?この当たりはこれからバトルエリアとなりますので、大変危険ですよ」


 女性形アバターの人からそう警告を受けてしまった。とりあえずカーソルを合わせて、キャラ情報を見ることにする。


名前:黒乃水言くろのみこと ギルド:ブラックアウト レベル:106


 うっそー!この人レベル100プレイヤーか!


ダーク「あ、その、すみません。実は友達と約束していまして・・・」


 うわあ、めっちゃ緊張する!ワールドの時も緊張したけど、レベル100プレイヤーが目の前にいると思うと、余計緊張するわ!


黒乃水言「あれ?もしかして君、エバーラングが言ってた、自由同盟の・・・」


ダーク「そ、そうです。エバーの友達のダークマスターです!」


黒乃水言「やはりか。なんでも、黒を征する男だとか聞いたぞ」


 あんのやろおおおおおおおおお!俺が初めてまともに会話したレベル100プレイヤーの人に、なんちゅう情報をインプットしてくれてるんだああああああ!後で絶対殴る!


 しっかしこの黒乃水言さん、アバターのデザインが、北欧神話に出てくるような、ヴァルキュリアのような姿ですげえカッコいい。さらさらの金髪ロングヘアーに碧眼へきがん、背中には大きな白い羽根が付いている。おもいきっり西洋風アバターなのに、名前が和風なのがまた良いよな。


黒乃水言「あのむっつりなエバーが、見学席に招待したい人間がいるって言うから、今日は楽しみにしていたんだ」


ダーク「すんません、呼ばれて飛び出てきたのがこんな低レベルで。てかむっつりってひどい!もっと言いましょう!」


黒乃水言「自分のことを過小評価するものではないよ。せっかく名前に黒を冠する者同士、親近感が湧いてきた所なんだ。よろしくなダーク君」


ダーク「あ、はい!よろしくお願いします!」


エバーラング「何、がらにも無く緊張してんだよw」


むっつりが・・いや、エバーラングがいつの間にか門の所へ立っていた。


黒乃「来たなむっつり」


エバー「誰がむっつりっすか!」


ダーク「ようむっつり」


エバー「おまっ!」


 つい黒乃さんに乗っかってしまった。初めて見た時は緊張したけど、意外とお茶女ちゃめな人なのかも?


エバー「ほらー、こいつまでむっつりとか言い出した。黒の一閃いっせんの呼称をもつ美琴さんがそんな事言ってていいんですか~?」


黒乃「そ、その名前は出すんじゃないっ!」


ダーク「なんすかそのカッコいい名前は!?」


黒乃「なんでもない、なんでもないから!じゃあ私は準備があるから先にいくぞ。ダーク君、ゆっくりしていってくれ!」


ダーク「あ、はい、ありがとうございます」


 そう言って、そそくさと水言さんは逃げるように門内に入っていった。


エバー「水言さんいいだろー」


ダーク「なんかこう、凛とした雰囲気がカッコいいなあ。で、黒の一閃ってなんだよ」


エバー「今度本人から直接聞けよwあと、水言さん狙ってる奴多いから、競争率高いぜ」


ダーク「いやいや、お前何言ってんだ」


エバー「競争率高いといえば、お前ん所のギルド、相変わらず女性率高いよなあ」


 こいつは俺に会う度にこう言ってる気がする。ブラックアウトも女性キャラの人数は多いらしいのだが、ギルド員の総数に対しての比率で言うと、全く男性陣と比率のバランスが取れていないのだとか。自由同盟は男女比率半々くらいだからなあ。


エバー「だれかギルド内に好きな奴とかいるの?」


 そう聞かれた俺は、一瞬里奈の姿を思い浮かべちまった。いい人っつーか、レッドリングを使いたいが為に、付き合ってるふりをしている実の姉だけどな。


ダーク「あー、いるようないないような・・・」


 俺があやふやな態度が誤魔化ごまかそうとしていると、エバーは興味津々という感じでさらに畳み掛けてきた。


エバー「えー誰だよ!もう付き合ってるのかよ!教えろよー」


ダーク「えーい離せ!お前それより、防衛戦の準備はどうしたんだよ」


エバー「あ、そうだった!これが見学席のキーね。入場から4時間は有効だから、まあ、ゆっくりしていってくれや」


 エバーはそう言いながら、トレードコマンドを実行して、俺のアイテムボックスへと見学キーを移動させる。


ダーク「それにしても、あの人誰かに立ち振舞がそっくりなんだよなあ。」


エバー「水言さん?」


ダーク「そう。なんか、ゲーム内でのあの話し方とか振る舞い方って言うか」


エバー「珍しいよな、ロールプレイって言うの?役になりきってるって言うか」


ダーク「あーそうそう、そんな感じ・・・・」


 ああああ!そうか、あいつになんか似てるんだよ!元シャイニングナイトの剣士で、振る舞い方がいつも大げさなあいつ!「グランドマスター」に!


 いや、似てるつっても、ロープレしてるとこだけね。グラマンはうざいが、水言さんはカッコいいからな。うんうん。


「黒を征する者よ!」


 そうそう、こんな感じでいっつも俺のことを呼ぶんだよ。恥ずかしいったらありゃしねえ・・・・は?


「聞いているのか黒を征する者よ!」


 声の方へ俺が顔を向けると、剣を地面に突き刺して、その柄に両手を添えるという、これまた大げさなポーズで俺を見ているグラマンと、自由同盟ご一行様が立っていた。


な、なんでグラマンがいるの・・・?

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