第38話 お兄ちゃん大好き!の攻撃

 俺が責められる理由はよくわからないが、とにかく里奈と燈色ひいろの追求が厳しくなりそうだった矢先に、要塞戦の始まりを告げるファンファーレが鳴り響いた。助かったぜ……。


 俺はローザ要塞に攻め入ってくるギルドの登場を今か今かと待ちわびていた。そしてスタートから30分が経過した。ローザ要塞は、まだ、どこのギルドからも攻められていない。


ダーク「中々、攻撃してくるギルドが現れないね」


千隼ちはや「大手のギルドが所有する要塞戦なんてこんなものだよ」


 俺の発言に答えてくれた千隼さんが、大手ギルドの要塞防衛戦について、色々と教えてくれた。


 まず、大手のギルドが所持する要塞戦だと、かなりの確率でキャラが死亡してしまう可能性がある。なので、同じような大手じゃないと中々攻めることが難しいらしい。もちろん、負けることを覚悟で攻めてくる事もあるらしいが、それも頻繁に出来ることでは無い。


 なので必然的に攻めてくるのは大手ギルド、例えばシャイニングナイトや風光明媚なんかだな。しかし彼らも毎回攻めてくるわけじゃない。自分達の防衛戦もあるしね。シャイニングナイトなんかは、2つの要塞を所持しているので、頻繁ひんぱんに攻めてくるのは難しいだろうとの事だ。


ダーク「じゃあ、攻めてこない時間のほうが多いってこと?」


千隼「まあ、そうなるかもね」


 うへえ、じゃあ、1時間の要塞戦の間、ずっと誰かが攻めてくるのを待ち続けてるだけって事もあり得るってことか……。俺なら耐えられんな。コボルト要塞が1時間ずっと戦闘状態だったんで、どこの要塞もあんななのかと思ってたわ。


エリナ「ところで、さっきの黒乃さんの事なんだけど。あんたまさか狙ってるとかじゃないでしょうね?」


 ちょ!こいつはなんで、いきなりなんの前触れも無く見学席でこういう事言っちゃうの!?これ、黒乃さんも聞いてるんだよ!?


黒乃水言くろのみこと「うん?ダーク君、そうなのか?」


 ほらあああああああああああああああああ!里奈の奴あほか!そりゃ自分が狙われてるとか聞こえたら反応するに決まってるだろうが!どうしよう!なんて答えたらいいのか全然わからん!


ダーク「えっと、いや、あのですね……」


 俺が答えに困っていると、スカイポから里奈の声が聞こえて来た。


里奈『ど、どうしよおおお!スカイポとチャット間違えちゃった!』


真司『嘘だろ!?どうやったらこのタイミングで間違えるんだよ!』


 なんでチャットでと思ったら、里奈の奴誤爆してやがったらしい。しかもブラックアウトギルドの公式の見学席でのチャットなので、黒乃さんを始め、ギルド幹部には筒抜けになっているだろう。もう嫌だあ!


 大体、以前誤爆したときは、色々忙しい状況での誤爆だったから仕方ないとこもあるけど、今日のは単なる誤爆じゃねーか!お前には「誤爆王」の名を授けてやる!


 よく聞いたら、姉貴の部屋でも「燈色どうしよ~><」という里奈の声が聞こえてくる。そんなの燈色に聞いたところでわかるわけないっつーの・・・。


千隼「黒乃さん、エリナちゃんとダーク君はね、ゲーム内で付き合ってるのよ」


 俺と里奈がスカイポ言い合ってると、千隼さんが救いの手を差し伸べてくれた!そう!それだよ!


黒乃「む?」


ダーク「そ、そうなんですよ~」


千隼「だからね?エリナちゃんとしては、黒乃さんみたいな女の子が現れて、ちょっと心配なのよ」


 千隼さんナイスフォロー!ブラックアウトの皆さんに、俺とこいつが付き合ってるって事が公になってしまったのは不本意だけどな!


エバー「え?お前恋人いたのかよ!ずりーぞ!」


 ほらな!あー、一番知られたくなかった奴に知られてしまった。


 俺だってな、本当に付き合ってるんならめっちゃ自慢しまくっとるわ!でも姉貴だぞ姉貴!俺は里奈と違って聞かれたら平気で答えられるが、里奈が言うなって言うから仕方ねー。


ダーク「いや、付き合い始めたの最近だから、単に言いそびれただけだって」


黒乃「そうか。なら仕方ない、諦めるとするか」


 は?諦める?誰が誰を?え!?


里奈「ちょっと!やっぱあんた、あの人にちょっかい出してたんじゃない!」


燈色「先輩、手が早かったんですね」


真司「いやいやいや!俺だって何がなんだかわかんねーよ!」


 里奈と燈色から理不尽な責めを受ける。なんで俺怒られてんだよ><


グラマン「むー、我が生涯のライバルと思っていたのに、エリナ殿をたぶらかしていたとは!」


ダーク「たぶらかしてねーよ!つーか、ちょっとお前は黙ってろ!」


 ここでグラマンに乱入された日には、ますます収拾がつかなくなる。


黒乃「私個人としては、かなり君のことを気に入ってるので、これからも良い関係を築ければと思っていたのだが。エリナ殿がよく思わないのであれば仕方ない」


 あ、あーそういうことね。びっくりしたあぁ。諦めるとか言うから勘違いしそうになったぜ。ちょっと残念。


ダーク「あーいえ、僕も色々お話聞きたい事もありますし、また誘って頂けると嬉しいです」


黒乃「しかし、いいのか?」


ダーク「大丈夫です!」


里奈「ちょと!あんた何自分から誘ってんのよエッチ!」


真司「はあ!?エッチ?エッチってなんだよ!別に知り合いになるくらい構わんだろうが!」


黒乃「そうか、なら・・・」


【ブラックアウトがお兄ちゃん大好き!とのバトルに突入しました】


黒乃「すまん、布告がきたので切る!」


 残り20分という所で、ついに他ギルドからの宣戦布告があったようだ。黒乃さんがチャットを途中で切り上げる。同時に俺達も、門周辺へと移動して、攻め側の到着を待った。


 布告から1分程経った頃だろうか、ライン外に一斉に「お兄ちゃん大好き!」ギルドの人達が現れる。そしてそのまま剣士を中心に門へと突入し、綺麗な教科書通りのような攻撃陣形が出来上がった。


 しかしお兄ちゃん大好き!って、すげえギルド名だな。自己紹介で「ギルド名なんですか?」って聞かれたら「お兄ちゃん大好き!」ギルドですって答えるんだぞ。俺には無理だ。


グラマン「しかし凄いギルド名ですな。びっくりしましたぞ」


 グラマンでもそう思うのか?いやまあ、そりゃびっくりするよな。一体どういう経緯で、このギルド名に決まったのかは興味がある。


 普通に考えたら、そういうアニメか漫画があって、そこからギルド名にした説。ヒロインの女の子がよく言うセリフだったりとかだな。それか、ギルドマスターが本当にお兄ちゃん大好きっこで、それが高じてギルド名になったとか。


 ・・・うん、どうでもいいな。


 お兄ちゃんギルドが攻めてきてから10分ほどが経過したが、ブラックアウトが危なくなる場面は皆無と言って良いと思う。そのくらい戦力差があるのは、素人の俺から見てもわかった。これは間違いなくブラックアウトが勝つと思う。


 しかし、これだけの戦力差があるって事は、お兄ちゃんギルドの奴らもブラックアウトには勝てないってわかっていながら攻めて来た確率が高いと思う。もっと勝てる要塞とかに攻めていけばいいのに。


 俺がそんな事を考えている内にも、お兄ちゃん側の剣士は、帰還アイテムで帰還したり、操作キャラを倒されたりして、かなり疲弊しているのがわかる。僧侶の数も足りてないのか、ヒールも滞ってるみたいだ。


 そしてその状況は、要塞戦終了のファンファーレが鳴り響くまで変わることはなかった。そして20分に渡る戦いの決着が着いた。


【ブラックアウトがお兄ちゃん大好き!に勝利しました】

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