第33話 準備は万端 いざリベンジへ!

「あんた何回言ったらわかるのよ!闇雲やみくもに突っ込むと、別のモンスターを呼び込むから危ないって言ってるじゃない!」


 クリスタルの塔にエリナの怒鳴どなり声がひびき渡る。


 いつもだったら、深淵しんえんの森で一発レア狙い狩りするんだけど、要塞バトルで予想以上に薬草や剣士の必須アイテム「スピードポーション(以下SPP)」と「ターボポーション(以下TBP)」の消費が激しかったので、確実にゴールドを稼げる狩場に来ている。


 で、さっき言ってたSPPとは、ノーマルのスピードにポーション分のスピードがプラスされて、当然攻撃速度も上がるアイテムのことだ。TBPは剣士専用のアイテムで、文字通り、スピードや攻撃速度等にターボがかかった状態になれるアイテムだ。こっちはSPPよりも効果時間が短い上に価格が高い。


 で、最近のバトルでは、SPPとTBPを併用するのが普通になっているので、剣士職業の奴は使いたいというよりも、使わないと話にならないが実情だ。


 そして、さっきからエリナに怒鳴られているのが、俺の中学からの友人「火雷利公からいりく」が操作する「ライデン」だ。今日は、ダークマスター、エリナ、燈色ひいろ千隼ちはやさん、ライデンの5人で狩りに来ている。


 なんで今日に限ってライデンが参加してるかって言うと、それは先日の我が家での「火雷利公、黒部家にお泊り事件」にたんを発していた。


 あの日、つまり、燈色と利公が家に泊まりに来た日、俺はうっかり利公にブラックアースをプレイさせてしまった。それが元で、俺と里奈が姉弟であることがギルドメンバーにバレてしまう所だったんだ。後で、めっちゃ里奈には怒られたんだけど。


 そこで俺達は利公に対して、俺と里奈が姉弟であることをギルドメンバーに隠して、ゲーム内で付き合ってるふりをしていることをオープンにすることに決めた。その上で、俺と里奈が姉弟であることを黙っていてくれるよう「お願い」することにした。


「え?姉弟で付き合ってるの!?気持ち悪くない!?」


「だから付き合ってるふりって言ってるでしょうがああ!」


 里奈のロケットパンチが利公に炸裂する。利公よ、気持ちはわかるが、口に出して良い相手と悪い相手がいるんだ。一つ勉強になったな。


「えっとつまり、恋人同士だけが装備できる「レッドリング」を使いたいから、姉弟で付き合ってるふりをしているって事でOKですかね?」


 殴られた頭をさすりながら、利公は里奈に訪ねていた。里奈の奴「グー」で思い切り殴りやがった。めっちゃ痛そうだぜ・・・。


「その通りよ」


 レッドリングってのは、恋人申請しんせいを行ったプレイヤー同士が装備できるリングだ。装備すると、召喚可能な場所ならMPの消費も無しに相方を呼び出せたり、立ち止まってるだけでMPが自動回復したりする優れものだ。


「じゃあさ、レッドリング使いたいから姉弟だけど恋人申請してるって言えばいいんじゃ?」


「いやよ!なんか気持ち悪いじゃない」


「さっき俺がそう言ったら殴ったじゃないですかあああ!」


「人に言われると腹が立つのよ!そういうわけだから喋ったらただじゃおかないわよ!」


 そう言って睨みを効かせる里奈だが、空気を読まないことに関しては里奈とひけをとらない利公はある条件を出してきた。


「条件があります」


「はあ?こっちは「言うな」って「命令」してんの。何であんたの言うこと聞かなきゃいけないのよ」


 おい!お願いじゃなかったのかよ!いつの間にか命令ってなってるよこの姉様は。


「お願いですから条件聞いてくださいよ!」


「仕方ないわねえ」


 そして、いつの間にか利公の方から姉貴にお願いが入った。これじゃ、どっちが弱み握ってるのかわかんないぞ。


(なあ燈色)


(なに?)


(コレ確か、姉貴がお願いする話しじゃなかったっけ?)


(うん、そう)


(だよなあ)


(大人って怖い)


(だよなあ)


「ちょっとそこ!何こそこそ話してんの?」


「なんでもねーよ。で、話はついたの?」


「とりあえず、私達の狩りに一緒に行きたいみたいだから、まあ、仕方ないから連れってってあげるわよ」


 あ、条件てそんななんだ。あれ?でもこいつ、ブラックアース幽霊部員なんだけど。


「お前、ブラックアース再開するの?」


「当たり前だろ?お前だけ女の子と楽しくゲームしてるとか許せねーよ」


「いや、俺にはお前のその思考回路がよくわからんわ」


 と、こういう流れで利公も参加することになった。早い話が、なんか楽しそうだから俺も混ぜろってところだと思う。まあ、アクティブなギルド員が増えるのは歓迎すべき事だし、知ってる顔なら気を使うこともないから俺もその案には賛成だったけどね。


 で、実際ゲームにログインすると、燈色と姉貴の他に千隼さんまで狩りに行くと聞いて、利公のやつテンションMAXになってたな。「俺の凄さを見せてやるぜえええ」とか叫んでたもん。こいつレベル12なのに・・・。


 でも、実際ゲームを始めると、むやみやたらに敵に突っ込んで千隼さんとエリナを毎回ハラハラさせっぱなしだわ、きっちり先制攻撃を入れないもんだから、後衛の人に攻撃が行ってしまうはで、そりゃもうボロボロだった。何度利公のHPバーが0になりかけたか覚えてないくらいだ。


「あんた何回言ったらわかるのよ!闇雲に突っ込むと、新たなモンスター呼び込むから危ないって言ってるじゃない!」


で、冒頭のエリナのセリフに繋がるわけである。


「まあまあ、エリナちゃん、ライデン君も初めてでテンション上がってるだけだし、ね?」


「そうっすよ!マジで楽しいっす!」


 あんだけ姉貴に怒鳴られてるのに利公の奴、全く堪えてないっぽい。まあ、前から里奈には怒られてるからな。こいつのこういう性格のおかげで、あれだけ里奈が怒鳴ってるにも関わらず狩りの空気は悪くなかった。まあ、里奈もそこら辺わかってて怒鳴ってるんだけど。


「甘いわよ千隼。大体ライデン、あんたバトルにも参加したいんでしょ?」


 そう!なんと利公の奴、俺達が最近バトルを始めたって言ったら、俺も参加したいって言い始めたんだ。けど利公のレベルは12しか無い。


 なので、とりあえずお金を貯めれるだけ貯めて、そして装備をある程度整えて、装備パワーでちょっとレベルより上めの狩場で単騎でレベル上げしよう!という結論になった。


 それもあって、深淵の森ではなく、ゴールドが確実に手に入るクリスタルの塔を狩場に選んだんだ。深淵の森はレアを引けばまとまったゴールドになりやすいんだけど、レアが無いと正直厳しい。長い目で見ればすげえ稼げるんだけど、今回は目の前のポーション代と利公のとりあえずの装備代が目的だしね。


 だったら誰かが金を貸せば?と思うかもだが、やっぱどういう形であれ、自分で稼いだゴールドで装備を整えたほうが達成感とかあって良いと思うんだよ。こうやってみんなで狩りを楽しみながら手伝うことも出来るしな。


 そして、俺のポーション代稼ぎと、利公の装備代稼ぎも兼ねたクリスタルの塔での狩りを数日こなし、いよいよ2回目のコボルト要塞でのバトルの日がやってきた。参加するのは、


・団長・・・剣士

・エリナ・・・ヒーラー

・アッキー・・・弓兵

・ダーク・・・剣士

・千隼・・・ヒーラー

・センジン・・・ヒーラー


以上の6人だ。


 バランス的には悪いと言わざるを得ないが、コボルト要塞戦自体が混乱しまくるバトルに毎回なってるので、通常のバランスとかは気にしないで良いだろうと思う。僧侶ヒーラー3人による手厚いヒールが来るのはがたい。


センジン「いやあ、僕、バトルとか初めてだよ。緊張しちゃうなあ」


アッキー「大丈夫よ、私でもなんとかなったもん」


ダーク「全くもってその通りですね!」


 前回のバトルでは、ウォール周辺で戦闘している俺を全く援護せずに、全然関係ない場所の人をガンガン弓矢で撃ってたからなこの人。


アッキー「えー、前回私、凄く頑張ってたじゃん!」


ダーク「今日は「俺や団長を殴ってる人」に弓矢で攻撃して下さいね!」


アッキー「この前もそうしてたじゃん」


ダーク「嘘つけ!「あははは、弓チョー楽しい~」とか言いながら、無差別に撃ってたろうが!」


アッキー「そうだっけ?」


センジン「あはは、なんか簡単にその場面想像できちゃうなあ」


団長「うん、凄く楽しかったんだよ」


 まあ、確かに楽しかったな。ぼろぼろにはなったものの、1時間夢中になってクリスタル目指してたからなあ。でもやっぱ、バトルに参加するからには勝ちたいとも思うんだよね。


 なので今日は明海さんにも、俺や団長が戦ってる相手を撃つように念入りに要請しといた。あと、俺と団長は、なるべく同じ相手を殴るよう作戦を立てる。そうすれば、僧侶の人達も、俺と団長を探す手間が省けるしね。


エリナ「さあ、今日こそは要塞ゲットするわよ!」


 里奈の宣言に、俺達は「おー!」と気合を入れたのだった。

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