第25話 ため息しかでねーよ

「はあ!?あんた何、それでのこのこと帰ってきたわけ?それでも男なの!」


「いやお前、そうは言うけどな?あれでめたりしたら、俺ら以外の自由同盟のギルドメンバーに迷惑掛かるかもしれんだろうが」


 俺たちが深淵しんえんの森で、シャイニングナイトの奴らから不快な気持ちにさせられたその日の深夜、俺は大学から帰ってきた姉貴に一部始終を話した。


 あんじょう、うちのお姉さまは怒り心頭で、その矛先は何の抵抗もしなかった俺にも向けられていた。


「じゃあ、大人しく引っ込んでたら、そいつら何もしてこないって言えるの?」


「いや、それは断言はできないけどさ・・・」


「そういう時にビシッ!と言わないから調子に乗るんじゃない!そこの所わかってんの?」


 ダメだ。口ではどうにも勝てそうにねえ。どう考えても俺の方が正論だとは思うんだが、なんかだんだん、里奈の言う事の方に理があるような気がしてくる。


 大体、波風立てない方向で行くって決めたのは千隼ちはやさんなんだ!って言ったら、


「千隼はいいのよ。ちゃんと考えがあるんだろうから!」


 とか言いやがった。


 俺だって色々考えとるわ!とか反論すると、また話が長くなりそうなので、それは心の中にしまっとく事にした。くそー理不尽だぜ。


「まあ、それはともかくだ」


 俺は、形成が完全に不利な状況を立て直すために、あえて今後の対処について話題をすり替えることにする。


「今日か明日にでも、シャイニングナイトのマスターとグラマンに、千隼さんが抗議しとくって言ってたから」


「それでどうにかなればいいけどね」


「どういう意味だよ?」


「どうもこうも、そのままの意味よ」


 そう言って、里奈は話は終わったとばかりに、俺に部屋を出て行けと手をしっしと振る。


 むう、結局里奈に話すことによってちっとはすっきりするかと思ったが、余計にフラストレーションが貯まってしまった。こんな事なら、無理して話す必要なんかなかったぜ・・・(泣



 そして次の日、ゲームにログインした俺は,、グランドマスターこと「グラマン」に呼び出されていた。たぶん、昨日の同じギルドの奴らの事について話すためだと思う。


 指定された場所に行くと、グラマンが腕組みのポーズを決めて、誰も居ない森の真ん中に突っ立っていた。こいつ、人が居なくてもこんな事やってんの?ある意味尊敬するわ。


「よ、グラマン」


「来たか、黒を征する者よ!」


「お前、それを言うなって言ってるだろうが!」


「なぜだ?とても良い名前の由来ではないか」


 ああもういいや。とっとと本題に入ろう・・・とか思ってたら、


「昨日はすまなかった!」


 と、グラマンの方から先に謝ってきた。たぶん千隼さんから聞いたんだろう。


「実は昨日、千隼殿からメッセージが届いて、それで今日こうしてお前を呼び出したのだ」


「ああ、まあでも、グラマンがやったわけじゃないからな。」


「しかし、同じギルドに居る者として、恥ずかしい限りだ・・・」


 そう言うと、再び申し訳ないとグラマンは謝ってくる。


「まあ、あれだろ?ギルドマスターとかにも伝わってるんだろ?団長も抗議するって言ってたしな」


 さっきギルドメンバーに話を聞いたら、昨日のうちに向こうの幹部に正式に抗議したらしいよって話も聞いたしな。


「いや、それはたぶんマスターまでは通って無いと思う」


「へ?」


「うちのような巨大なギルドになると、マスターでは無く幹部が色んなトラブルを含む事案に対処する事になっているんだ。」


 つまりどういう事かって言うと、あまりにギルドメンバーの人数が多いので、ギルドマスターでなければ対処出来ない問題以外は、マスターに指名された複数の幹部が問題解決にのぞむらしい。


「じゃあ、その幹部の人が対処してくれるんじゃねーの?」


「いや、恐らく、何の対処もしないだろう」


「はあ?」


「シャイニングナイトのマスターは、強ければ素行そこうに多少の問題があっても構わないというスタイルなんだ。だから、問題を起こした奴が戦力として重要、または将来性があると判断されれば、何のペナルティーも課せられない可能性が高い」


 なんだよそれ・・・。そんな非常識なことがまかり通っていいのかよ。


「とりあえず、もうあの狩場には近寄らない方が良いだろう。余計なトラブルに巻き込まれるだけだからな」


 俺は、グラマンが極めて真面目にそう語るのを見ながら、パソコンの前でため息をついていた。



「はあああああ!?」


 俺の部屋いっぱいに、里奈の声が響き渡る。なんか昨日もこんな場面があった気がする。


「それであんたノコノコ帰ってきたわけ?」


「いやいや、お前、今日の相手はグラマンだぞ?シャイニングナイトの奴らじゃないんだからね?」


「わ、わかってるわよ」


 いーやこいつはわかってなかったね!


「とにかく、グラマンも言ってたけど、明日からは狩場変更するからな」


「なんか、納得いかないわね・・・。なんでこっちが変えなきゃいけないのよ・・」


「言ったろ?余計なトラブルを避けるためだよ。非常識相手に口論したって無駄だって」


 里奈の奴はなんかぶつぶつ言ってたけど、余計なトラブルなんか無いに越したことは無いのだ。俺は楽しくゲームやりたいんだよ。



 次の日。


 俺たちは余計なトラブルを避ける為、いつもの深淵の森ではなく、一発のレアは少ないが、確実にゴールドと消費アイテムを稼げるクリスタルの塔へ来ていた。


 そしてなんと偶然にも、クリスタルの塔の中ボスである「エレメントクリスタル」に遭遇していた。これで、小銭だけでなく、そこそこのレアアイテムも望めるってもんだ!なんで「そこそこ」かってのは、このボスは、回復アイテムさせ揃っていれば、俺でも単騎で倒せるくらいのボスだからだ。


 なので、ドロップするアイテムに過度の期待を抱いてはいけない。けど、一応ちょっとは期待しちゃうけどな!


 そう思いながら、俺と千隼さんを先頭に、後ろに里奈と燈色ひいろが並ぶ。すでに燈色は、深淵の森で何度かこいつ以上の中ボスとは戦っているので、あまり緊張はしていないようだ。


 そして、そろそろエレメントクリスタルも倒れるんじゃなかな~とか思ってた時に事件は起きた。なんと、こいつのHPバーが回復し始めたのだ。


 いや、一定以上のクラスのボスになると、HP回復の機能を持つ奴もいるにはいる。けど、クリスタル程度のボスで、HPが目に見える形で回復していくのは聞いたことがない。一体どうなってんの?


「ダーク君、後ろ」


 千隼さんがパーティーチャットで俺に話しかけてきた。その言葉通り後ろを見ると、3人のアバターが見えた。そして、その中の二人が魔法を使う仕草を見せている。


 まさか!と思い、エレメントクリスタルを見ると、そいつらが魔法を使ったタイミングでボスのHPが回復していた。つまりあいつらは、俺たちが戦っているボスのHPを回復させて、俺たちの邪魔をしていたんだ。


 一体どこのギルドだ!と思い、カーソルをキャラクターに合わせる。


【キャラクター名:刹那せつな ギルド名:シャイニングナイト】


 おいおいおいおい、ちょっと待てよ!こいつ、昨日も俺たちの邪魔をしてたやつじゃないか?なんか名前が見覚えあるもん。


「おい、あんたら何やってんだよ!」


 俺はさすがに頭にきて抗議を行った。正直トラブルは避けたいが、いくらなんでもこれはダメだろう?


「あー、なんかごめんねえ。君たちにヒールをしようと思って間違えちゃったw」


 等とわざとらしく謝ってくるが、文章からは謝罪しようという気持ちは微塵も感じられない。そもそもモンスターにヒールをする為には、戦闘モードを通常モードから「B」モードに変更しなきゃいけない。なので、単純に間違うとかあり得ないんだ。


「ダーク、もうほっときなさい」


「は?なんでだよ!HP回復して邪魔するとかあり得ないだろ?」


「いいから、私に考えがあるの」


 考え?考えってなんだよ・・。そう思いながらも、抗議することぐらいしか思いつかなかったので、しぶしぶ里奈に従うことにする。

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