第24話 キレていいっすか?

 今日は姉貴の帰りが遅くなるというので、俺と燈色ひいろ千隼ちはやさんの3人で深淵しんえんの森へ来ている。千隼さんはいつもの武術家ではなく、本職の僧侶で参加中だ。


 いつも里奈の回復魔法を受けてる俺だけど、実はこの人も回復スキルは物凄い物がある。さすがにHPの回復量は里奈には負けるけど、正確さだったら千隼さんの方がたぶん上かも?と思う時もある。


ダーク「いやあ、千隼さんのヒール久しぶりにもらってるけど、相変わらず正確無比なカーソル捌きですねー」


千隼「ホント?ありがと~~♪」


燈色「うん、私も勉強になる」


 あ、ちなみに、燈色は奇術師きじゅつしを新しく作った際、名前を「燈色」にしている。本名で大丈夫なのか?って聞いたら、考えるのが面倒とのこと。そういや、僧侶も「ヒイロ」だったな・・。


千隼「燈色ちゃんにだったら、3倍増しでヒール発動するからね!」


 っく、全然羨ましくなんか、羨ましくなんか、羨ましいいいいいい!ちょっと前から思ってたんだけど、千隼さんて燈色に甘くねーか?マジでうらやましい!


「先輩」


 そんな事を一人考えていると、燈色に話しかけられた。


「何?」


「羨ましいですか?」


「え?また俺口に出してた?」


「さっきから全部聞こえてたわよー?」


「(〃▽〃)ポッ」


「じゃあ今日は、お姉さんが二人にたっぷり愛情のこもったヒールしてあげるからねー」


そんな楽しい会話をしつつ狩りを行ってる時だった。


「あれえ?おい、人いるじゃん!誰だよ、ここなら誰もいねーとか言ってた奴」


 千隼さんの緋色に対する寵愛ちょうあいの一部を俺にもわけて欲しいとうらやましがってたら、広場入口から声が聞こえてきた。


「まじで?こんな場末の狩場でレベル上げしてる人って未だにいるんだw」


「ばっか、俺らと一緒にしちゃかわいそうだろ?」


 なんか「むかっ」とするセリフが聞こえてきたが、こういうのは無視するに限るので、気にせず狩りを続けることにする。


 気にせず続けることにしようと思っていたんだけど


「あのー、悪いんだけど、ここって俺らがバトルの練習にいつも使ってる場所なんで、どっかいってくれない?」


 などと言う、あまりにも一方的な要求が自分の耳に入ってきてしまった。


 はあああああああああ?何そのお願いの仕方!普通は「すみません~」から始まるお願いが普通だろ?なんだこいつら。たまにいるんだよ。自分勝手な俺様ルールを人に押し付ける奴。そのくせ自分には適用しないルールなんだよな。


 そういうわけで、俺達はパーティーを組んでる者だけで出来るPTチャットで相談タイムに入る。


緋色「何あれ」


千隼「さあ」


ダーク「とりあえずどうします?突っぱねる?」


千隼「いやあ、それは止めとこうよ。非常識と関わってもろくなこと無いよ?」


ダーク「いやでもなんか、全然納得出来ないっていうか」


 俺達が黙りこくってるので、しびれをきらした彼らがさらに話しかけてくる。


「ねえ聞いてる?こっちはバトルの練習したいんだよ。はやくどいてくんないかな?」


「てか、ギルド名「自由同盟」って、お前聞いたことある?」


「大方ハンターギルドだろ」


「ぶっ!何あの紋章、真っ白な背景に大きく「自」って書いてるぜ。だっせーw」


 おいおいおいおいおい!なんだこいつら!なんかもう切れそうなんですけど俺!


 このゲームではさ、自分以外のキャラクターにマウスのカーソルを合わせると、そのキャラクターの名前と、所属ギルドの紋章が表示されるようになっている。


 で、俺達「自由同盟」の紋章は、さっきのムカつく奴が言ってたとおり、真っ白な背景に緑色で「自」の字が書いてるだけという、いたってシンプルなものだ。俺、結構気に入ってるのに!


 てか、こいつらはどこのギルドだよ!そう思って、奴らの一人にカーソルを合わせてみた。


 【キャラクター名:刹那 ギルド名:シャイニングナイト】


 え?シャイニングナイトって、グラマンと同じギルドのシャイニングナイト?そして昨日話してた、超大手のバトルギルドだ。黒の下地に真っ白な光が描かれていて、それをバックに高々と剣を掲げる3人の騎士たちが描かれていて、結構カッコいい紋章が目立っている。


 俺、てっきり、シャイニングナイトのようなバトルギルドって、グラマンのような糞真面目な奴ばっかかと思ってたら、どうもそういうわけじゃないみたいだ。いや、グラマンの場合は真面目とはちょっと違うか?


ダーク「こいつらシャイニングナイトだ。」


緋色「昨日グラマンが所属してるって言ってた?そういえば紋章が一緒かも」


ダーク「だな」


千隼「グラマンのとこと揉めるのもあれだし、一旦引きましょうか」


ダーク「え?ホントですか?」


千隼「後で、グラマンに正式に抗議しときましょう。たぶんグラマンから、ギルド幹部に報告されると思う」


 まあ、無駄かもしれないけどね。と、最後に付け加えたので、なんで?とも思ったが、とにかく一刻も早くこの場を離れたかったので、俺は帰還の魔法が記されたスクロールを素早くクリックした。



団長「それは大変だったねえ」


 深淵の森から街に帰還してしばらくすると、団長がログインしてきたので一部始終を報告してやった。


ダーク「ホントですよ!もうすっげえ腹立つのなんのって!」


団長「でもよく我慢してくれたね。」


ダーク「ああ、それは千隼さんが冷静だったんで、それでなんとか。」


団長「そっか、シャインちゃんありがとね」


千隼「いやいや~」


 あ、ちなみに「シャインちゃん」とは、団長が千隼さんを呼ぶ時の呼称だ。なぜシャインちゃんなのかは知らないけど、結構古くからの付き合いみたいだし、俺の知らない何かがあるんだろう。


団長「よし、じゃあこの件は、僕があっちのギルドに正式に抗議しとくよ。」


ダーク「ホントですか?」


団長「うん。でも、あんまり成果は期待しないほうがいいかもね。」


ダーク「え?」


 そういや、さっき千隼さんも似たようなこと言ってたな。とか思ってると、団長が詳しく説明してくれた。


 簡単に言えば、サーバートップクラスのバトルギルドともなると、バトルで勝つために個々のプレイヤーが強くなること、これが何よりも最優先にする所もあるらしい。なので、多少プレイヤー個人に問題があっても、ある程度黙認もくにんされるんだとか。


ダーク「えー、そんなの有りですか・・・・」


団長「まあ、そういうわけだから、あまりたちが悪いようだったら、すぐにその場を離れる事が肝心だよ?」


 なんか納得はいかないけど、俺がどうこう出来るもんでも無いと、無理やりその日は納得することにした。それにしても里奈の奴があの場にいなくて良かったぜ。絶対ブチ切れてただろうからなあ。


 まあでもグラマンの奴ああ見えて、結構古参のギルドメンバーって聞いたことあるから、それなりにまとめてくれてるんじゃないかな~等と考えてた時期が僕にもありました。


 結果としては、そんなうまい具合には全然いかなかったんだよね。

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