第19話 燈色の謝罪

 しーんと静まり返る室内。正確には俺の部屋だ。


 部屋の中には、俺、里奈、そして古名燈色ふるなひいろの3人がいる。里奈の奴は完全にふてくされた顔をして、部屋の真ん中に鎮座ちんざしている。


 そもそも、なんでこの3人が俺の家の俺の部屋で集まってるかとというと、3日前に俺と燈色が、ハンバーガーショップ「ボクロナウド」で話し合いまでさかのぼることになる。


 ボクロナウド、通称「ボック」で、俺と緋色の話し合いが終わった後、ボックの店員からの「あの高校生の男の子、彼女を泣かせてるわよ」的な冷たい視線に耐えつつ、燈色が泣き止むのを待っていた。


 しばらくすると、燈色はちょっとは落ち着いたのか、飲み物を少しだけ飲んでからふーっと息を吹く。


「すみません、ご迷惑おかけしました」


「いや。落ち着いたか?」


 燈色は「はい」と頷き、再び飲み物を口にする。


 俺と燈色の二人だけの店内に、静かなBGMが流れる。そして、俺達を優しく見守る店員さん達。


 てか、あの店員たちガン見しすぎだろ!「あの二人どうなったのかしら?」的なオーラが駄々漏だだもれですよお姉さん達!


 なんか一日中、れない視線にさらされ過ぎて、少し精神的に疲れてきちゃったよ・・・。


「あの」


 と、燈色が突然声を出してきたので、俺は思わずびくっとなってしまった。


「え?どした?」


「お姉さん・・・・里奈さんの事なんですけど・・・」


「あ?ああ・・」


 まあ、当然あれからどうなったのかは気になるわな。ここで隠しても仕方ないので、俺は正直に話すことにする。


「姉貴は、あんまりログインしてないかな。」


「そう・・ですか・・。」


 燈色は再び視線を落とし、沈黙ちんもくしてしまう。


 言わなきゃ良かったか?と一瞬思うも、結局は燈色がログインすればばれる話だし、そうなったら余計に気落ちするだろう。


「まあ、姉貴には俺から言っとくから心配するな。」


 完全に納得するとは思えないけど、とりあえずあいつの気もちょっとは済むだろう。実際、そんなに根に持つやつじゃないと思う。


 てことは、俺の時はそうとう怒ってたってことか。Orz


 そんな事を俺が思ってる間、燈色は一点を見つめてずっと何かを考えているようだった。


「どした?」


 あまりにもずっとそんな事を続けているので、俺はつい気になって聞いてみたんだ。


「あの、直接お姉さんに謝らせてもらうことは出来ませんか?」


 こんなやりとりがボックで行われ、そして今日、燈色は俺の家にやってきたのである。


 で、事前に姉貴にこの事を話すと、なんか話したくないとか言って逃げられそうだったので、秘密裏ひみつりに計画は実行された。


 まあ、家に来た燈色を見た瞬間の姉貴の顔ったら無かったね。なんでこいつがここにいるのよ!ってオーラを隠そうともしてなかったからな。俺、殺されてしまうんじゃないかと半分本気で心配したもん。


「実はさ、燈色が姉貴に話したいことがあるって言うから連れてきたんだよ。」


 なんか言われる前に先に言ったほうが得策だと考えた俺は、その表情を見た瞬間姉貴に話しかけていた。これは正解だったみたいで、すっげえ不満そうな顔をしながらも、「それならあんたの部屋で」と言って、しぶしぶだろうが提案を了承してくれた。


 で、今俺の部屋でしーーーーんとなってるわけだ。


「ん、あー、実はさ、2~3日前に、学校で燈色とちょっと話したんだよ。」


 実際はボックで話したのだが、そこんとこは重要では無かったので、学校と言うことにしとく。もちろん中庭でのやり取りは話さない。そして俺は、ボックでのやりとり、燈色が、単に俺達とただ遊びたかっただけだった事を簡潔かんけつに姉貴に説明していく。


 里奈は、俺が話してる間中、そして一通り話し終えてからも、しばらく何かをずっと考えこんでる仕草を見せていた。


「と、こういう理由なんだ。」


 姉貴にも色々思う所はあると思うけど、許してもらえないか?俺はそう頼んだ。


「ダメね。」


「はあ!?今の俺の話し聞いてたのかよ?なんでダメになるんだ・・・」


「あんたの話はわかったわよ。でも、肝心のあの子の話を全然聞いてないんだけど?」


 里奈はそう言って、燈色の方を見る。


「あんたは今日、何しにこの家へ来たの?真司に代弁してもらいに来たの?」


 ああ、そういう事か。里奈のやつ、燈色に直接話せと言いたいらしい。確かにその通りだ。そもそも、燈色は自分が謝りたいと言ってきたのだから、俺がでしゃばる部分じゃなかった・・。ちょっと反省。


「あの・・」


 燈色は里奈に向かって話し始めた。あのオフ会の日から今までの事全部だ。そして最後に、


「本当にすみませんでした」


 と謝罪した。


「謝って済む事じゃ無いとは思いますけど、でも、本当にごめんなさい」


 目をぎゅっと閉じて里奈に頭を下げる古名燈色。


 はあ、長かったこの騒ぎもやっと終了だな。まあ色々あったけど結果オーライかな。


「ダメね」


「?」


 一瞬、里奈の奴が何を言ってるかわからなかった。が、すぐに燈色の謝罪への姉貴の返答だって気付いた。


 ええええええええええええええ!?


 いやいやいや、ここはどう考えてもがっちり握手の場面だろ?何考えてんだ里奈のやつ・・・・。

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