第18話 そう思う理由

 放課後。


 俺は、古名燈色ふるなひいろと学校の玄関で待ち合わせて、駅とは反対方向にあるハンバーガーチェーン「ボクロナウド」通称つうしょう「ボック」に来ていた。だって駅前だとすげえ学生が多いから、昼間みたいな事になりかねないと思ったんだよ。


 ただ、玄関を待ち合わせに選んだのは失敗だった。燈色は黙って立ってるとすげえ美少女に見えるので、待ってる間に男子生徒から声を掛けられまくったらしい。


 しゃべると、毒をくわ嫌味いやみを言うわテンパるわで、結構面白い奴なんだけどな。


 失敗と言えば、クラスの奴らへの言い訳も大変だった。


 俺が燈色と話している所を、教室で飯食ってた奴らが、俺の友人火雷利久からいりくの報告によりほぼ全員が見ていたらしく、もの凄い質問攻めにあったんだよ。


 オンゲーを一緒にやってる子、とか言うと面倒な説明をさらにしなきゃいけない気がしたので、単なる久々に会った知り合いという事にした。


 利公の奴なんかは納得してないようだったが、クラスの他の奴らは「真司にあんな可愛い彼女がいるわけないよなー」という意見で一致したらしい。それはそれでなんか納得いかねー・・。


 それはともかく、俺達はボックのカウンターで俺と緋色の飲み物と等を注文した。


 燈色は自分で払うと主張したんだけど、誘ったのは俺だからここは俺を立ててくれないか?て言ったら、しぶしぶではあるが俺に奢らせてくれた。やっぱ、こういう所は、空気が読めるって言うか常識人なんだよな。


 なのでそんな常識人が、なんで俺と姉貴をおどすような「非常識」な事をしたのか。席に着いて、注文した飲み物が来たタイミングを見計らって、俺は燈色に話し始めた。


「今から話すことは、別にお前を責める目的があるわけじゃないって事だけはわかって欲しいんだけど。」


 俺がそう言うと、燈色はいつも通り「こくん」と頷く。まあ今ので、俺が何を話そうとしているかはわかってくれたと思う。


「俺ずっと疑問に思ってた事があるんだ。」


「・・・疑問?」


「そう。お前が俺達を脅してきた理由だよ」


 びくっ、と燈色の肩が震える。この反応からして、やっぱ気にしてたんだよな。これだけ空気が読めるような人間がさ、自分の行動や発言で、俺の姉貴があそこまでブチ切れちゃった事を、気にしないわけがないからな。


 ここから時間をかけて、回りくどく話しても仕方ないので、俺はストレートに結論を言うことにする。俺が常々考えていた、ある「仮説」についてだ。




「お前さ、ただ単に俺達と一緒に遊びたかっただけじゃないのか?」


 俺の言葉を聞いて燈色は目を大きく見開く。ただでさえパッチリした目が、さらに大きく見えるな。


「なんで・・そう思うの?」


「幾つか理由はあるんだけどな」


 俺は燈色に、俺がそう思った理由を話し始めた。



 俺がそういう結論を考え始めたのは、こいつと一緒に狩りを始めてから数日経った頃だった。


 燈色は回復役である「僧侶」なんだけど、最初は同じ職業の姉貴の真似ばかりしてたんだよ。姉貴がヒールかけたら燈色もヒール、みたいな感じにな。それが元で姉貴が切れたりしてた事もあったな。


 ところが時折、姉貴より早い絶妙のタイミングでヒールやその他の魔法を掛けてくるようになったんだ。つまりこいつ、姉貴の行動を見たり真似したりすることで、ずっと勉強してたんだと思う。俺達と一緒に対等に遊びたいが為にね。


 レアは分配、超レアはいらないって言ってたのがその証左だと思う。一人前になったら、ちゃんと分配してもらうつもりだったんだろう。


 そして、その事の確信に至ったのが、その後こいつが全くゲームにINしなくなった事だ。


 ・古名燈色が、自分の発言で姉貴のやつが切れた事を全く気にしてなかったら。


 ・団長に報告されて、ギルドを強制的に脱退されることを全く気にしない奴だったら。


 たぶんこいつは、とっくにギルドを抜けて、一人で悠々とゲームを楽しんでいたと思う。


そして、これが一番の決め手になった理由だ。



 【オフ会に来た事】



 元々ギルドでも一人で居ることがほとんどで、チャットでも会話せず、誰とも一緒に狩りに行かないような奴がだよ?人との関わりを「ほぼ強制されるオフ会に参加したこと」、これが、俺がこいつを信じれた理由だ。


 俺の人見知りな友人は「オフ会とか絶対無理!」って言ってた。そんな奴がオフ会に来たんだよ。きっと、誰かと仲良くなりたかったんだと思うよ。


 で、こいつは人付き合いもへたくそなんだろう。昼休みに中庭でぼっち弁当食ってたくらいだからな。


 なので、オフ会でも当然そう上手く立ち回れるはずもなく、最後には俺と姉貴と同じように(同じではないけど)皆の輪から外れた場所でスマホをいじってたんだ。


 でも、オフ会の件は燈色には黙っておくことにする。そこはあいつの核心に触れてしまう部分だから。


 なので、狩りで一生懸命立ち回りを勉強してた事、里奈の奴がブチ切れた後ゲームにログインしなくなった事を根拠こんきょに、そういう結論に至った事を燈色に告げた。


 燈色は黙って俺の話を聞いてたが、そのうち消えそうな声で語りだした。


「本当は、あそこまでするつもりじゃなかった・・・」


 こいつによれば、俺と姉貴の秘密をだまっておく代わりに、「私も狩りに連れて行って下さい」くらいの軽いお願いくらいのつもりだったらしい。


 ただ、前のオフ会後の経緯いきさつの通り、その事をうまく言葉にできず俺に勘違いをさせてしまった。で、もう後に引けないと思い、姉貴を脅すような結果になったらしい。


「私、ただ、一緒に遊んでくれる人が欲しかっただけなんけど、でも、上手く言えなくて。で、みんなにこんな迷惑かけるような事になっちゃって・・・」


 燈色は目に涙を浮かべながら話している。こいつも相当苦しんでたんだと思う。目を真っ赤にして鼻をすすりながら泣いてるもん。


 俺はまだ17年の人生経験しか無いので、女の子が泣いてる時に取れる行動は一つしかしらない。なので、姉貴が落ち込んでたり泣いてたりするときにいつもやってるように、燈色の頭を「ポンポン」と軽く叩く。


「俺もオフ会の後、お前の気持ちんであげれれば良かったんだけどな」


 そして「悪かったな」と一言燈色にびる。よくよく思い出してみれば、あのオフ会の後の帰り道、あいつは俺に何か言おうとしてたんだよ。でも俺は、めっちゃ頭に来てたから無視してたんだよなあ。ちゃんと聞いときゃ良かった・・・。


 燈色は、「ごめんなさい、本当にごめんなさい」と泣きながら声にならないような声で何回も謝っていた。


 良かったよ、慌てて団長に相談したりせずに、ホント良かった。もう少しで、この前まで中学生だったような奴を思い切り傷つけるとこだった。


 後は里奈にこの事を報告して、それでこの件は解決になると思う。里奈も、細かいことをいつまでもイチイチ気にするような奴じゃ無いしな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る