俺と姉貴がオンラインゲームで付き合ってる話

第11話 古名燈色とキーボード

　俺は古名燈色（ふるなひいろ）が、一体どんな意図（いと）があってあんな条件を出してきたのかを知るために、ゲーム内にログインしていた。あいつが一体何を考えてるのかはわからないけど、とりあえず話は聞いておくべきだろう。

　なのでゲーム内で直接「今会えるか？」とメッセージを送ってみる。

「大丈夫です」

　１０分程経ってから返事が来たので、忙しいなら後でも良いといったら「いえ暇ですから」と、今度は５分程かかって返事が来た。

「いや、返事に時間かかってんじゃん」と返信すると、「今、街の中でぼーっとしてます」と、また５分程かかって返事が来る。

　一体なんなんだあいつは！暇ならすぐに返事かえせやああああ！と、ブチ切れそうになるが、イライラするのは得策では無いので、場所をこちらから指定し、嫌ならそっちが指定してくれとメッセージを送る。

　「OKだったら返信いらないからな」と念を押して。

　だってまた５分かかって返事きそうじゃん。一体なにやってんだあいつ？

　今回の話し合いには里奈の奴は連れて来なかった。何かあるとすぐに大慌てしそうだし、何より本人があまり燈色と会いたく無さそうだったからな。

　ただ、ギルドメンバーには絶対に姉弟ってことはバレたくないとのことなので、「そこだけはくれぐれも気をつけなさいよ！」と、すっげえ上から目線で言われた。

思わず「お前にだけは言われたくねーよ」って言いそうになった。言ったら言ったで文句が来そうだったので、ぐっとその言葉を飲み込んだよ。

　それにしても里奈の奴、異常なほどにバレるの嫌がってるよな。まあ俺も「気持ち悪っ！」とは思うけど、そんな隠すほどのことじゃないと思うんだよ。もしかして世間体、というかネット体？を気にしてんのか？

　そんなことを考えていると、最寄りのワープポイントの方向から、燈色がテクテクと歩いてやってきた。

ダーク「よう、この前ぶりだな。」

　・・・・・・・・・・・・・・

　・・・・・・・・・・・・・・

　・・・・・・・・・・・・・・

　・・・・・・・・・・・・・・

　・・・・・・・・・・・・・・

ヒイロ「どうもお久しぶりです」

「遅えよ！」って、つい突っ込んじゃった。なんで返事に５分かかるの？

ダーク「そういやさっきも遅かったけど、何やってんのお前？」

ダーク「あーそれと、話す場所ここでいいよな？」

ダーク「あ、今日姉貴こねーから」

　・・・・・・・・・・・・・・。

ヒイロ「特に何もやってませんけど」

　おそっ！一番最初の質問に答えるのに3分近くかかったぞこいつ！さっきよりは２分くらい早いな！？

　ちょっと待て！このペースだと、3分後に「話す場所いいか？」への返事が来て、6分後に「姉貴こねーから」への返事が来るの！？いやいや、そんな悠長な事やってられるか。

　あ！こいつもしかして、キーボード打つの苦手なの？

ダーク「なあ、お前もしかしてキーボード苦手なの？」

　この質問には、予めゲームに用意されている「挨拶文（あいさつぶん）」で返答するようヒイロに求めた。

　挨拶文とは、例えば「こんにちは」とか「はい」とか、そういった簡単な定型文（ていけいぶん）がゲーム内に設定されていて、コマンドで選ぶだけで返事ができるようになっている。もしこいつがキーボード苦手なら、こっちで返事させたほうが早い。

ヒイロ「そうだよ！」

　ヒイロのキャラが、すっげえ元気よく返事をする。なんでそれ選んだんだよ・・。他にも「はい」とか「うん」とかあったろうに・・。いや、別にいいけどね、うん。

ヒイロ「話す場所はここでいいです」

　いきなり「そうだよ！」の定型文の後に淡々とした文章がチャット欄に表示される。律儀にも、さっきの質問に対する答えもキーボードで打ってたらしい。いかん、こいつとチャットで話してると調子が狂う。

　ここは不本意だが、スカイポで話すのが手っ取り早くて良いかもしれん。信用出来ないこいつにスカイポの番号教えて大丈夫なのか迷ったが、考えてみりゃ里奈としかスカイポやってない俺に死角はなかった。まあ、いざとなったら番号かえりゃいいしな。

　で、ヒイロにスカイポ持ってるか聞いてみると、意外なことに持ってるらしい。

「お前誰とスカイポしてんの？」とか聞いたらまた時間かかりそうだったので、とりあえず俺の番号をプライベートメッセージで教える。

　プライベートメッセージとは、第三者に見られたく無い内容をやり取り出来る機能だ。一応、ネットゲーム運営の会社でも、緊急時を除いて見れない事にはなっている。

ダーク「とりあえずスカイポを起動してくれ」

ヒイロ「スカイポって、どうやって起動させるんですか？」

ダーク「そっからかよ！」

　で、結局話せるまでに１時間くらいかかった。

　ヒイロの奴、スカイポをダウンロードしたのに話せる相手がいなかったので、今始めて使ったらしい・・・。普段はスマホアプリしか使わないんで、PCでそういうソフトを起動させたことがないんだと。そんな奴が、よくもグラフィックボードを積んだPCなんか持ってたよな。

　こいつもしかして、リアルでも友達いないの？いや、あの不器用すぎる他人との接し方見てるから、薄々感じてはいたけどさ。うーん。

「で、ここに呼び出した理由なんだが・・・」

　俺は気を取り直して、とりあえず予定通り燈色の真意を聞き出すことにした。めでたくスカイポもつながったので、キーボードでやり取りするよりはましだと思う。

　まあ、どっちにしてもあんまり喋る奴では無いから、俺が思っている通りに話が進むかどうかはわからんけどね。

真司「聞こえてるか？」

燈色「はい」

真司「じゃあ、話し合いを始めますかね」

　そう言って、俺はあまり気乗りしない燈色との話し合いをスタートした。