第10話 わけわかんねー

俺は駅のちょっと手前の道路で、古名燈色ふるなひいろと対峙していた。


「あなたとエリナさんが実は姉弟で、しかも姉弟なのにゲーム内で付き合っているということをバラされても本当にいいんですか?」


「言いたきゃ言えばいいじゃねーか」


 俺は別に大したことじゃない風にヒイロに言ってやった。実際問題、そうなったらそうなったで、「レッドリング使いたいから恋人宣言してましたー、てへっ」って言えば済む話だしな。

 

 しかし、改めて姉弟で付き合うとか口に出されると、気持ち悪いことこの上ないね。


「なんでですか?」


 おーおー燈色の奴、明らかに動揺してるぜ。このネタを出せば絶対オレが言うこと聞くとか思ってたんだろうな。甘いぜ!


「あのな?俺にとってそのくらい、恥ずかしいとか思えるレベルじゃないんだよ」


 古名燈色には、俺が今日一日で体験した出来事を赤裸々せきららに語ってやった。


 まずは、往来おうらいで大声で「ダーク君」と呼ばれた。あれはすげえ恥ずかしかった。ダーク君だぞダーク君。


 あと、自己紹介までは匿名とくめいだったにも関わらず、事前にキャラ名をバラされた上に、名前ネタで散々いじられた。特に、明海あけみさんに最初から最後までいじり倒された。


 姉弟で散々皆様に御迷惑をかけた。特に千隼ちはやさんに二人共お世話になったしな。


 そして最後には、再び明海さんにやられたし!あんな人通りの多いとこでダークとか呼ぶし、人を変質者扱いするしで、最悪だよ!


 今日一日でギルド内での俺の立ち位置が決定的なったな・・・。何より、千隼さんにはあんな目で見られたのが悲しすぎるぜ。


 あ、そういえば燈色の奴、俺が明海さんにいじられてるのを見て、プルプル震えながら笑ってやがった!あと、シカトもされたな!くそー、今考えると無性に腹が立つな。


 あと、こいつに言う義理はないから言わんけど、姉貴との約束をすっぽかした上に、姉貴に逆ギレしようとしてたこと。そりゃもう、今日の俺は情けない出来事のオンパレードだ。今更、姉弟であることがばれた所で痛くもかゆくもねーっつーの。


「今更恥ずかしい事の一つや二つ増えた所で、痛くもかゆくもねーんだよ!」


 どうだ!?言葉もでないだろう?


「本当に恥ずかしいですね・・・・」


 物凄い哀れみの目で、美少女JK古名燈色に見られた・・・。やばい、涙目になりそう!


「と、とにかくだ!別にばらしたきゃばらせよ。俺は別に構わないよ」


 それだけ言って、俺はとっとと駅に歩き出した。


「あ、・・・・」


 俺が歩き出したのを見て何か言いかけようとしてたみたいだけど、俺が全く聞く姿勢を見せないからか、諦めて黙って後ろから付いてくる。


 てか、とんでもない奴だなこいつ。まさか、弱みを握って脅しをかけてくるとは思わなかった。


 これ、後で団長に伝えといたほうが良いだろうか?ギルド内にあんな奴がいたんじゃ、今後何をやらかしてくれるかわかったもんじゃないしな。


 いや、でもなあ。今まさにネカフェで盛り上がろうとしてるところだからな。水を差す必要もないだろう。明日以降、ゲームにログインした時にでも相談しよう。


 そしてその日はゲームにはログインせずに、色々疲れたんでそのまま眠りについた。



「真司ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!」


 次の日、学校から帰って昼寝してた俺は、里奈の奴の馬鹿でかい声で強制的きょうせいてきに目覚めさせられた。そのまま部屋に走りこんできて、俺の上にどんっ!と乗ってくる。


「ぐえええええっ」


「どうしよう真司!?」


 しかしそんな俺の苦しそうな声は無視して、里奈は話しかけてくる。


 首根っこを掴みながら! 


 里奈の顔を見ると、めっちゃ青ざめてて、何かただ事でない事態が起きていることがわかった。


「と、とりあえず落ち着け」


 そして俺の首を締めているその手を離せ!じゃないと死んじゃう!俺が!


「こんな時に落ち着いていられるわけないでしょ!ばかっ!」


 里奈のやつ、「どうしよう!><」って感じで、本気で焦ってるようだ。こんな時はとりあえず話をさせながら落ち着かせるに限る。とりあえず、何があったか話すよう俺は姉貴に促した。


「あのね・・・、燈色ちゃんに私達が姉弟だってバレてたの!」


 ああ、つまり燈色の奴、俺が全然困ってない感じだったから姉貴にゆさぶりをかけたって事か。うん、それ大正解だ。俺の目の前には、恐らく燈色の思惑以上に慌てふためいている姉貴がいるからな。


 簡単に言うと、今日の夕方、つまり俺がゆっくり昼寝をしてる時ね。大学から早めに帰ってきた里奈は、ルンルンでゲームにログインしたらしい。で、ヒイロから呼び出されて、姉弟だってことバラしますって言われたようだ。 


「あーなんだ、そんなことか」


 俺は大したことじゃない風に極力きょくりょく言ってやった。ここで俺まで慌てると、こいつのあせり具合が頂点に達するからな。へたに俺まで慌てると、ますます追い詰めちまう。


「そんな事か、じゃないでしょ!バカ!この事ばらされたら、私恥ずかしくてゲームなんか出来ないよ!」


「俺と姉弟なのはそんなに恥ずかしいですか・・・」


 里奈のあまりにもひどい言い様に、俺は盛大にショックを受けていた。


「違うわよ!あんたと私が姉弟なのに付き合ってるとかばれたらって事でしょ!」


 あ、そっちか!びっくりしたぜ・・。まだ昨日までの事根に持って怒ってるのかと思ったわ。それと、あくまでも付き合ってる「ふり」だからね「ふり」!


「そのことなら俺も昨日言われたよ。」


 俺は昨日のオフ会からの帰り道での、古名燈色との会話を簡潔かんけつに里奈に教える。バレても困らないって返事した事も含めてね。


「バレるのはダメ!困る!」


「別に良くないか?理由話せばギルドの皆もわかってくれるでしょ。」


 実際ゲーム内では、恋人だけが装備できるレッドリングの性能目当てで、別に好きでもないのに恋人申請してる奴も居るらしいし。特に高レベルプレイヤーの間では、当たり前にやってるって聞いたことがある。


「却下!」


 里奈の奴、ぷいっと顔を横に向けて、頑なに拒否しやがった。別にそんなに嫌がることでも無い気がするんだがなあ。たぶん、うちのギルドで気にする奴なんかほとんどいないぜ。


 明海さん辺りに盛大にからかわれるくらいでな。・・・それはそれで嫌かも。


「だったら、あいつの言うこと聞くしか無いじゃん」


 俺は嫌だけどな!人を脅して言うこと聞かせようという魂胆が気に食わない。


「そもそもあいつ何が目的なんだ?それは聞けたのか?」


 まあ、俺と里奈を脅す目的なんて限られてるけどな。

 

 俺はともかく、里奈の装備とか狩りで手に入れたレアアイテムをよこせとか、そういう類(たぐい)だろう。


 ちょっと前に「エリナ」の装備を見せてもらったが、正直俺が見たこともないような装備ばっかりで、若干引いちまった。俺のレベルとか装備って、中級者のど真ん中を行ってるような装備なので、俺が知らないって事は、里奈の奴がしてる装備はかなり性能の良い物だと思う。


 このゲームは、一人でもプレイ出来ない事も無い。だけど、レアアイテムを手に入れるには、それなりに長い時間狩場に居ることが前提になってくるんだ。レアなアイテムだけに、すぐに手に入ることはめったに無い。後、高いレベルが求められる事も多いので、一人じゃレア装備集めは難しい。


 それに燈色の場合、あいつの職業は回復役である「僧侶」だ。なので、単騎でレアアイテムが出る狩場に行くことは難しい。まあ、里奈くらいの装備とか召喚獣しょうかんじゅうを使えるレベルがあれば話は別だけどな。そして俺は、燈色が誰かと狩りに行ってるのをあまり見たことがない。


 だとすれば、やはり装備をよこせか、レアアイテムの横取りが濃厚(のうこう)だろう。


「それがなんか「狩りに行くときは」それが条件だって」


「は?それだけ?」


「それだけ」


「そこで出るアイテムを寄越せとかじゃなくて?」


「その可能性も聞いたら、「レアイテムは分配でお願いします」って」


 なんだそりゃ?俺たち姉弟の弱みを握って、それで脅しをかけた目的が、狩りに一緒に連れてけ?わっけわかんねー。いや、そもそもあいつはわけわかんないんだけどさ。


「もおおおおお!せっかくゆっくりゲーム出来ると思ったら、なんでこんな事になるのよ・・・・。」


 里奈の奴、がっくりと肩を落としてやがる。


 うーん。とりあえず、ゲーム内で本人に直接会って聞いてみるしか無いか・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る