第二章 俺と姉貴と微少女と

第9話 別に困らないよ?

「はーはっはっはっは!久しぶりだなダークマスター!いや、黒を征するもの!」


 その声っつーかこのセリフが、ゲームのチャットらんに見えたた瞬間、俺は頭を抱えそうになったね。よりによってこのタイミングで登場してくれるとは・・・。


「あ、うん。久し振りだねグラマン」


「グラマンと呼ぶなと言ったであろう!!」


 俺のセリフで発狂しているのは、俺と同じ職業「剣士」の「グランドマスター」って奴だ。ニックネーム「グラマン」


 これで呼ぶとめっちゃ喜ぶから会う度に言ってやってる。同じマスター繋がりってことで何かとからんでくるんだ。


 普段ならこいつと狩場で会ったからって、別にどうって事はない。あいつが一人で喋ってる間にこっちはせっせと狩りにいそしんどけばいいからな。


 あ、こいつのうざい話し方は、本人に言わせるとロールプレイしてる証だ!との事だ。まあ、正しい遊び方だとは思う。


 うざいけどね。


グラマン「さっきから全部聞こえているぞダークマスター!」


ダーク「あれ?俺、声に出しちゃってた?。てへっ。」


グラマン「てへっ、ではなーーーい!」


 今グラマンと話しているのは現実世界ではなく、オンラインRPG「ザ・ブラックアース」の深淵しんえんの森という場所だ。


 オンラインRPGってのは、普通は一人で遊ぶRPGを、世界中の人間と一緒に冒険できるシステムを持ったインターネットのロールプレイングゲームのことだ。

 

例えば、俺が剣士でもう一人が魔法使い、最後の一人が僧侶みたいな感じにね。その冒険を、別々の場所にいながら、インターネット上で一緒に遊べるんだ。もちろん、チャットと言う文字で会話も出来るので、他人との会話も可能だ。


 なので、気の合う奴らと一緒にプレイすれば、それはもう楽しい空間になるのは間違いない。


 ただ、気が合わない奴と一緒に組んだりすると、そりゃあ最悪なことになる。例えば、今の俺達みたいにね!


「あんたが右に行ってみようとか言うから来たんじゃない!」


「先輩は、人に死ねって言われたら死ぬタイプですか?」


「そうじゃないわよ!あんたがどうしてもって言うからこっちに来たら、完全に迷ったことを言ってんの!」


「先導したのはエリナ先輩です」」


 むううううううううううう!と睨み合う二人。


 俺がグラマンと仲良く話してる間も、二人は喧嘩けんかを続けていた。というか、このダンジョンに入ってからずっとこの調子だ。いい加減うんざりしてきた。


 一人は俺の姉で、ゲームキャラクター「エリナ」を操作する「黒部里奈」もう一人は、「ヒイロ」を操作する「古名燈色ふるなひいろ」ヒイロは俺と同じ高校生で、学年はひとつ下の1年生だ。


 そして、その喧嘩をぼけーっと聞いてるのが「ダークマスター」を操作する俺「黒部真司」


 俺たち3人は休日を利用して、朝からオンラインゲーム「ザ・ブラックアース」で遊んでいた。いつもの狩場である「深淵の森」にやってきたはいいが、たまには違う狩場にいってみようということになり、見事迷子になってしまったんだ。


 で、上のように姉貴とヒイロが言い争ってるわけ。スカイポって無料ネット通話を使ってるんで周りの迷惑にはなって無いのが救いか。俺には100%迷惑かかってるけどね。


「なあ、ここで言い争っても何も解決せんだろうが」


 うんざり度数が限界値を超えようとしていたので、さすがに口を挟んでみた。


「あんたは黙ってて!」

「先輩は黙ってて下さい」


 はい、2倍になって返ってきましたよ。こんな時だけ息ぴったりか・・。言わなきゃよかった。


 そもそも、姉貴は「回復役」の職業だ。そしてヒイロも「回復役」だ。そして俺が剣士ね。なので、剣士一人に回復二人という非常にバランスの悪いことになっている。


 普通はさ、3人だったら「剣士1、回復1、補助1」とか「剣士2、回復1」とかがセオリーなんだ。今の状況だと完全にヒール過多になっている。じゃあなんでこんな状況なのかっつーとそれには理由があった。


 今から1週間ほど前、ブラックアース内の俺が所属するギルド(チームね)である、「自由同盟」のオフ会があったんだ。そのオフ会で、俺がゲーム内で師匠としたっていたエリナが、実は自分の姉であることを知ってしまう。


 で、なんだかんだあって、俺とエリナが姉弟であることは皆には内緒にしておくことになった。俺は別に公表しても構わなかったんだけどな。


 そのオフ会の帰り際に俺はヒイロと駅が一緒だからって、ギルドマスター「団長」にヒイロを駅まで送っていくように言われたんだ。あれは、夜8時を回ったくらいだったと思う。


「エリナさんと黒を征する者ダークさんが姉弟って事を、ギルドの皆に言わなくていいんですか?」


 まだ人通りもそこそこある駅前の通り道で、ヒイロが突然そう言ってきた。俺はヒイロのその言葉に驚愕きょうがくしたね。

 

(なんでこいつ、俺とエリナが姉弟だってしってるんだ・・・?)


「私がその事を知ってるのが不思議だって顔してますね」


「当たり前だろう、なんで知ってるんだよ!」


 俺は驚きのあまり、少し声が大きくなっていたようだ。近くを歩いていたサラリーマンが「何事だ?」みたいな顔で俺らを見る。

 

「あと、お姉さんとゲーム内で恋人になるんですよね?」


 そ、そっちも聞いてましたかあああああああああああああ!里奈と姉弟だってことだけならともかく、ゲーム内で付き合うことになっているのを聞かれたのはちょっと色々つらい。


「で、なんでお前がそれを知ってるんだよ」


 こいつはオフ会の間中、ほとんどスマホばかりいじってたはずだ。聞いてるそぶりなんか全く見せなかったのに。


「別に盗み聞きなんかしてません。普通に聞こえてましたから」


「え?そうなの?」


 そう尋ねる俺にコクンとうなずく古名燈色。


「まあ、団長さんまでは聞こえてなかったと思いますけど、私にはばっちりでした」


 と、表情を変えずにVサインを俺に送ってくる古名燈色。


 まじですか・・・。いや、考えてみれば俺と姉貴の二人共、結構興奮して話してたから、近くに居たこいつには聞こえてた可能性はあるな。何しろこいつはオフ会に来たと言うのに皆と話すのを嫌がって、俺らと一緒に皆と離れた所に居たんだ。俺と姉貴は団長に変な気を使われて、二人きりにされたんだけどね・・。


「まあ、それで?」


「それで?とは?」


「それを俺に話したって事は、なんか目的があるってことだろ?」


 まあ、ろくな目的じゃ無さそうだけど。

 

「そうですね。姉弟で付き合ってるとか知れたら、二人共困りますよね?」


 ほらな!絶対ろくな事じゃないと思ってたよ!というか、定番の展開すぎてため息しかでねーよ。


 ようするにだ、こいつは俺と姉貴の弱みに付け込んで、何か自分の利になるようにしようとしてる。もしかしたら、オフ会に参加したのも、誰かの弱みに付け込もうとしただけかもしんないな。とんでもないやつだぜ。


 だったら俺の答えはこうだ。


「別に困らないよ?」


「そうでしょう?だったら・・・・・・へ?」


 夜の駅前通りに、美少女ネットゲーマー「古名燈色」のマヌケな声が響き渡った。

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