第12話 燈色の要求

 スカイポ登録したので、キーボードの苦手な燈色でもこれでOKだ。返事に5分かかる恐れがなくなったので、俺は遠慮なく古名燈色に質問することに。


「とりあえずお前の本当の要求が知りたいんだ」


 俺は変な言い回しなどはせず、ストレートに疑問をぶつけてみた。どうせ遠回しに言ってものらりくらりかわされそうだからな。


「要望なら伝えましたけど?」


 すげえ不思議そうな声で答える燈色。まあこの答えは予想していたので、もっと深く踏み込む。


「だから、一俺たちと一緒に行動するだよ。」


 そもそも俺は、こいつの言葉を額面通りには受け取ってない。大方一緒に狩りにいって、敵からレアアイテムが出たら横取りするとか、そんな所だろうと思ってる。


「言葉通りです」


 なんかこいつの淡々とした返事を聞いてると、本気でそう思ってんじゃねーの?って気になってくるな。だが、姉貴や俺を脅してまで要求してきたのが「一緒に狩りに連れてけ」ってのは、あいつが背負うリスクに対して得るものが少なすぎるんだよ。


 考えても見ろよ。俺がこいつの脅しに屈しないってのは、オフ会の帰り道での俺とのやり取りで身を持ってわかっていると思う。


 へたしたらギルドマスターである団長に報告されて、最悪ギルドから追放される可能性まである。そんなリスクを負ってまで俺達に求めるのが「一緒に狩りに連れてけ」?ありえんだろ。まあ、追放されることを燈色がリスクと思ってたらの話だけどな。


「どうせアイテム寄越せとか、そんな要求したらギルドから追い出したりするんでしょ?そんな馬鹿な事はしませんよ。」


 うーむ、考えてることが声に出てたか?。とは言え、今の言葉から察するに、やっぱりギルド追放されるのは嫌だって事になる。


「本当に、一緒に狩りにいくだけか?」


「はい。当然、レアアイテムの分配はやってもらいますけど」


 今のやり取りじゃ、あいつが嘘を言ってるようには見えない。仮に、あいつがレアアイテムを含むゲーム内の金銭的な要求をしてきた場合、躊躇ちゅうちょせずに団長に言うつもりだ。


 燈色だって、里奈はともかく、俺だったら団長に言うくらいやりそうってのは、この前のやりとりでわかってもらえてると思う。


 だとしたらだよ?ここまでわかってて、それでも尚、脅しをかけて俺達と一緒に狩りに行って何すんのこいつ。


 へたな事したら、俺が即行動するのはわかってる。あいつの言葉からすると、ギルドを出されるのは嫌だって事になる。


 その上で、「バラされたくなければ、一緒に狩りに連れて行け」と脅してくる。で、一緒に狩りに行って一通り遊んだら普通にレアの分配して終了。


 いやいや、最早これもう脅しとは言わんぞ?ただ単に、俺たちと狩りに行って、普通に遊ぶだけじゃねーか。しかもギクシャクした中で!真正のドMか何かか?


 まあとにかく今の所、俺らに不利な要素は見当たらないっつーか、ギルド追放の可能性を考えたら、あいつの方が不利な状況だな・・・。


「わかった。その条件受け入れよう」


 特に俺らに不利な要素も見当たらないので、とりあえずは要求を飲むことにした。少しでも変な素振りみせたら、即、行動するけどな。里奈はともかく、俺は姉弟って事も付き合ってるふりをしてる事も、ばらされても一向に構わんし。


 しかしなんだろう?なんかあいつの言うことに、妙な違和感いわかんを感じるんだよな。具体的にどうこう言えるレベルではないんだけどさ。


 まあ、そういうわけで俺と姉貴に加え、今後は古名燈色が一緒に狩りに行くことになった。まあ、あいつがログインしてる日だけだし、どうにかなるでしょ。


とか考えてた俺が甘かった。


 この美少女ゲーマー古名燈色、職業は里奈と同じ「僧侶」なんだが、圧倒的に回復スキルがなってなかった。


 というか、狩りの間、ずーっと里奈の真似しかしない。


 里奈が俺にヒールしたら燈色も俺にヒール。

 里奈が俺に防御アップの魔法をかけたら、奴も俺に防御アップ。

 里奈が俺にダメージ50%減をかけると(以下略


 ずーっとこんな調子なのだ。


「あんたいい加減にしなさいよ!」


 なので、里奈のやつが燈色にブチ切れるのは時間の問題だった。


「何がでしょう?」


「さっきから私の真似ばっかりしてるじゃん!」


「はい。」


「はい。じゃないわよ!もうちょっとちゃんと仕事しなさいよ!」


「ですが、私は一緒に狩りに連れて行けと言っただけで、PTとしての仕事をするとは一言も言ってません。」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!」


 いかん、里奈の奴、19歳の女子が出してはいけないような声を出し始めた。


 里奈(美少女)と燈色(美少女)の間に挟まれて、さぞ嬉しかろうという声が聞こえてきそうだが、一人はすぐにテンぱってしまう姉で、一人は何を考えてるかわからん奴だぞ。そして口を開けばこんな感じだ。俺の身が持たねーよ・・(泣


「あー、落ち着け里奈」


 とりあえず俺は姉貴をなだめることにする。なんで私なのよ!?みたいな顔を一瞬するが、あいつはあいつで脅されている事実は一応頭の片隅かたすみにあるらしく、不満を口に出したりはしなかった。


 さて、これまでの狩りで古名燈色は、里奈の真似まねばかりしてはいるものの、とりあえず俺達の狩りを物理的に邪魔じゃましたりは一切してこない。それどころか、あまりに高額なレアが出た場合には、なんと辞退さえして来ている。もちろん「なんで?」って聞いたさ。そしたら


「特に私が役に立ったとは思えないので」


 とかぬかしやがった。


 俺らを脅して狩りに一緒に来て、アイテム横取りするわけでもなく、さらに高額レアが出たら辞退?一体どういう脅迫なんだこれ。


 ただ、こいつの一連のやり方っつーか、あいつの行動から俺はある一つの仮説かせつを立てている。俺がこの前から、実を言うとオフ会の時から感じていた、こいつに対する違和感の正体みたいなものが、なんとなく形になってきた気がするんだよ。


 ただ、はっきりと言葉にはできないもやもやしたものなので、俺としてはもうちょっと様子を見たかったんだ。


 しかしその考えは甘かった。


 次第に里奈と燈色の言い争いはヒートアップして行き、ついにあの「ギルドチャット誤爆ごばく事件」へと発展してしまう。

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