漢字4字の地名の妙。

ロコ

第1話

大学の頃、バス通学をしていた。

大学までのバスルートは2通りあり、普段使うルートと使わないルートがあった。

時間がかかるため普段は使わないルートも、ごくごく稀にバス時刻との絡みで利用することがあった。

その「ごく稀」に出くわしたある日、そのルートを通るバス停の名前に強烈に惹かれた。

「次は、堤通雨宮、堤通雨宮です。」


『堤通雨宮』(つつみどおりあまみや)。


何て素敵な響きの名前なんだろう。

急にハイセンスな街に来たような、そんな錯覚を覚える美しい地名だ。私は無性にその名前を気に入り、その由来を調べた。

この地名は、正しくは『堤通雨宮町』であり、「町」と銘打ってはいるが、仙台の中心部から少し北に位置する、東北大学農学部を含んだごくごく僅かな地域のことを指す。因みに農学部のことを「雨宮キャンパス」というようで、此処の住所は「堤通雨宮町1-1」。

地名の細かな由来までは分からなかったが、昔「堤人形」を作っていた所が連なっていた地域や通を『堤通』といい、そこから少し南下すると「雨宮神社」という神社があり、その2つを掛け合わせて出来た地名のようだ。

兎も角、『つつみどおりあまみや』という響きや『堤通雨宮』と漢字で表した時の字面に、重厚かつ気品のある美しさを感じずにいられなかった。


✳︎


時は過ぎ、都内に通勤圏内の関東に住むことになった。

出てきたばかりの頃、折角なので世田谷に住む親戚に会いに行き、一緒にご飯を食べた。会話中、時折出てくるフレーズに『フタコタマガワ』があった。漢字にすれば『二子玉川』である事は明白であるが、当時の私は関東に出てきたばかりで、それがどんな街なのか、何がある街なのかさっぱりわからない。後からそれが、再開発ががんがん進む自然と都会が調和したハイセンス(2回目)でセレブな多摩川沿いの注目スポットだと知るわけだが、とにかく『フタコタマガワ』という響きが私の中に引っかかった。


✳︎


私は基本的にミーハーな人間であると自覚している。其れも中途半端なミーハーである。だから、コーヒー界のAppleと言わしめる、所謂サードウェーブコーヒーの雄『ブルーボトルコーヒー』が日本に初上陸(厳密には「再上陸」のようであるが)と聞いて、黙っていられない。ニュースを見て、あっという間に「行ってみたい!」となり、連日大行列の数時間待ちと聞いて、あっという間に萎える。結局のところ、大行列も落ち着いたつい先日、やっと行ってきた。

なぜ私が今まで話の流れをぶった切ってこんな話をしているのか、察しのいい方はお気付きかもしれない。

そう、「ブルーボトルコーヒー&ロースタリー」の、ブルーボトル初上陸1号店のある地名である。


『清澄白河』(きよすみしらかわ)。


これはもうサイッッコーにカッコイイ。

地名の見た目も響きもカッコイイ。でもどんな街なのか、何があるのかさっぱり分からない(2回目)。調べてみると、美術館やギャラリーが点在し、下町風情も残る閑静な住宅街で、オシャレでハイセンス(3回目)な雑貨やカフェの増えているアーティスティックな街であることが分かった。

というか、よく考えたら過去に行ったことがあった。東京都現代美術館に。でも、その頃は地名を意識しておらず、目的の企画展に向かって真っしぐらだったので、降りた駅は『清澄白河』だったのに、アンテナには引っかからなかった。因みに企画展よりも常設展に感動して帰ってくるという顚末だったことを憶えている。


閑話休題。

こんな美しい地名なのに、由来を調べると「清澄さん」と「白河さん」という人の名前である、というちょっと残念な由来。とはいえ、「清澄(清住)さん」はこの地域の開拓者、「白河さん」は何とかの松平定信のことで、白河藩主出身の彼のお寺がこの地域にあったため、ということらしい。


✳︎


さて、私が惹かれた地名には何れも共通点がある。

ひとつ目はもちろん「漢字4字」であること。

そしてふたつ目は「訓読み」であること。

漢字4字の畳み掛けるような重厚感と、日本古来の訓読みのまろやかな響きが相まって、強くて優しい地名になるのではないだろうか。

同じ「漢字4字」でも「音読み」だといまいち惹かれない。やはり『赤坂見附』とか『会津若松』とか、兎に角「漢字4字の訓読み」がかっこいいと感じるのだ。


地名って面白い。


〈了〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

漢字4字の地名の妙。 ロコ @hiroko165

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ